23.【アンフィスバエナ②】 改
残酷なシーンがあります。
苦手な方はお気を付けください。
前方の結界側の双頭、後方の双頭、それぞれを隊員五名ずつが取り囲む。結界と前方の双頭の間に、二名の隊員が同時に土魔法【岩の絶壁】で壁を作る。作った壁はアンフィスバエナが吐く強力な酸と、体当たりによって少しずつ崩され、また修復するということを繰り返す。
左側の頭が酸を吐き、右側の頭が体当たりして壁を壊す。双頭による連携攻撃。右側の頭が土壁を体当たり攻撃し反り返ったところで、横から風魔法【風の刃】を続けざまに繰り出す。硬いアンフィスバエナの皮を少しずつ傷つけ、切創を刻んでいく。
右側の頭を攻撃をされた事に怒り、左側の頭が隊員に向いて強力な酸を吐く。それを氷魔法【氷の楯】で防ぐ者、身体強化【飛躍】で躱す者。その間に双頭は攻撃を入れ替え、右側の頭が土壁に酸を吐き散らす。
大きな窪みが出来た壁を次々に修復して行くが、それでも少しずつ壁は薄くなっていく。そして土魔法で壁を修復していた隊員に向いて、左側の頭が酸を吐いた。【飛躍】で飛び上がり避けたはずの隊員は、一瞬反応が遅れたのか左足に強力な酸を浴び激痛に声を上げた。
「ぐわぁぁぁっっうぅ」
床に身体を叩きつけ、顔を歪ませた隊員。
「ライフィス!」
ウイル・グランデの声が洞窟の中に響きわたる。土魔法を使える戦力を一人失い、壁を修復する速度は半分になった。益々土壁が薄くなっていく。
後方の双頭はレオ・クラネルと他四名の隊員が対峙していた。先に動いたのはアンフィスバエナ。
双頭が同時に半放射状に強力な酸を撒き散らし始める。それをクラネルは身体強化【超加速】によって回避し、勢いを増して右側の壁を垂直に駆け上り、左に走って双頭の後ろに回り込んだ。そして左の頭の後頭部に【魔力吸収】で強化した、バスターソードを振り下ろした。深く刻まれた傷からは血飛沫が上がり、それと同時に傷口から黒い霧が立ち上る。
──── グギャァ ギィィ ────
他の隊員が、後方から脳天に剣を刺し一気に首筋を下に切り裂いていく。続けざまに口の中に爆発魔法【火槍の爆】を他の隊員が打ち込む。痛みにのたうち回り、首を壁に打ち付け左側の頭は動かなくった。
その間にも右側の頭は、隊員目掛けて酸を浴びせる。一人の隊員が【氷の楯】で酸を防ぎ、その横から他の隊員が【風の槍】を首元に三本突き刺した。
──── ギギャァァァ ググェゴフッ ────
咆哮を上げ首を大きく後ろに逸らせた瞬間、首の付け根をクラネルがバスターソードで一気に切り落とした。その瞬間血飛沫を上げながら右側の頭は体から横滑りし、床に落ちる前に黒い霧となって消え去った。
後方の双頭がやられた事に激高するアンフィスバエナ。前方の双頭が同時に土壁に身体を打ち付け、その衝撃で薄くなっていた土壁は、ついに崩れ落ちた。土壁の向こう側に再度現れた結界。
双頭は今まで以上に胸を膨らませ、強力な酸を大量に結界へかけ続ける。防御よりも攻撃を優先したアンフィスバエナ。グランデは顎下から右の頭に剣を突き刺し、抵抗された勢いで壁に叩きつけられた。他の隊員も、アンフィスバエナの胴体に剣を突き刺す。
クラネルはアンフィスバエナの背中を掛上り、左の蛇の後頭部に剣を突き刺した。剣を抜いた瞬間に吹き上がる血飛沫。爆発魔法で止めを刺そうとしたその時、自分達の後方から回復魔法【回復】がアンフィスバエナに飛んできた。
キラキラとした光に包まれ、一瞬で傷が回復したアンフィスバエナは、既に息絶えている後方の双頭の頭を振り回し、結界に思い切り叩きつけた。その瞬間、なんとか持ちこたえていた結界は、ガラスが砕け散るように、パラパラと足元に崩れていった。
振り向くとそこには、黒尽くめの男が満身創痍のボロボロの状態で立っており、その後ろを追ってきたルーカス・ギブソンの左腕は失われていた。
「「「隊長!!」」」
「俺は大丈夫だ。絶対に卵を守れ!!!」
「レオ、黒尽くめは俺達に任せろ」
グランデの言葉を聞いたクラネルは、結界の向こう側、竜王の寝床に足を踏み入れた。
そこは先程までの結界の青白い光のみの空間とは違い、明かりが灯されたような優しい光に満ち溢れていた。しかし、土壁で遮る前に間違いなく卵があった場所に、その姿がない。焦り辺りを見回すと、壁際にある竜の像の足元で、卵を両腕で抱え、しゃがみ込んでいるユイを発見した。
「ユイさん、なんでここにいるんだ!!」
ありえない状況に、竜王の寝床に足を踏み入れた隊員達全員が、言葉を失った。




