11.【楓の葉】 改
三人で話し合った結果、午前中と夕方以降は、部屋でキャロルさんにこの国の常識や知っておくべき知識を教えてもらい、午後はレオさんに王城敷地内を案内してもらうことになった。
特にレオさんは、副隊長としての業務も並行しての護衛になる。だから午前中と夕方以降に書類整理などを行える方が業務に支障をきたさないと言うことで、そういう分担に決まった。私が部屋で一人になりたい時は、もちろん一人にしてくれるらしい。
だがどんな理由があろうと、この宿舎外に一人で出ることは出来ないと言われた。王城敷地内といえ、念の為だという。
午前中のキャロルさんとの話は、雑談になってしまったと言っていいかもしれない。特にこの国の恋愛事情とオシャレの話では盛り上がってしまった。それはどの世界でも女性の共通の話題なのだろうか。
恋愛経験がない私だけど、耳年増ではあるのだ。高校、短大と友達の恋愛話を聞いて、いつか私もそんな恋がしたいなと思った事は何度もある。
まぁその逆で、浮気とか二股とか金銭問題とか、出来れば経験したくない話も耳にしたけれども。
親友の有希と健太みたいに、お互いが支え合えるそんな相手に、いつか私も出会えるって思ってる。
でもそれは、どっちの世界でなんだろう? いつか元の世界に帰るつもりなんだし、この世界で恋愛はありえないかな。そんな事を思いながら、今私はキャロルさんの元彼の浮気話しを聞いている。
オシャレの話と言えば、私の今日の服装は敷地内で目立ちにくいようにと、私サイズの騎士服を用意してくれた。胸に国の紋章が入っていない、白い襟付きシャツと濃紺のフレアスカート。女性騎士はズボンとスカートの好きな方を選べるのだが、大抵の女性騎士はズボンを選ぶらしい。
私もキャロルさんと同じズボンを希望したのだけれど、私には裾丈が長く、直ぐに調整出来ないためスカートを履くことになった。裾は長めで足首が見えるくらい。この世界では短くても膝下10cmらしい。
私がこの世界に来た時に着ていたワンピースって膝上10cmだったけど、大丈夫だったのだろうか?
ちょっと心配になったけど、もう遅い。
他に教えてもらったことはといえば、この世界の時間と魔力について。 この国の時間を、日本の時間に置き換えると
一刻=一時間
半刻=三十分
三半刻=二十分
四半刻=十五分
六半刻=十分
こんな感じで、それより短い時間は適当で、分とか秒という概念はないんだとか。 せかせかしていない時間の流れはとても生活しやすく、私には合っているのかもしれない。
「魔力って、皆もってるものなんですか?」
「そうですね。強い弱いはありますけど、弱い人でも魔道具の稼働は出来ますね。ただ弱い人は、そのまま維持することが難しいので、補助として魔石を使います」
「魔石とは?」
「魔力が凝縮された石で、魔道具を動かすエネルギーです」
魔力がスイッチで、魔石が電池ってことね! 前にシャワーのお湯が出た時、キャロルさんが言ってたのはこのことだった。
時計の針がお昼を指して間もなく、レオさんが部屋を訪ねて来た。
「昼食は三人で食堂で食べないか?」
「いいんですか?」
嬉しくて思わず大きな声を出してしまった。
「一人で食べる食事が味気ないと言ってただろ!?」
クスっと笑みを漏らしながら、レオさんが問いかけてくれる。
「そうなの。一人で食べても美味しくないの。いや、今のままでも充分美味しいですけど、寂しいの」
美味しくないなんて失礼なこと言っちゃったと、慌てて訂正する。
「そうね、三人で食べた方が美味しそうね。それに、昼から王城内案内する予定だったし」
キャロルさんも同意して、私達は早速食堂棟へと向かった。
そういえば、この宿舎に来てから初めての外。正直最初にこの宿舎へ来たときの、周りの状況とか全く覚えていないのだ。馬から降おろされそのまま部屋に運ばれた時の事を思い出し、私は少し前を歩いている自分より30㎝近く背の高い男の後姿を見て、少し恥ずかしくなった。
顔が少し熱くなったような気がして頬を触ると、隣を歩いているキャロルさんに「どうしたの?」と聞かれたけど、作り笑いで「なんでもない」としか答えられない。うん、あの事は忘れよう。
宿舎を出るとそこには、木の柵が数メートル間隔で打ち込まれており、数頭の馬が括り付けられていた。
「この馬は触っていいの?」
「ユイ様は馬が怖くないのですか?」
レオさんの話し方の変化で、ここからは竜母様として接しますって言われた気がした。
「はい、動物は大好きです」
「それなら、そこにいるクレイに触ってみますか? とても大人しい馬です。こちらに来て、名前を呼んでみてください」
そう言われて近づいたのは全体的に白に近いグレーの馬で、鬣に所々黒が混じっているキレイな雄の馬だった。
馬に近づきすぎないよう気を付けながら左側に立ち「はじめまして、クレイ」と声を掛けた。耳をこちらに向けてピクッと動かし、私の様子を伺っている。
「首の辺りをポンポンと優しく触ってください」
「触ってもいい?」
クレイに問いかけレオさんに言われた通り、首の辺りをポンポンと撫でるように触ってみた。
「よしよし」
馬の首は想像していたよりも硬くて、でも毛並みがつるっとしていて気持ちよく、繰り返し何度も撫でてしまった。すると「ドゥドゥ」と返事をするようにクレイが鳴き、驚いて一歩下がった私は後ろにいるキャロルさんにドンとぶつかってしまった。
「大丈夫ですよ。どうやらクレイはユイ様を気に入ってくれたようです」
キャロルさんの言葉に喜びが込み上げる。
「本当に? ありがとうクレイ。また触らせてね」
私はもう一度クレイの首を優しくそっと撫で、挨拶をしてその場を離れた。
私が利用させてもらっているは第三部隊の宿舎で、一階二階は部隊の中堅クラスの方の個室、三階は隊長、副隊長の執務室兼寝室、客間があるらしい。宿舎は第一部隊から第七部隊までがほぼ同じ作りで七棟、中堅未満の人が使う大部屋がある宿舎が一棟、合わせて八棟もあった。
見た目同じに見える乳白色の頑丈そうな石造りの建物が二棟ずつ四列ならび、その間にあるのは同じ石で作られた一回り大きい食堂棟。裏手には、手前に広場、奥に洗濯棟と言われている木造の建物があり、食堂棟の入口には楓の葉によく似た木が、青々とした葉を茂らせて立っている。
「これって楓の木?」
「あちらの世界にもあるんですか?」
「はい、あります」
キャロルさんの言葉に小さく頷き返し、背の高い楓の木を見上げた。ふと隣に目をやると普段は黒に近い紫色のレオさんの髪が、木漏れ日に透けてキラキラと輝きアメジストの様な輝きを放っていた。
おでこにかかる前髪、きれい。そんな事を思っていると、レオさんと目が合った。
「どうかされましたか?」
「紫の髪の毛って綺麗だなと思って」
私がそう言うと、何も言わず曖昧な笑みを浮かべたレオさん。不思議に思い首を傾げると、キャロルさんがこっそりと「副隊長、見た目を褒めれれるの好きじゃないんですよ」と教えてくれた。
なんて贅沢なんだ! そう思ったけど、きっとイケメンにしか分からない悩みってあるんだろうなと考え直し、話題を変えようと食堂棟の扉横に飾られている旗を指さした。
「触っても大丈夫ですか?」と確認してから広げ、描かれている紋章を見た。
描かれているのは、楓の葉に竜の紋様。
「どうして楓の葉なんですか?」
「この国の初代王妃が好きだった木だと聞いております」
でも、これって楓って言うより......。
「ちなみに初代王妃は初代竜母様でもあられます」
レオさんの言葉に何かが引っかかり、私は紋様をマジマジと見つめた。




