100.【恋人】 改
ついに100話目突入。
30万文字を超えました~!
グランデとグラスを合わせ清酒を飲むユイに「ちょっと飲み過ぎじゃないか?」とクラネルは声を掛ける。
「らい丈夫!」
「全然大丈夫じゃないだろ」
「らって、緊張するもん」
頬を赤らめ少しフワフワとしながら答えるユイに、水の入ったグラスを手渡すクラネル。騎士達の為にと練習した曲を歌うことを考えると緊張してしまい、ついついお酒を飲み過ぎてしまったようだ。
「ユイさん、何か緊張することあるの?」
ラッセルの問いに「次は騎士さんの為に歌うって約束したから」と答え、クラネルから受け取った水をこくっこくっとゆっくり飲むユイ。
「そうだった。約束したね」
ラッセルの言葉に頷きながら、ユイはポケットに入れていたスマホをテーブルの上に置いた。
ちなみにラッセルは前回の二日酔いを反省して、今日は嗜む程度にしている。
「スマホ使うの?」
「あの歌は難しいから、曲を流しながら歌おうかなって」
「そうだ、あの曲聞かせて欲しいな」
ラッセルの言っている『あの曲』とは、アップテンポの男性の歌で、彼女の可愛さにメロメロの男性が恋人の事を歌った曲だ。
ラッセルが大好きで、今まで何度もユイと聞いた曲。スマホから流れ始めた音楽に耳を傾け、なんとなくリズムを取る二人。
「私思ったんだけど、これってユイさんの歌だよね」
「私、こんな魅力的な女の子じゃないよ!?」
歌を口ずさみながら楽しげにするユイを、隣で微笑ましく見ているクラネル。そんな彼を見ながら「きっと副隊長は、この曲みたいにユイさんの事が可愛いんだろうなぁ」とラッセルは微笑む。
『ねぇ、今日は踊らないの?』
突然のノアの言葉に「踊るってなに?」と、ラッセルが驚きを口にした。
『ユイ、いつもこの歌口ずさみながら踊ってるよ』
「ノア、やめて~! それは内緒なんだから」
ユイの顔は酔いとは違う赤みを増し、ノアの口を手で押えているが、思念で会話するノアには全く意味がない。
「俺も、見たことないぞ」
眉間に皺を寄せ不満を口にするクラネルに「人前で踊ったりしましぇん」と首をふるふると大げさに振って見せるユイ。
『踊ってるユイ、すっごく可愛いよ』
「お願いノア。もうやめて~!」
一生懸命にノアの口を塞ぐが、それが無駄な事だとは未だに気が付いていない。
慌ててスキップボタンを押して、次の曲を流すユイ。違う曲が流れだしたことでホッと息を吐くユイに「踊ってるユイ、見たいんだけど」クラネルがまだ言っている。しかし聞こえていないフリをして、ユイは次の曲を口ずさむ。
思いを込めるようにして歌うのを見て、ラッセルが問いかける。
「ねぇ、これはどんな意味の歌なの?」
「えっとね......内緒」
照れくさそうにするユイを見てラッセルが、歌の意味を教えて欲しいと思念でお願いをすると、ノアは『いいよ』と答えた。
「なるほど、運命の人ねぇ。副隊長のことを思って歌う訳だ」
「なんで?」
驚きながらも直ぐにノアの仕業だと気が付いたユイは「なんで教えるのよ⁈」とノアに対して文句を口にする。
『別にいいじゃん』
「恥ずかしいでしょ!」
頬を膨らませ怒るユイを見て「今度ピアノで、聞かせてくれ」とクラネルは嬉しそうに微笑む。今までこの曲を彼女が歌っているのを見たことはなく、純粋に彼女の声で聴いてみたいと思った。
そして愛おしそうにユイの頬に触れる彼に「イチャイチャするな」グランデは、ちょっと拗ねたように文句を言う。
「ウイルさん、ヤキモチですか? ユイさんに副隊長取られたから」
「なんでそうなるんだよ」
「やっぱり......ウイルさん、レオさんは返しませんよ」
「いや俺は、元々ウイルのモノじゃないし......」
女性二人の会話がなんだか可笑しな方向へと向かっている。
「最初から思ってたんですよ。ウイルさんってレオさんの事大好きだなぁって」
「おい、ユイさん可笑しいだろ」
「私も思ってました」
「勘弁してくれ」
苦笑いするクラネルの隣で、ケタケタと笑い声を上げるユイ。どうやら酔ってテンションが可笑しなことになってるらしい。
清酒のグラスに手を伸ばすユイを止めると、ユイは頬を膨らませて拗ねて見せる。
「もう水にしとけ。それ以上酔ったら連れて帰るぞ」
唇を尖らせ反抗するユイを「ピアノ弾けなくなったら困るだろ」とクラネルが宥めると、彼女は渋々頷いて返す。
そして突然立ち上がると「お腹空いた」そう言って、また料理を取りに配膳台に向かうユイを見て、グランデが笑い声をあげた。
「ユイさん自由過ぎるだろ」
「ちょっと飲み過ぎだな」
心配そうに彼女を目で追いながら、クラネルも口元を緩ませる。
料理が載ったトレーを手にクック達がいるテーブルに行き、エールの入ったグラスを手渡されるユイ。
「ユイさん、今日歌を歌うって聞こえたんだが、本当なのか?」
ゲイルの言葉に「騎士さんと約束したのでがんばります」と、ユイはエールを飲みながら答えた。
「こら、なんでまた飲んでるんだよ」
彼女が手にしているグラスを取り上げ「調理場の人は、時間大丈夫ですか?」とクックに問いかけるクラネル。
「そろそろ、帰らんといけんな」
クックが残念そうに答える。
「そっか、明日早いもんね。じゃあ、そろそろ歌おうかな」
そう呟くと一気に緊張して、自分の指先が冷たくなった気がしたユイ。
ピアノの前に移動し鍵盤の蓋を上げると、スマホを忘れた事に気が付いた。テーブルに戻ろうとする彼女に「どうした?」クラネルが問いかける。
「スマホ忘れちゃった」
すると、たまたまクラネルの側を通りかかったハリスが「僕が持っていきますよ」とテーブルの上のスマホを手にした。
「ケントさん、ありがとう」
「その代わり、近くで聞いてもいいかな?」
「それなら俺も近くで聞きたい」
「「「俺も」」」
何人もの騎士達がピアノの側に集まりユイの緊張が頂点に達した時、何となくハリスがピアノの鍵盤を一つ人差し指で押さえた。その瞬間、ピアノの後ろから青白い光が放たれ、ハリスは何かに弾かれるように吹き飛ばされた。
「ケントさん!!」
驚き彼に駆け寄るユイに『触るな!!』と叫び声をあげるノア。直ぐにユイの側に飛び、彼女を掴んでハリスから遠ざける。クラネル達も直ぐにユイの側に駆け寄る。
「ケントさんが、ケントさんが」
パニックになっているユイを抱きしめ、落ち着かせようとするクラネルに『ケリーを直ぐに呼べ』とノアの指示が聞こえた。
若い隊員に魔導師統括長を呼んでくるように指示をし、彼女をノアに預けるとクラネルはハリスの下へ。
意識を失ってはいるものの息をしている事にホッとしたが、ハリスを抱きしめ彼の名前を呼ぶラッセルに胸を痛めた。
「ケントさん、ケントさん」
「キャロル、何があるかわからないから離れろ」
クラネルの言葉を聞こうともせず、首を振りハリスを強く抱きしめるラッセル。
その場にいた全員が、ハリスがラッセルの恋人なのだと気が付いた。
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