美しい炎
今から4年前
新西暦214年6月1日
日本の全人口の1万人に1人が謎の「異能力」に目覚めてしまうという現象が起こった
能力に目覚めてしまった性格の悪い日本人たちはすぐさま自らの能力を使いテロや強盗が繰り返されるようになり日本は終わった
いや 終わるはずだった
6月23日 全国の銀行が同日同時刻に襲われるという事件が起きた いわゆる大規模銀行強盗だ
その銀行強盗らは自らをこう名乗ったという
「我々は反逆者日本を終わらせるために結成された組織だ」
彼は目覚めた異能力を使い
銀行を襲った
彼らの能力は様々だった
腕力を増強させる能力、足が速くなる能力
火を操る能力、ものを爆破させる能力
どれも強盗をするにはうってつけの能力だ
彼ら以外に異能力に目覚めた者はいる
だが、日本を終わらせる組織にたった一人で立ち向かう勇気がある者などいるわけが無い
たとえ1人で突っ込んでも集団で相手にされると勝ち目が無い
それを知っているから 正義感ある者は立ち向かえないし、反逆者は堂々と悪行ができる という訳だ
日本は終わる
誰もがそう思った時、立ち向かう者はいた
それらは「粛清者」と名乗った
粛清者と名乗る者達は瞬く間に
銀行を制圧して行く
その様子がテレビで全国に生中継され
粛清者と反逆者の存在は明るみになった
それ以来、日本の治安は何とか保たれている
この平和もいつまで続くかは誰にも分からない
俺の人生は狂った
毎日同じ夢ばかり
楽園のような夢か ―否、 悪夢だ
目覚めが悪い
だがもう慣れた
憎しみと哀しみに苛まれる朝
しかしそれよりも腹の底から湧き上がる自分の無力さに対する怒りが俺を奮い立たせる
「いつか復讐する」
彼は目覚めるとまずその言葉を口に出し
自らの部屋を出るのだ
何故 彼は悪夢を毎日見るようになってしまったのか
その悪夢の内容は何なのか
それは能力発現現象が起こったあの時よりさらに遡る7年前
彼が8歳の時だった
静かな深夜 事件は起こった
彼の家が炎に包まれた
気づいた時には既に彼の兄 東条 徹の腕の中だった
「焔!起きたか!そこにいろ!俺は父さんと母さんを助け出してくる!」
そう言って徹は再び炎に包まれる家の中へ駆け出した
「兄さん…!ダメだ!」
伸ばす手は酷く火傷しており 見るに堪えなかった
伸ばした手はいつ間にか引っ込めていた
家の炎の勢いが増した時中から叫び声が聞こえた
その声は聞き覚えのある兄 徹の声だった
「うがぁぁぁぁ!!!」
耳を劈くような声に思わず耳を塞いでしまった
8歳の彼には何が起こったのか分からず
ただうずくまることしか出来なかった
バタン!と家のドアが開く音がした
もしやと思い顔を上げると
そこには見覚えの無い男が立っていた
身長は170ぐらいだろうか父さんと同じくらいだ
黒い髪に耳には勾玉のピアスがついていた
その男の手には炎が燃え盛っていた
しかしその炎は燃え上がることなく
一定の大きさを保っている
その不思議に首をかしげていると
男は近づき 目線の高さを合わせるためしゃがんだ
男は微笑みながらうずくまっている子供に話しかけた
「これかい?これは素晴らしい炎だよ 美しい炎だろ?
美しい炎はどんなものも美しく燃やし尽くす 例えば…君の家みたいにね」
男は微笑みから高笑いに変え スタスタと歩いて行った
俺はそのシーンの悪夢を毎日見る
中学三年生ながら頭の中は復讐しか無かった