表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
chloris  作者: 梓蝶
3/23

3:春時雨



「疲れた……」


「ふふ、お疲れ様です」



ぽつりと呟いた言葉に反応が返ってきた。

そうして、此処が自分の家ではなくカフェであったことを再認識した。

少しだけ気恥ずかしくなって頬を掻く。


その時に自分の腕に着けられていた腕時計に気が付いた。




「待って今何時!? ……19時過ぎ!?」


「はい、今は19時を少し過ぎたところですが」


「すみません、僕、長居してしまって!」


「いいんですよ、お気になさらないで下さい」





慌てて参考書やノートをリュックサックへと仕舞っていく。

周りを軽く見回したが客は政春一人であった。

この店の閉店時間も把握しておらず、それが余計に彼を焦らせていた。

慌ただしく帰り支度を終えると財布を取り出して会計をお願いする。




「フルーツガーデンティーと、苺のムースで650円です」


「あ、いや、最初の紅茶とマカロンの分も払いますよ」


「あれは私からのサービスですから、ね?」




そう微笑まれては反論も出来ない。

彼女の言葉に甘えて、650円きっかりを払った。

しかし、店を出ようとして扉を開けると雨が降っていた。

そこまで勢いが強い訳では無いが、此処から走って帰ったら確実に濡れ鼠になるだろう。

すると、後ろからカコカコと杠葉が駆け寄って来る足音が聞こえた。




「これ、使って下さい」


「傘……いいんですか?」


「はい。今は一番大事な時期でしょう?風邪を引いてはいけませんから」


「ありがとうございます!」




「それと、これもどうぞ」


「これは……?」


「ふふ、後からのお楽しみです」





彼女の優しさと、心遣いに胸が打たれた。

有難く傘を使わせてもらい店を出る。

杠葉はもう既に店内へと戻っているが、それでも政春は一礼した。


急いで家へと戻ると台所からはカレーの香りがした。

先程口にしたものが甘い物であったこともあって、スパイスの香りに刺激を受ける。

手洗いうがいを済まして食卓へと座った。




「今日、何処かへ行ってたのか?」


「うん、とっても良いカフェを見つけたんだ」


「へぇ。どんな所なの?」


「花とか果物の匂いが……こう、綺麗に交わってるっていうか。凄く香りの良いお店だったよ」




父と母と話していると、ふと杠葉から渡された小さな紙袋が気になった。

部屋へと取りに行って再び食卓へと戻る。

二人も中身が気になるのか、それともその店が気になるのか覗き込んできた。

中には小箱が入っていた。

薄桃色の箱に赤色のリボンで装飾が施されている。


かぱり、と箱を開けると透明な袋に包まれたドライフルーツが収められていた。




「あら、これドライフルーツじゃない」


「本当だな……おい、手紙も入ってるぞ」


「うん、見てみるよ」




『本日は御来店ありがとうございました。梶さんの御注文されましたフルーツガーデンティーは紅茶として飲んだ後に、ドライフルーツを楽しむことが出来ます。よければ御賞味下さい』




こう手紙には書いてあった。

透明な袋にはメモが張りつけてあり、そこには九個のフルーツの名前が羅列されている。

きっとドライフルーツの種類なのだろう。


ひとつ、苺を摘んで口に含む。

それはあの時の紅茶の味が微かにした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ