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chloris  作者: 梓蝶
16/23

16:"しんゆう"に当てはまる文字



「あ、あの、お二人は杠葉さんとどんな関係なんですか?」



ずっと疑問に思っていたことを遂に政春が尋ねた。

瞬も桃花も興味津々に聞いている。

お互いが名前を名乗り合うと、その質問内容に対しての答えを悩み始めた。

勿論如何わしい関係性なわけもないが、上手く言葉に出来ないのだ。



「関係性なぁ、自分らってどんな関係なんやろ」


「親友では淡過ぎるし、幼馴染で片付けられるものでもないしな。かと言って恋人という訳でもないし」


「ゆずはどう思うんや?」



グラスを綺麗に磨いている杠葉に呼び掛ける。

我関せずの態度を取っていた彼女は少し驚いたようだ

それを戸棚似しまうことで木と硝子がぶつかり合う柔らかい音が聞こえる。

此方へと歩み寄って来た彼女は二人に縦長のグラスを差し出した。

下には橙色のソースのようなものが溜まっており、その上は乳白色の飲み物が注がれている。

嬉しそうにストローで掻き混ぜ始めた二人は素早く唇へと運んだ。



「これ、甘夏か」


「えぇ流石ですね。お得意様が栽培を始めたようでして、数日前に送ってくださったんです」


「ヨーグルトも身体にええし、いい所取りしてんな」



ごくごくと飲み進める彼らを横目に、杠葉は政春達へと視線を移した。

胸の内がモヤモヤとして、珍しく眉間に皺が寄っている政春と瞬を見ると思わず笑みが零れる。

相変わらずの柔らかい笑みを向けると、彼らが言い淀んだその答えを自分なりに答えた。



「私は、凧と優を大切な存在だと思っていますよ」



ぐっと何かを吐き出すのを堪える音が聞こえた。

口元を抑え、背を丸め、咳き込んで呼吸を整えようと必死になっているのは凧と優一郎である。

その耳は赤々と染まり、照れているのが一目瞭然で分かった。

涙目で杠葉を睨みつけるが上目遣いとなっており、また彼女がそんなものを恐れる訳もなく、効果はいまひとつであった。



「突然何を言い出すんだ……!」


「時と場所を弁えんか!」


「本心しか言っておりませんよ」



大の男が二人、華奢で儚い女性一人に弄ばれている。

と言ってもそれは事実ではなく、彼女は本心でそう思っていた。

幼い頃からあの二人と凧と優一郎、この四人はずっとずっと永遠に変わることの無い愛すべき、そして愛している人達なのだから。


そしてそれは二人も同様であった。


医者にならなければならないという、人生のレールを両親から引かれ、自暴自棄で荒れていた時に彼女は自分の愚痴も思いも全部聞いてくれた。

時には八つ当たりで口汚い言葉を投げ掛けたこともあるが、それでもずっと優しく微笑み傍に居てくれた。


凧と似ており、優一郎は将来の夢を諦めることを余儀なくされていた。

料理が昔からずっと好きで、料理人となりたいと考えていたのに家族からは奇特な人間扱いをされてうんざりてしていた。

逃げるように家を出て、思い付いた先が彼女の所だけだった。

突然来た自分に驚きはするも快く中に入れてくれ、そして追いかけて来た家族を追い払いもしてくれた。

我儘を言って、一緒の大学にまでも来てくれた。



「まぁ、それは自分らもやわ。ゆずには助けられてばっかりやからなぁ」


「本当にな。俺達はゆずが居なかったら死んでた可能性もあったしな」


「言い過ぎでしょう。それに、もし死のうとなんてしたら何としてでも止めに掛かりますからね」



ずっと細められた瞳に身震いする。

しかし、これは本当に彼らが過去にそうしようかと考えていたことがあり、それを止めるきっかけとなったのは彼女であったのだ。

だが彼女が怒るのも当然であった。

大切で大事で、信頼している二人が居なくなるなど耐えられないだろうから。

三人だけの空気が出来上がっていると、ふと、杠葉は時計を目にした。



「梶さん達はお時間大丈夫ですか? そろそろ夜の八時になりますが」


「え!? まってやばいよ瞬!」


「分かってる! すぐに帰るぞ!」


「ぼ、僕も! ありがとうございました!」



代金きっかりをテーブルに置いて急いで扉を開けて出て行く三人を見送る。

店に残っているのは遠山夫妻とこの三人のみ。

凧と優一郎は今日も泊まると伝えると上へと上がって行った。

するとふと、宏介から見られていることに気が付く。

何か用があったかと尋ねると優しげに微笑みながら話し始めた。



「素敵な関係ですね」


「 そう言って貰えると嬉しいです。もう私にとって彼らが居ない生活は考えられないのですから」


「相思相愛、では人数が足りませんが、そんな感じがします」


「ええ、愛していますからね」



自信を持って答える杠葉に彼は嬉しそうにはにかんだ。

店内には彼女が食器を片づける音と、夫妻がゆったりと楽しそうに話す声だけが存在していた。


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