村へ到着
「あんたぁーー!!!」
村の入り口に着くと太助の妻らしき女性が叫び、太助と抱擁を交わした。
「男どもの話だと、、うぅ、、屍に襲われたって、、、」
「大丈夫だ。怪我もしてないよ」
どうやら太助は一人で農作業していた訳ではないようだ。
話を整理すると三人で畑仕事をしていると突然屍が現れ、襲いかかって来たらしい。
共に逃げる途中で太助だけが沼にはまってしまい、二人は必死で助けようとしたのだがすぐそこまで屍に追い付かれてしまった。
太助はこのままでは三人とも食われてしまうと判断し、二人に逃げるように言ったようだ。
初めは仲間を見捨てられないと反対されたが、一人が追い付いた屍に背中を掻き切られ、治療の為に泣く泣く村へ戻ったという。
「太助ェ!!おめぇ助かったのかぁ!!!」
今度は家の中から痩せた男が飛び出してきた。
先ほど先に村に戻った怪我をしていない方の農民だろう。
「おう弥吉。この通り俺は生きているぞ」
「良かったじゃねぇかよぉ、、、うっうっ、、、もうダメかと、、食われちまったのかと、、、すまねぇ、、、」
この弥吉とかいう農民は太助の意思とはいえ逃げ帰ったことを申し訳なく思っているようだ。
「あぁあれは仕方ねぇことだ。逆の立場でも俺は逃げた。それが最善だろうよ」
ほう、自分の命よりも公の利を優先できる人間はことのほか少ない。使えるやもしれんな。
「じゃあどうやってあの屍をまいたんだ?」
弥吉の疑問に太助が答える。
「まいたんじゃねぇ。この御方が倒してくれたんだ」
「屍を倒す?武器もねぇのに何言ってんだ、それに一人でなんて・・・」
「それがやっちまったんだよこの人は!殴り付けてブン投げて」
「・・・信じらんねぇ。が、俺の親友を助けてくれたことには変わりねえようだ。感謝する」
「あたいも、なんてお礼を言ったらいいか・・・」
弥吉と太助の妻が泣きながら感謝してくる。人助けをして悪い気はしない。なにやら米俵を差し出してきた。
「気にやむな。俺は人として為すべきことをしただけだ。礼など不要である」
「!!そんなわけにはいかねぇよ。・・・ってもう夕暮れか。ひとまず今日は家に来てくれ。粗末だが飯と寝床くらいは用意してやれる」
という訳で太助の家にご招待されたわけだが、正直言ってあの時代の日本でそだった者からすると衛生面が心配になるものだ。
床は土の上にござをしいただけだし、屋根も藁。壁はなにかの上に土を塗り固めただけのものだった。
飯は漬物に麦飯、満足の行くものではなかったが。飢え死にするよりは百倍ましだ。
飯時に太助と奥さんからこの世界のことを聞いた。
まずここは薩摩、つまりは鹿児島県付近らしい。良かった。地図と地名は変わらないようだ。
日ノ本全土を混乱させた応仁の乱から妖怪が発生し初めたこと、各地には戦国大名と呼ばれる有力者達が天下統一に向けて凌ぎをけずっていること、そのうちのいくつかは妖怪を従えることに成功し軍事利用していること、大名同士の争いが世界に妖気をふりまいていること等々を教えてもらった。
この辺りで夜もふけてきたので寝ることにした。転生初っぱなから野宿を免れたのは幸運だった。そんなことを考えながら徐々に眠りに落ちてゆく・・・