祠の外へ
気分が悪い。
背筋が凍り付くように寒い。
視界も真っ暗だ。
俺はいったいどうなって・・・・・!?
「ゴボッッ!!うぐっ」
苦しい!息ができない!
無我夢中で手足をばたつかせる。抵抗が大きい。水の中にいるのか!?
とにかく浮上を急がねば!
まずい水面は・・・・・あれか!
痺れる手足に鞭を打つ。呼吸はいよいよ限界だ。
「ぶはっ!!はー・・はー・・」
岩肌に横たわり呼吸を整える。
吐き気がひどいな。
出せども出るのは水だけか。
それにしても暗い。どこなんだここは。
〈千尋の祠 でございます〉
「誰だ。姿を見せろ」
見知らぬ声に反応し警戒を強める。なぜか身構えるからだが羽のように軽い。
〈実体を持たないため 不可能でございます〉
「お前は何者だ」
暗い。1メートル先も見えない。
〈あなた様の手助けをするべく遣わされた付喪神でございます〉
ここで先ほどのやり取りを思い出した。
確かすきる・・・とかいうやつにナビゲーションをつけるといっていたな。
ということは・・・
「では俺は転生に成功したのだな」
〈その通りでございます〉
やはり俺は新しい二度目の人生を手に入れたようだ。
それにしてもなんて軽い体なのだろう。
暗闇でよく見えないが肌の張りも感じる。
「俺の体は何歳だ」
〈肉体年齢は二十二でございます〉
なんということだ。
晩年何十億かけても手に入らなかった若さを取り戻したのだ。
しかし小躍りする前にこの暗い祠?から抜け出さねばな。
「ここの出口がわかるか?」
〈洞窟データ該当・・・あり。ルート検索・・・完了。最短経路で案内を開始します〉
これは・・・
地面に光の線が発現した。足元を照らすおかげで起伏もよくわかる。この目印を追ってゆけば出口に通じるのだな。
光をたどって進む間、様々なことをかんがえた。
残した家族のこと
戦国の世について
若返った自分への喜び
スキルという得体の知れぬモノについて
赤い光が見えてきた。
やったぞ!外に出られる。今は夕刻のようだな。
年甲斐もなく走って出口へと向かう。
なぜなら今はぴちぴちの二十代だからだ。
何十年ぶりに味わう走る喜びはすぐに絶望へと移行した。
なんだ?この空は・・・・
空が赤い。
茜色などではなく血のようにドスのきいた赤色。
お天道様は真上・・・・昼じゃないか。
「この空は何が起こっている」
〈妖気によって大気が汚染されているため 赤く染まっています〉
なんだこいつは。もうおかしくなったのか。
妖気なんぞがあるのは鬼太郎の世界だけだろうに。
短い付き合いだったな・・・と言いたいところだが。
冷静になればこの付喪神の存在自体がアブノーマルだ。
もしかすると別のどこかに飛ばされてしまったのではないだろうか。
〈そのとおりでございます。正確に申せば史実の戦国時代の別世界、つまりはパラレルワールドでございます〉
こいつ平然と人の心を・・・ってパラレルワールド?なにか変わったことはあるのか?
〈おおむね正しい歴史に準拠してはいますが、一番の違いとして物の怪、妖怪などといった魑魅魍魎が跋扈していることでございます〉
・・・・・・・・・・・・・・
俺はしばらく考えるのをやめた。
座りながら見上げた昼の夕焼けは案外きれいだったりした。