トランスジェンダー(前編)
(注意;この話はクラスの担任である沖村 砂波の視点でお送りします)
私はこれでも教師1年目だ。
教師1年目で担任クラスを持つことはかなり異例なのだそうだ。
それも私が性転換症というものに興味を持ち、周囲の反対を押し切って無理矢理なったものだ。
本当は幾つもの研究機関に内定していたのだが。
今は月1のレポートを提出することで何とか納得してもらっている。
それでも5つの研究機関に送らなければいけないが。
さて、なぜ私が性転換症に興味を持ち始めたのかお話ししたい。
それは私の性でもある親戚の沖村 波音の影響だ。
私は彼女に出会うまで性転換症という存在を知らなかった。
世間的にはあまり知られていない存在だからだ。
ちょうど6年前、彼女が突然性転換症を発症した。
彼女が小学4年生の時だ。
私も親戚の一大事だと言うことで急遽駆けつけた。
そして私が目にしたのがベッドの上で横たわっていた彼女だった。
私はすっかり驚いてしまった。
それは彼女が性転換したことではなかった。
私が目にした彼女はすっかり女の子だったがそのことには微塵も驚かなかった。
そうではなく私が驚いたのは彼女が今まで男の子だったことだ。
私は彼女が生まれた時から知っている。
その時から女の子だったという記憶しか無い。
それはもう可愛い女の子だった。
もちろん小学校も女の子として通っていた。
周囲は誰も彼女を男の子と疑ってすらいなかった。
私はその子の両親に問いただした。
両親曰く性転換症とは生まれた時に診断が付くものらしい
しかし、性転換症と診断されても生きているうちに性転換するかどうかは分からない。
中には一生性転換しない人もいるらしい。
しかし、彼女は性転換症の症状が強く一般の性転換症の人よりもかなり早く性転換をしてしまうらしい。
困った両親は彼女自身に最初の性選択を委ねた。
幸い、彼女の性自認は女性だった。
だから小さい頃から女の子として育てたのだそうだ。
そうは言ってもそれは生半可なことではなかった。
何せ男の子が普段から女の子のふりをするのだから。
私もいろいろとサポートした。
このことを知っているのは彼女が通う学校と両親だけ。
私も含めて他の人は知らなかった。
私はよく彼女の面倒を見た。
今思えば性転換する前の彼女は決して私に裸を見せなかった。
私には本当の性別を知らせたくなかったのだろう。
他の人にもそう、彼女はそうやって生きてきたのだ。
性転換した時の彼女はとても嬉しそうだった。
やっと心と体の性が一致したのだ。
喜ばない訳がない。
彼女は
「今まで生きるのが辛かった。
やっと本来の自分で生きることが出来る」
と泣きながら私に報告してきた。
さぞかし今までが辛かったのだろうと思う。
私も共感し泣きながら励ました。
私はそれから彼女のサポートをしたいと思い、教職の道を歩んだ。
大学3年生からの教職選択、かなり厳しい道のりだ。
私は必死に勉強した。
これでも自慢じゃないが神童と言われた私だ。
かなり苦労したがいくつかの教職の専修免許状を手にした。
そして彼女の担任になるべくこの学校に赴任したのだった。
私が彼女に再会した時は彼女は良き生徒になっていた。
みんなの模範となる可憐な女生徒に。
私は彼女と再会した時に少しだけ話し合ってみた。
「久しぶりだけど、今は体調どう?」
「女の子になってから気分が晴れたせいかかなり体調が良いと思うの。
でもこの学校に来て新たな秘密が増えたの。
私は性転換する前は男の子だったことを周りにバレないようにいろいろと気を遣って大変だったわ。
でもね、この学校の人たちはそういうことを経験していないの。
男の子として生活してきた人たちね。
だから未だに男の子の習慣が抜けていない人たちも多いのよ。
しゃべり方も然り、仕草も然りね。
中には心はまだ男のこのままだったりする訳。
そう言おう人たちと話を合わせるのがまた一苦労。
だから周りには性転換前は男の子として生活していたことになっているの。
性転換してまで秘密を持ち続けるとは思わなかったわ」
彼女はまだ苦労しているようだ。
彼女は
「クラスメートは女の子としての自覚が足りないと思うの。
委員長は別として、他の人たちは大なり小なり女の子としての自覚というか気構えというかそう言うのが足りないと思うの。
先生は生まれながらにして女子のエキスパート。
茶道、華道、日舞は師範クラスの腕前と聞くわ。
みんなの根性をたたきのめしてくれると信じているわ。
期待しているからね」
なんかよく分からないが私にかなり信頼を置いてくれているのがよく分かる。
確かに半月ほど見ているがほとんどの女生徒は女子の自覚がないように思える。
しかし、女子校の実態も同じようなものだと思うのだが親戚のなみねの理想が高すぎるようにも思える。
とにかく女子の気構え、自覚を彼女たちに根気強く教え続けなければならない。
これからは女子として生活していくのだから。
それにゴールデンウィーク明けには本校であるお嬢様学校との共同授業がある。
向こうは生まれた時から歴としたお嬢様。
私は生徒たちに恥をかかさぬようこれからもしっかり指導していきたいと思う。