臨海学校
今は夏休み。
辛かった一学期もやっと終えました。
ただ夏休みと言っても僕たちの夏休みはありません。
そう、補習です。
合同授業も終わり、やっと解放されるかと思ったら今度は補習。
一週間の臨海学校です。
午前中は座学、いわゆる授業。
女性らしいしゃべり方や仕草、考え方などの研究をしています。
特に担任の沖村先生は僕に当たりが強い。
副担の石橋先生がひくほどに。
まだ男言葉の僕を矯正しようと必死のようだった。
まだ僕は女である実感はないのに。
まぁ、寝る前に沖村先生からフォローがあったけど。
「性転換直後の1年間は重要なの。
このときにいっぱい女の子としての素養を入れなきゃイケないの。
これからは女子として一生を全うしなければいけないから。
でも、安心してスパルタなのは臨海学校の時だけだから。
学校に戻ったらいつものように接するから。
これでも周りから発破をかけられて大変なの。
こっちの事情も汲み取ってね。
じゃぁ、明日からもスパルタでいくからよろしくね。
お休み」
こっちとら先生の事情を汲み取る余裕はない。
まぁ、これからの人生有り難いッちゃぁ、有り難いけど。
一応言っておくけど沖村先生はいろんな女子を許容はしている。
僕以外の男言葉の女子は一定数いるが別に担任が指導することはない。
まぁ、知識として女子の世界を知ることは悪くない。
男時代、知ることのなかった禁断の世界。
そしてこれから歩んでいく世界。
授業として学べることは有り難い。
女子の世界を知らずに社会にほっぽり出される方がよっぽど不安だ。
そういえば僕の知り合いに本物の女子校に通っているお仲間がいる。
彼女はどんなに不安だっただろうか。
想像するに難くない。
まぁ、ある意味こじらせてはいるけど上手く適応出来ていると思う。
(適応出来ているのか?)
午後は気晴らしで海で遊ぶ時間。
みんな思い思いの水着を着ている。
それはスク水とは違いみんなカワイイ。
はっきり言って性転換者とは思えないほどみんなカワイイ。
ここが男子禁制のビーチでなければナンパされまくっていることだろう。
ちなみに僕らがいるビーチは学校専用のビーチ。
そして男子禁制のビーチ。
このビーチには僕たちとお嬢様学校の生徒たちしかいない。
女子の世界に慣れていない僕たちはお嬢様学校の生徒たちからちょっかいを受けたりする。
悪意のないものだが僕たちはそれに戸惑ったりしている。
担任からは交じれと注意されるがいかんせんどうしても仲間同士で連んでしまう。
まだ、本物の女子に対する免疫がないから。
それにしても僕のクラスメートたちは美少女だらけだなと改めて思う。
委員長のビキニ姿はめちゃくちゃ可愛いし、メガネをしていない委員長は本当に美人だと思う。
他の女の子たちもめちゃくちゃ可愛いし目移りする。
ちなみに僕はと言うと水着は着ていない。
なぜかというと僕は1年間運動は禁止。
しかもスカートの刑だ。
スカート以外のものは禁止されている。
1年の辛抱なのだけど。
だから今は白のワンピースを着て砂浜で寛いでいる。
最近、僕はワンピースにはまっている。
理由は簡単、着るのが簡単だから。
それに僕の個人的な意見なのだがスカートを履いている気にならない。
ひとまとめの服だからわざわざスカートを履くということをしなくて良い。
非常に気が楽なのだ。
それでいて女の子っぽいのも魅力。
男の時にはこんな便利な服はなかったとしみじみ思う。
ちなみに僕が着ているワンピースは無地のもの。
まだ柄のあるものには手を出せないでいる。
それでも今来ている白以外に赤、青、黄、オレンジ、緑、紫、黒、茶、水色、ピンクなど色々と持っている。
僕はカラフルなのが好きです。
今日は着ていないけど女の子っぽい赤系統も最近着るようになった。
もう心も女の子に染まっているのだろうか。
それにしてもみんなカワイイ水着だなと凝視していると
「何、見惚れてるのよ」
と僕に言ってくる女子がいた。
恋人のまゆだ。
まゆは非常にヤキモチ。
僕は慌てて
「まゆもめちゃくちゃ可愛いよ。
その水着。
決して僕は見惚れていた訳じゃない。
僕も来年、ああいう水着を着なきゃイケいないんだなと思っていただけだよ。
女子になったとはいえああいう水着はハードルが高いから」
と否定した。
僕の言い訳にまゆは納得してくれたようだった。
しばらくすると
「へい、彼女。
1人で何してんの」
と僕に声をかけてくる人物が。
見ると先日共同授業で一緒だった財城さんだった。
財城さんは僕と同じ性転換者でありながらその事を隠し本物の女子校に通っている人だ。
彼女は僕たちと違い変にこじらせている王子キャラの女子高生。
「僕は君の美しさにメロメロさ。
僕がもし男子だったら絶対にほっとかないさ」
あまりにも鬱陶しいので
「気持ち悪いからそのしゃべり方、止めてもらいますか。
それにもし男子だったらってついこの前まで男子だったじゃないですか。
僕の素性もしているくせに。
それにそんな色っぽい水着でそんなこと言われても興ざめだし」
彼女は
「しょうがないじゃないか。
こういう男役みたいなしゃべり方が女子には受けるんだよ。
僕は君たちみたいな学校に通わず女子の世界に入ったんだ。
君と同じで女子と一言も話さなかった僕がだよ。
そりゃぁ、適応するのに苦労するよ。
そこで手に入れたのがこのしゃべり方。
このしゃべり方だと男の時モテなかった僕が女子にモテ始めたんだ。
今ではこのしゃべり方が癖になっている」
僕は
「それにしても前より酷くなっているんじゃ」
彼女は
「僕は女の子が好きなのさ。
特にタイプの女の子にはこういうしゃべり方になる」
なんか告白されている気分。
僕は慌てて
「悪いけど僕には恋人がいるから。
ほら、あそこで僕たちを睨んでいる女の子」
彼女はにらみつけている女の子を見つけてからそそくさと帰っていった。
そのあと、僕はまゆに対して散々言い訳をして謝った。
即、機嫌がよくなったのはよかったけど。
(それでも2,3時間はかかったけど)
こんな日が一週間も有るのかと気が滅入っているが一人前の女性になるために頑張ります。