スパイ
二度目の合同授業。
季節は夏。
今は7月だ。
大体、女子校との合同授業は2ヶ月ごとに行われる。
僕たちにとっては一般社会に埋もれるための試験でもある。
2回目の女子校はやはり緊張する。
僕は普段、偽物の女子校に通っている。
もちろん女子として。
でもいかんせん、いくら外見は美少女でも中身は違う。
何か男子校に近い雰囲気だ。
それでも僕は女子になるための訓練を日々している。
同室の委員長曰く
「いくら性転換したとしても中身は男子。
早く精神的にも女子になるように頑張ってね」
と発破を掛けられているから余計に頑張らねばならない。
男子だった頃はもう遠い昔のよう。
でも僕は未練があるので男子がエロいのをどこかに隠すように僕も男子の頃の遺物を隠している。
男子の頃の遺物と言っても少年漫画の類いやいろんな車をモチーフにした変形ロボットの類い。
最近ではミニカーなども集めている。
しかし、精神的に女性化してきているせいか少女漫画や人形、ぬいぐるみなどが僕の秘密の場所を侵食し始めてきている。
しかも、最近では犬や猫のぬいぐるみがなければ寝れなくなってきている。
いつも抱いて寝るとすっきりと眠れるから。
男の時にはなかった現象だ。
話を戻します。
僕が学校に来ると前と同じように女子たちが群がっていた。
僕はそれをくぐり抜け教室へと入った。
教室に入ると
「久しぶり!!
寂しかったよ」
と抱きついてくる女の子がいた。
前回の合同授業の時に仲良くなったまつきちゃんだ。
彼女はカワイイものには目が無いと言っていた。
そして僕がその対象なのだとも。
僕が戸惑っていると
このクラスの委員長であるゆいちゃんが止めに入った。
「ほら、困っているでしょう。
ごめんなさいね、この娘には悪気はないから」
それにしても温なんのこの友達表現は近すぎる。
距離がめちゃくちゃ近い。
その距離感には戸惑うばかりだ。
男子の時よりも断然近い。
ていうか僕が通っている偽物の女子校よりも近い。
心理的スペースというのだそうだけど。
そして授業が始まった。
一応、進学校と言うことで授業のレベルはかなり高い。
1限目の数学、2限目の古典と授業は進んでいった。
放課(休み時間)になると女子たちは好きなアイドルの話をし始めた。
僕はと言うと興味も何もないので黙って聞くのみ。
その後も女子特有の話。
僕にとっては苦行の連続だった。
そして3限目の音楽。
ソプラノとアルトに別れて歌の練習。
僕と同じ性転換者であるまゆちゃんはソプラノに無理矢理入れられた。
僕と同じ性転換者である委員長のかりんちゃんはアルトのグループに。
気のせいかかりんちゃんから睨まれていたような気もするがその点は気にしないようにした。
4限目は体育だった。
みんな水着に着替える中、僕は我慢してみんなの着替えている部屋に残った。
ていうか残らされた。
なんか女の子の裸に耐性を持つようにとのこと。
この時間は恥ずかしくて生殺しだ。
それにしても僕がここにいることに違和感を持つ女子がいないことが不思議だ。
あ、そうか僕も女子だったっけ。
みんなが着替え終わると見知らぬ女子が入ってきた。
そうしたらクラス中が黄色い歓声。
見るとイケメン風の女子だった。
「この中に鹿田 雪羽(僕)って娘はいるかい。
先生の許可は取ってある。
幸い、体育は見学らしいじゃないか。
僕は新聞部の部長だ。
いろいろと取材をさせて欲しい」
僕はこの地獄から解放されると思いいの一番に彼女に連いて行った。
着いた場所は新聞部の部室だった。
「まずは自己紹介をしよう。
僕は財城 陽渡。
新聞部の部長だ。
新聞部の他にも写真部、漫画部、モデル部の部長を兼任している。
僕は何分忙しい身だから授業中でも動けるように先生から許可ももらっているんだ。
後、おまけと言っちゃぁ、なんだけど生徒会長もやっているよ」
おまけにするのはおかしいと思うが。
「これから僕がいくつか質問をするけど良いかな」
僕は軽く頷いた。
「性転換者自体がこの学校に来ることが珍しいから。
絶対数も少ないし。
それに君はまだ女の子に染まっていないように見える。
君以外の(性転換の)女の子にも聞いても良いんだけど、みんな女の子に染まっちゃっているからさ。
それにここの女の子は男の子の知識に乏しいんだ。
少しでも真実を伝えたいところもある。
何せ偏見が凄いからね。
僕でさえも笑ってしまうほど」
それからいくつもの質問に僕は答えた。
そして話は雑談へと移った。
僕は
「スカートってものがとにかく気持ち悪い。
男の時は履いたこともなかったから。
動きも制限されるし。
とにかくこれを1年間、毎日着なきゃ行けないのが苦痛だよ」
「そうそう、僕もその掟には苦労したよ。
女の子だってスカート履かない人もいるのにね」
「え!?」
「あ、いらないことを言っちゃった。
まぁ、いいや。
どうせバレることだから言っちゃうね。
どうも同類と話すと口が滑っちゃう。
僕も元男の子なんだ。
教師は僕のことを知っているけど学校のみんなには内緒なんだ。
僕はこの学校で女子として生活している。
君たちの学校に行く選択肢もあったけど早く女の子の世界を見たかったしね。
それに男言葉でも結構バレないもんだろう。
うちは性転換女子の学校と連携している。
だから本物の女子校に男っぽいものが紛れても意外と気づかれないもの。
僕は同類以外バレたことがないしね。
それに僕はモテるから」
僕がビックリしていると
「僕はこの学校ではスパイみたいなもの。
一応、君たちの学校の先生とも連携を取っている。
毎日連絡し合っているからね。
そこで僕の気づきとかが君たちの女子化の授業に役に立っている訳。
だから僕みたいな人間も必要なのさ。
どうせバレることだから最後に1つだけ言っておくけど僕の正体は漫画部の部員たちにはバレているからね。
ていうか、自分からバラしたんだけど。
偶然、漫画部の部長になったんだけど部員たちはネタを探していてね。
僕がBLの漫画を読んでいた時、思わず「うちの学校と同じだ」って言っちゃったんだよね。
僕、実は男子校出身だからさ。
その独り言に部員たちが反応しちゃってさ。
それから僕はBLのネタ提供を条件に漫画部の部員たちには黙っててもらうことにした。
僕はBLよりも百合が好きなのにさ。
あ、言っておくけど僕は壁だから。
僕は百合の中には入っていないからね」
聞いてもいないのによくしゃべる部長だ。
ていうか隠す気すらあるのか。
僕は呆れながら部長の話を聞いていた。
恐らく部長は取材を名目に自分と同じ境遇の人を探していたのだろう。
僕はそれから1週間、部長と昼食を共にすることになった。
部長の笑顔はとても可愛かった。
それにしてもイケメンだな、女にしておくにはもったいないとも思った。