胸
最近、体の調子がおかしい。
と言うのもあの合同授業が終わってから調子がおかしいのだ。
怠いとか、体調が悪いとかそういうことではない。
とにかく何かがおかしいのだ。
何がおかしいのかというと胸だ。
胸がチクチクと痛むのだ。
別に心臓が悪い訳ではない。
胸が衣服にこすれているというかそういった痛みだ。
今まで味わったことのない痛み。
そういえば胸の周りが少し固くなっているような。
僕は心配になって同室の委員長に相談した。
委員長は僕の心配とは裏腹にとても喜んだ表情で
「おめでとう。
これであなたも女の子の階段を上り始めたわね」
と言ってくれた。
僕は不思議そうな表情をしていると委員長は
「この出来事はあなたが本当に女の子になったという証拠なの。
これから思春期特有の体の変化が次々と起こるわ。
その出来事によってあなたは本物の女へと成長していくのよ」
僕はその話を聞いて少し泣けてきた。
もう男には戻れないのだと。
確かに性転換直後、お医者さんからいろんな話を聞いていた。
委員長が今してくれた話はしていたような気がする。
でも、その時は体の著しい変化に戸惑っていてそれどころではなかった。
改めて聞かされると正直これからどうなるか分からないという不安でいっぱいだ。
委員長は
「まぁ、私みたいに女の子になりたくてなった訳じゃない訳だから大変よね。
心を切り替えるのは。
私からはこれからのセカンドライフ楽しんでとしか言えないわ。
生まれ変わったものだとして」
僕はその言葉を聞いて頷くしかなかった。
僕は学校に入って約1ヶ月、いろんな事があった。
体が女の子になって女子校に放り込まれて僕なりに楽しめら1ヶ月だった。
男だった時は知り得なかった女の子の秘密。
そして男だったら絶対に入れない場所への侵入。
禁断の花園はさすがに衝撃的だった。
それにこの間の合同授業でのお風呂は衝撃的だった。
正直、役得とさえも思った。
でもやはり男に戻れない現実を突きつけられると正直愕然としている。
何せ性転換した人生なんて前はこれぽっちも思っていなかった。
だからこそしっかりしなきゃいけないと僕は思った。
僕は心の中でそう思っていると委員長は
「さて、そうと決まったらすることをしなきゃね。
この学校はね、下着が豊富に取り揃えてあるの。
あなたは言ったことない場所にね。
正直、今まであなたの下着まで買うのは大変だったんだから。
今からそこに案内してあげる。
そこであなた好みの下着を取り揃えてね。
そこは24時間営業だからいつでも行けるからね。
なぜ、24時間営業かというと私たち女の子初心者の相談をいつでも受け付けてくれるから。
さぁ、行くわよ」
僕は無理矢理、連れて行かれた。
そこは体育館の裏にあった。
僕は言ったことのない場所だった。
僕は固唾を飲んで下着屋さんに入った。
(正確にはランジェリーショップと言うらしいけれど、僕の中では敷居が高すぎるのでそう呼ぶことにします)
お店に入ると店員さんがすぐやって来た。
「あらあら、新顔ね。
ここは女の子ビギナーたちのお店。
あなたも初めての経験で戸惑っているのでしょう。
私たちがお助けしますからね」
と店員さんに言われた。
僕はこれまでの経緯を店員さんに話した。
店員さんは
「胸が膨らみ始めた頃ですね。
まだ、胸の膨らみも小さいですし。
柔らかいタイプのブラジャーがお奨めです。
この時期は結構デリケートですししっかりとお胸を守るタイプのブラが必要となります」
僕は
「どうしてもブラジャーを付けなければならないのですか?
正直、とっても恥ずかしいし女装しているみたいで付けるのは嫌なんですが」
言うと店員さんは
「何を言っているのですか。
ブラを付けることはとっても大事なことなんですよ。
女の子にとって。
それに胸を傷つけたくないでしょ。
今でも痛いでしょうに。
もう女の子の服を着ているのだから覚悟してください」
と怒られてしまった。
それから僕はいろいろなブラを見せられた。
なる細この店は下着の種類が方なのは確かなようだ。
でもどれもカワイイのばかりで僕には合わない。
僕は思いきって
「そんな女の子っぽいレースとか花柄とかカワイイものじゃなくてもっと男っぽいものは無いんですか
飛行機とか車とかロボの柄とか」
と聞いてみた。
店員さんは笑いながら
「男っぽいものって。
ブラジャーは男性がするものじゃないじゃないですか。
ブラジャーは女の子のするもの。
男っぽいブラジャーなんてある訳ないじゃないですか。
それともまだ未練があるのですか。
未練を断ち切ってください。
あなたはもう、女の子なんです。
少なくとも体は。
私は覚悟してくださいと言いましたよね」
とまた怒られてしまった。
結局、僕は青のブラを買った。
委員長からは
「あなた、この色好きよね。
事あれば青い色を選んでいるような。
この色はどちらかというと水色だけどね。
少しレースも入っているしね」
僕が青色を選ぶのには訳が有る。
理由は簡単、男っぽい色の代表だから。
だから女っぽい色の代表である赤系統には絶対に手を出さない。
僕のささやかなる抵抗である。
矛盾しているようだがもちろん女として生きていくのにはもう抵抗はない。
覚悟をしている。
でも心は男のままでいたいのだ。
それにしてもブラジャーって奴は違和感しかない。
僕の胸を包んでいるブラジャーに違和感がなくなるのはいつの頃だろうか。
その頃はまた1つ女の子の階段を上がっているのだろうか。
少し不安に思いながら僕たちは寮に帰った。




