卒業式当日
僕がいるこの世界では後天的に性転換する人たちがいるらしい。
何しろ生まれた時に既にそうなる運命だと分かるのだそうだ。
しかし当の本人はそのことを事が起こった後で知るのだそう。
なぜなら親も本当に子供が性転換をするのか分からない。
中には総診断されても性転換せずに天寿を全うする人もいるらしい。
生まれた時のその診断確率は50パーセント、つまりそう診断された人たちの半分が性転換をするのだそうだ。
遺伝的に性転換するのだ。
僕たちが住んでいるこの世界はそう言う人たちが暮らしている。
しかし、世界の人口に比べると圧倒的にそう言う人たちは少ない。
10万人に1人とか100万人に1人とか言われている非常にマイナーな存在だ。
僕もあの日が来るまで本当に人ごとだと思っていた。
中学校の卒業式当日(3月)にそれは起こった。
僕はいつものように起床し寝ぼけながら洗面所に向かった。
その時にある異変に気づいたのだ。
鏡の中のベリーショートの美少女を見て僕はビックリした。
まだ寝ぼけているのだろうと思い僕は顔を洗った。
顔を洗い頭がシャキッとしたところでもう一回鏡を見た。
そして僕は想わず「わ〜!!」と叫んだ。
そしてその声に僕はもう一度ビックリした。
僕の発した声が女の子の可愛らしい声そのものだったからだ。
それから僕は自分の部屋に戻り体のありとあらゆる所を探った。
そして僕が男だった面影が全くないことに気づいた。
そうこうしていると僕の部屋に母親がやって来た。
母親はビックリしたような顔で僕をにらみつけ、そして僕をかわいそうに哀れむような顔をした。
母親は僕を一瞬で息子だと分かったらしい。
そして母親は携帯電話でどこかに連絡した。
僕のいるこの国では性転換後は速やかに行政機関に連絡しなければならない。
しばらくすると行政機関からであろう女性職員が雪崩のように僕の部屋に押しかけた。
そして僕はこのまま病院に強制入院させられてしまった。
病院に連れて行かれる時の母親の悲しそうな顔が今でも忘れられない。
当然中学校の卒業式には出られなかった。
病院に連れて行かれると簡易的な検査と診察が待っていた。
そして診察の先生から性転換後の心構えを聞いた。
先生は
「いい、これからあなたは女性として生きていかなければなりません。
男性に戻ることは二度と出来ません。
手術でも無理です。
あなたの体が耐えられないから。
ていうか、(遺伝的)性転換者は手術をすると体が耐えられなく死んでしまう可能性があるの。
だから絶対に男性に戻れない。
あなたはこれから1年間いわば女性としての第二次成長期に入ります。
あなたの体が女性としてどんどん成長していくの。
今は真っ平らな胸だけど3ヶ月ぐらいするとどんどん膨らんでいくし生理だって始まるわ。
これからの1年間、かなり体に負担がかかるの。
それでこれからの1年間は激しい運動は禁止、体育の授業は休んでね。
それからこれから1年間、髪の毛が異常に伸びるの。
1年間、その髪の毛は絶対切ってはダメ。
髪は女の命だからね。
それとこれから1年間、24時間ワンピースあるいはスカートを着用すること。
これも女の子の体に慣れる一環だからね。
寝る時もワンピース様式のパジャマかネグリジェを着用のこと。
それをこれから24時間365日すること。
それとこれから1週間入院してもらうけどそれは性転換後身体に異常がないか見るため。
その後はうちに帰っても良いけど4月からは全寮制の女子校に通ってもらうから」
今まで生きてきて今日ほど頭が混乱した日はない。
とにかく今日から僕は女子として生きなければならないらしい。
ちなみに僕が入院している病院は女性専門病院、僕がいるのが場違いに感じる空間だ。
僕はその病院で1週間女性としての基礎知識をバッチシ教わった。
そして家に帰ってからは寮生活に向けて準備をした。
僕が急遽進学する事になった全寮制の女子校は男子から女子に性転換した生徒が通う学校。
性転換した人たちは(未成年であるならば)そういった学校に通わなければならない。
そこでキッチリと女子教育を施すのだ。
卒業する頃には普通の女性と変わらないレベルまで教育するのだ。
正直ちょっと怖い。
だからその学校のことをいろいろと調べてみた。
一応お嬢様学校の系列らしい。
本校との交流もある。
世間的には卒業生はお嬢様と言うことになるならしい。
性転換者が通う学校のことはあまり知られていない。
そしてカリキュラムも女性としてお嬢様としてふさわしいカリキュラムになっている。
僕もこのカリキュラムを見てなるほど、普通の女性よりも女らしくなれるカリキュラムだと思った。
ちなみに逆の学校、つまり女性から男性に性転換した人たちが通う学校も存在する。
僕の通う学校とは逆でお坊ちゃん学校の系列らしい。
まぁ、僕には関係ないけれども。
これから僕はその学校に通って一端の女性として生きていかなければならない。
まだ、性転換してから日が浅く実感が湧かないがもう男には戻れない。
しかし卒業式当日が中学校の卒業だけでなく男を卒業するとは。
僕はこれから性転換者たちが通う女子校に通う。
僕から言わせれば男だらけの女子校だ。
僕は今これからやっていけるのだろうかという不安とどういう未来が待っているのかという期待で胸が一杯だ。