僕
日がめぐってめぐって3日がたった。満開の桜が拝めたのも昨日のみで、強風故にはらはらと舞い散り始めてしまった。
「人も、花も短いもんだ。」
蕙が窓の縁に腰かけて、そう言った。
「突然どうしたの?」
「今朝、松原の爺が死んだとよ。人間は弱く、脆い。時間がたてばコロッと死んじまう。」
「それは他の妖に話してよ。私じゃ、共感できない。」
澪里は少しむくれた表情を見せた。蕙は、はいはい。と言って早々に話を切り上げた。
「そういや昨日、紅里に会ってな、お前の世話してるババアの話ししたら難しい顔してたぞ。何か聞いてねえか?」
「え?ううん。ないけど、何を言ったの?」
「頑なに人を寄せ付けようとしない所・・・」
蕙は、素早く身を隠した。コツコツと足音が二人分して、部屋の-というより病室の-扉が開いた。いつも澪里の世話をしている50代の女性の後ろにもう一人、白髪の生えた、人の良さそうな女性がいる。
「実は、あたしの息子が倒れちまって、これから博多に行かなきゃいけないの。向こうの事が落ち着くまで、この人に面倒見てもらうことになるよ。じゃ、本城さん。頼みましたよ。ああそうだ澪里ちゃん。お母さんからメッセージがきてたよ。多分その人の事だと思うから、ちゃんと見ておくんだよ。じゃあね。」
それだけ言ってバタバタと階段を下りて行った。上着を着て、化粧もしていたからこのまますぐに発つのだろう。
悪い人ではなかった。ただ、少し不愛想で、自分が可愛いだけなのだ。ご飯も美味しいし、世話だってよくやってくれる。さっきの長広舌も息子が心配だという不安を持ちつつも引継ぎをしようとしていた。
ただの人間なのだ。
「慌ただしい人。澪里さん、私は本城玉枝です。これからよろしくお願いします。」
新しくやってきた女性が、丁寧に頭を下げた。
「あ、濱木澪里です。よろしくお願いします。」
玉枝はニッコリと笑って頷いた。
「そちらは?」
「え?」
「あの方は、妖の見える方ではございませんでした。ということは、私の気配だけで身を隠すべしとお思いになられたのかしら。」
蕙が、すっと現れた。
「私は引継ぎをされました。人を入れてはいけないと。」
澪里の顔が強張る。
「病気の事は?」
「聞きました。でも、紅里様に先に命令されました。貴方が、帰蝶と戦いやすいようにして欲しいと。」
「言わないで。」
澪里が切なげに呟いた。
「誰にも、言わないで。」
「ええ、勿論。私は紅里様の僕ですが、今の仕事は貴方様の下につく事。今からは、貴方の言う事が第一でございます。」
澪里は、ほっとしたように微笑んだ。玉枝もふふ、と笑って部屋を出た。蕙は、話に関して特に追求せずにいた。澪里の機嫌を損ねるのが嫌というよりは、聞かれたら困るだろうと思ったからであった。澪里の困った顔は、勿論可愛らしいのだが、恐ろしい罪悪感にさいなまれる顔であった。