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死にたがりと生きたがり  作者: 萌氏
一章
3/9

暖簾の色

「あ、明里ちゃんちょっと来て」

二人が一通り着終えると、澪里は明里を手招きしてタンスの方へ呼び寄せた。

「何?」

怪訝な顔を向ける明里の後ろへ回ると、澪里は手にしていた櫛で明里の髪を梳き始めた。そのまま手早く後頭部で団子を作る。

「どぉ?」

「すごい・・・ありがと・・・・」

「そんなお礼言われるほどじゃ・・・」

澪里はそう気恥ずかしそうに微笑むと明里と同じように、ただほんの少し大きい団子を作った。

「じゃあ行こうか。」

その時の明里の少し後ろめたそうな顔を澪里は今でも覚えている。



「すごい・・・」

澪里は思わずそう口に出していた。

濱木医院から歩くこと数分。二人の前には大きな日本家屋が姿を現した。明里は別段気にしない様子で暖簾に手を掛けようとしたが、ふととどまり澪里の手を引いて塀の端へ引き寄せた。

「澪里ちゃん。約束して欲しいことがあるの。」

「や、やくそく?」

明里はこくんと頷くとややあって口を開いた。

「まず、中に入ったら絶対に喋らないこと。二に、中で出されるものは食べないこと。三に私から離れないこと。この三つ守れる?」

「え・・っと・・・〝喋らない〟〝食べない〟〝離れない〟だよね。・・・うん。大丈夫。・・・・だと思う・・」

「最後に、あそこの暖簾。何色に見える?」

「え?」

おかしなことを聞くなぁ・・・と澪里は怪訝に思ったが、この同輩の友人の言動に無駄や冗談を感じたことはない。また、妙なものを立て続けに見ていたためなぜだかこの問いにも素直に答えた。

「緑・・・かなぁ?ちょっと青っぽいかも。端っこの模様はこう・・・模様も色も葉っぱみたいな感じ。」

「そう。」

「明里ちゃんは?何色に見えるの?」

「・・・・緑は、穏やかさや平和を象徴しているの。」

明里がその問いに答える事はなかった。

「行こう。」

ただ〝自分自身〟で、という事だが。



「すご―――――」

澪里は感嘆の声を発しそうになって思わず口元を覆った。

中は一見質素に見えるが、ところどころの年季の籠った細かい装飾品が味を添えている。否、それよりも澪里が驚いたのは廊下に溢れるモノたちだった。人とそうでないモノの交わる回廊は熱気がこもっており、澪里の体もねっとりと汗ばんでゆく。

「紅里様!?」

紅里は回廊に対して不快感をあらわにしていると突然呼び止められた。声の波はたちまち後方へと伝わっていく。

(紅里ちゃんって人気者なのかな)

澪里が確認できず首を傾げていると紅里は

「入り口はどこ?」

と冷静な声音で聞いた。

途端、紅里のまわりを纏わりつくようにしていたモノたちがすーと引き始める。

「こちらに・・・」

人だかりの中から腰を折り曲げた老婆が出てくると壁の一方を指して、忍び笑いをした。だが、笑いは強引に中断されることとなる。

紅里は小さく微笑み返すと、ゆっくり左手を持ち上げ指された壁に向けた。そしてほんの少しだけ手を押す。すると壁の一部が切り取られたように光り、そのまま開け放たれた。

一方からは感嘆の声が、もう一方からは憎悪の声が聞こえる。

「帰蝶の式ね。あたしが修行をしてないからって目の敵にしなくても。」

紅里は歯を見せて屈託なく笑った。

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