6話
俺は今とてつもなく憂鬱だ。
何故か、それは明日俺はまた1つ歳をとる。
10歳になるのだ。あかん
「クーちゃん。準備出来てる?明日の朝には出発だよ?」
「全然出来てないんだ。だから延期で」
「兄さん大丈夫。私が手伝ってあげるから。だから今夜にでも出て行って」
エリスちゃんの後押しがすごい。もっと兄とのしばしの別れを憂いて。
「クライスト、こっちにこい。話がある」
「いやだ!おとうさんとおかあさんとエリスともっといっしょがいい!」
「その話し方はやめろ。早くこい」
「あ、はい」
逃げ道なんてないよねー。
「んでお話とは?」
「お前はこれから世界を周ることになるだろう。だからお前に助言をしておこうと思ってな」
親父の中では俺も世界一周する事になってんのな。やらないからね?
「お前はまず王国を目指せ。あそこが最も近くにある大国だ。王国にはこの村よりも遥かに人が多く、きっとお前が成長するきっかけが見つかるだろう」
「そこって遠いの?歩いてどんぐらい?」
「お前なら20日ほどで着くだろう」
「遠いよ!死んじゃう!やっぱり旅はやめよう!」
タクシーくらい呼んでよね!俺まだ子供だからね!
「途中にいくつか村がある。何度か経由すれば大丈夫だ」
「その村だって遠いんだろ?やっぱ無理でしょ」
「その為の準備だ。食料もたくさん持たせる。無くなったら村で買うか、自分で食い物を狩りに行け」
スパルタ過ぎて草生えるとはこの事。
「兄さん、準備出来たよ。行ってらっしゃい」
「エリスちゃん。お兄ちゃんとっても嬉しいけと、同時にとっても悲しいよ。エリスはもっとお兄ちゃんと遊びたくない?」
「行ってらっしゃい」
お兄ちゃんショック。でも迷いなく答えるところも可愛いよ!
エリスは本当に準備をしてくれていた。
中身を確認すると食い物しか入ってなかったが、親父か母さんの指示なのだろう。調理器具がないのもそうなのだろう。
その晩は、俺の好きな物ばかりの飯。ということはなくエリスのリクエストになってた。
べ、別に嫌われてるとかじゃないんだからね!
まさかの親父の手伝いをしてからの翌朝。
休ませてよ。
「クーちゃん、行ってらっしゃい。気をつけてね」
「………………親父とエリスは?」
「え?訓練だよ?どうかしたの?」
あれれー?涙のお別れとかないの?
「んじゃ行ってきます」
「うん。頑張ってねー」
軽いなー。
だれてても仕方ないし、すぐ帰ってもすぐ追い出されると思うので出発。
出発してから5日目の朝。
「村どこだよ!!どんだけ遠いんだよ!!」
マジでおこでした。
言われた通りの道のりで移動してるはずだから、まず間違いなく村には着くはず。
村ごと引っ越しでもしたか?はっはっは。
村にまだたどり着いていないのもヤバイが、今もっと問題になっていることがある。
食料が尽きた。
節約して食ってた筈なのに無くなる始末である。
しかも、食料を調達しようにも周りに食えるものが魔物しか無い。
だが魔物を食うための処理が出来ない。
だって荷物に食い物しか入ってないんだもん!
周りに川もない。魚はダメ。
木の実を見る。激辛の果物がなってる。一度食って悶絶した。
野生の動物。魔物と一緒で無理。丸焼きにすれば行けんのか?わからん、やめよう。
母さんに教えてもらった魔術でどうにか出来ないかと思ったが、まず無理だ。
俺は魔術もセンスが無く、初歩の魔術しかできなかった。魔術は誰でも出来るものらしいんだがね。
なので、今あるのは空いた食料の分だけ魔石を詰め込んだカバン。つまり魔石でパンパン。のみなので、バカな俺に思いついた作戦はたった1つしか無かった。
生命力8割で闘気を作る。
闘気を全身に纏い、漏らさないよう注意。
準備完了。というわけで、位置について、ヨーイ。
「どん!」
作戦はシンプル。とにかく走る。
今まではダラダラ歩いてちまちま休憩してガッツリ寝ていた。魔物が来たら起きれるから完璧!
だったが、このままではマジで死ぬ。
だが今は元のペースより相当早い。3日歩きを1日ダッシュくらいのペースだ。多分もっと早いと思うがそんなもん。
これをやらなかった理由はもちろん疲れる、メンドくさい、なんとかなるべ、でした。テヘペロ。
まだ魔術の身体強化というものがあるがこれを使うともしもに対応出来ないからやめとく。
このペースで村に着かないと戦えなくなるもんねー。
そんなこんなで日が傾き始めた頃、闘気が残り6割、生命力が残り1割位になった。
めっちゃ頑張って消費しないようにしてたつもりだが闘気が減る減る。
休まず走り続けているから、生命力もどんどこ減る。
日が落ちきったら諦めて寝よ、と思いラストスパートをかけ始めた時。
村が。村が見えたぞ!
俺は………やっと……たどり着いたんだ!
あぁーしんど。
村の入り口あたりで歩き、見張りらしき人にご挨拶。
「お疲れ様でーす。入ってもいいですか?」
「少し待て。お前どこから来た?1人か?」
「隣?の村から来ました。1人です」
「それはハイル村か?」
「そうです」俺の村こんな名前なんだよな。入る村ってなんだよって最初思ったよ。
「嘘をつくな!お前のような子供があんな遠い場所から1人で来られる筈がないだろ!」
ですよねー。実際普通の子供ならまず死んでる。
「あとその荷物を見せてみろ!明らかに怪しいぞ!」
山賊かなんかの子分だとでも思ってんのかね。こんなかわいい子供になんで仕打ちだ。ぐすん。
「はい、どーぞ」好きなだけ見てちょ。
「あぁ、……………なんだこれは」
「魔石以外のなんかに見えます?」
魔石は紫色の石ころみたいな感じだ。魔力で出来てるからわからない奴はそうそういない。
「いや、だが何故こんなに持っているんだ?まさか、本当に1人で来たのか?」
「まさにまさかのその通り。ありえないですよね。俺は嫌だって散々言ったのに」
ひどい話だ。プンプン!
「………君の父はもしかして、クラース殿か?」
「えっ、なんでわかったんですか?似てる?」
見た目は母さん寄りのかわいい系だと思ってたんだが。
「いや、クラース殿も幼い頃旅に出たと聞いてな。彼は王国ではなかなか有名な家の出なのだ」
初耳でっせ。そういや爺ちゃんとかにあった事無いんだよな。
「ちなみにどう有名?」
「とても強く逞しい騎士の一族で、一族の皆全員がとても素晴らしい方々だ」
なるほど。
「そして皆、今の君のように旅をさせられたらしい」
なるほど。どいひー。
見張りのにいちゃんに優しい目で見られつつ村に入れてもらう。小さい村だが、たまに俺のように旅する人が来るらしく宿もあるらしい。というわけで行ってみよー。
「すいません。子供1人、今夜泊まれます?」
「こんなに夜更けに1人?何かあったの?」
メンドくさい。もしかしてずっとこんな感じで人に聞かれまくるのか?萎える。
テキトーに返事してるととりあえず泊まることが出来た。だが問題があった。金がない。
魔石で良いか聞いたらダメでした。
それなら晩飯と朝飯の手伝いしてくれれば良いよ。とのこと。ありがたやー。
んで次の日。
手伝いも終わり、魔石を換金………出来ませんでした。
まぁ村で魔術の研究だの、道具だのなんだの作ってることなど無いので必要ないですよね。
なので昨日と同じ作戦。ただただ走る。
飯抜きになるのは辛いが諦めイズ大事。
昨日とは反対にある入り口から出る。
反対の筈だが昨日のにいちゃんがいた。なんで?
「やぁ少年。もう行くのか?」
「はい。早く王国行きたいんで」
魔石売りたいじゃん。カバン一杯だから重いんだよ。
「そうか。なら気をつけてな。次の村まではハイルよりも近いから昨日までよりは楽だろう」
「歩いてどんくらいですか?」
「君の足だと………3日ほどだな」
どこが楽なのか小一時間問い詰めたい。
にいちゃんが笑顔で手を振って俺を送り出す。
また必死こいて走ることを考えると憂鬱だ。
なんて考えて、諦めてまた走り出した。しんど。