#3その不審者、禿げなり
超久々です
幼馴染のマルコの手によって俺は夢の世界より帰還した。
なんかやたら長い夢だった気がするが、内容に関してはかなりぼんやりしている。
まあ、夢とはそういうものだ。
「あ、やっと起きた!心配したんだよ、馨ちゃん痴漢に殴られたあとでしょー」
痴漢?殴られた?こやつは一体何を言っとるんだ……。
ん?待てよ、そういやそんな夢を見てたような。
というかもっと大事な事を忘れてる気がするんだが、何だっけ?
「今お昼休みなんだけど、一年の子が学校の周りで不審者を見かけたんだって。それで気を付けろって先生言ってた、痴漢の件といい、物騒な世の中よねー」
「不審者ねえ……」
そういやクラスが静かだな、周りに女子グループとオタっぽい奴しかいねー。
大方不審者探しでもしてんだろーな、俺は痴漢の夢でお腹一杯だわ。
マルコと二人、弁当を広げる。
気に入ったおかずをパクっては怒られるといういつもの飯時だ。
ただ一点を除いて。
「ホント、十さんなんで来ないんだろ……」
何だろうこの感じ、何か大事なことを忘れてる気がするんだよなー。
十郎から連絡でも来てねーかなと思いスマホを取り出してみる。
すると、タイミングよくメッセージがきた。
十郎:逃走中、援軍求ム
「ぶふぁ!」
盛大にお茶を吹き出してしまった。
「もう何やってんの!?汚ったないなあもー!」
ハンカチでお茶を拭いてくれるマルコに俺は無言でスマホを差し出した。
「へ?って!十さん何やってるの!?でんわでんわ……」
教室から出て行ったマルコを見送りながら俺は呼吸を整えた。
そして十郎の事を考えてみる。
(逃走中て、何から逃げてんだ?)
そもそも学校に来るだけだろ?
学校に来る……
逃走中……
不審者……
あっ。
そういや十郎、朝メッセで老けたって……。
朝?
なんかもう一つあったよな。
確か、美少女が……。
母さん。
あっ。
この時、俺の中で全てが繋がった。
「これ夢じゃねー!!」
マルコが出て行ったとはいえ、教室にはまだいくらか人がいる。
その中で叫んでしまった事を後悔してももう遅い……ああ来る、蔑みの視線が。
(安心せい、時間止めてやったわい)
そして、その声が聞こえた。
聞き覚えのあるジジイ……もとい神の声。
(どうした?願いを聞いてやったわりには嬉しそうじゃないな)
姿こそ見えないものの、ここには神がいる。
せっかくのチャンス、無駄にするものか!
(神さまなに冗談間に受けてんすか、こんなしょーもないことに神力使わんで下さいよ!それより叶えて欲しい願いが……!)
(キャンセル不可じゃ)
「あっ」
急に周りの女子の声が聞こえてきて、ジジイの気配は完全に消えてしまった。
(くっそ、俺はなんてことを……!)
世界征服すら可能だったかもしれないチャンスをこんな事のために使ってしまった。
どうしよう、もう立ち直れないかもしれない。
「おい!馨、お前早くこいっ!」
俺が頭を抱えていると、クラスの陽キャたちに詰め寄られる。
どうも、件の不審者にマルコが捕まったらしく、何でも俺に合わせろと人質に取った模様。
めんどくせえ……。
とはいえ、会わねばなるまい。
俺は促されるまま校庭に足を運んだ。
そこには、華奢なマルコをいやらしい手付きで羽交い締めにする
十郎の
変わり果てた姿があった。
俺には、こう叫ぶことしか……出来なかった。
「こ、
この禿げえええ!!」