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#1そのジジイ、神なり

 俺は夢を見ている。


 辺りはぼんやりと霞んでいて、視界の先に白いボロ切れを纏った爺さんが見える。

 これが夢でなければ、恐らく俺は死んだ事になるが、残念ながら死んだ記憶はない。

 つまりこれは夢だ。


「理屈っぽいガキじゃなあ……まあよい、おいクソガキ」


 ぷるぷる震えながらこちらに歩み寄ってきたジジイ。

 その手にはテレビゲームの魔導師が持っているような杖が握られている。


「このワシをジジイ呼ばわりとはいい度胸だなクソガキ」


「心を読むな。つーかあんたも俺の事クソガキ呼ばわりじゃねーか」


 俺がそう言い返すとジジイは豪快に笑い出す、そして咽せる。

 仕方ないから俺はジジイの背中をさすってやった。


「無理すんなよ、死ぬぞ」


「いやいや心配いらん、ワシは神じゃ。生死など超越した存在なのじゃ」


 は?神?

 そういう夢を見たのかジジイと聞きかけて止めた。

 これはもともと夢だ、この世界では神もいりゃあ悪魔もいる。

 幽霊にだってプリ◯ュアにだって会うことが可能だ。


「夢か、そう思うのはお前さんの自由じゃ。しかしこうしてワシと話せるなんてついとるのう」


 ジジイは目を細めながら白髪の顎髭を摩っている。

 俺は内心疑いながらももしこいつの言うことが本当だったらと思い一つ実験をする事にした。


「なるほど。ジジ……いや神さま。一つお願いしてもいいっすか?」


「何じゃ、現金な奴め。内容にもよるが……言ってみろ」


「俺には全くうちに居着かないゴミ親父に代わって実質女手一つで育ててくれた母さんがいます。その母さんが最近いつも年は取りたくないわ、若返りたいわと言ってるんす」


「ほう、でな?」


「へい。んで次に幼稚園からの腐れ縁になる友人がいるんすけどね、そいつがバカでバカで……十郎って名前なんすけど、俺がモてないのはまだ仕上がってないからだ、俺は中年になりゃダンディーイケメンになって毎日ライジングサンだとかほざいてんすよ」


「なるほど、バカじゃなそいつ」


 ジジイも吹き出した。

 俺は手応えを感じながら、願い事を申し出た。

 もちろん、叶うなんて思ってはいない。

 完全なるネタのつもりで言った。


「母さんと十郎、年入れ替えてやってくんねえすか?」


「おう、構わんぞ」


「「…………」」


 その答えに俺も吹き出した。

 ジジイそんな安請け合いしていいのかよ、仮にも自称神さまだろ。


 俺達はその後も意気投合し、最後は肩を組んでガッツポーズした所で俺の視界は見慣れた天井へと戻された。


「ん?んんー、やっぱ夢だったか……」


(なかなか気のいいジジイだったな、出来る事ならまた夢で会いたいぜ)


 そんな事を思いながら、学校に行く支度を始める。

 といっても教科書ノートは全部教室のロッカーの中なので持っていくのは財布、スマホに弁当を入れる為だけの鞄、以上三点だ。


 制服を適当に着て部屋を出る。

 今日の朝飯は何だろうと思案しながら、台所を覗き。


 !?


 いやいやいやいや!?


 何この美少女!?


 俺が慌てて引っくり返ると、その子はくるりとこちらを振り向いた。


「あらあらどうしたの?」


 小首を傾げながら歩み寄り、俺の前でしゃがみ込んだ。


「なーに?お母さんの顔に、何かついてる?」


 か、母さん?

 いやいやいやいや!

 ありえんっしょー!

 どんなアンチエイジングしたらそんな若返んのよ!?


「へんな子、それより早く顔洗って来なさいな」


 この可愛い声ったら、お届け出来ないのがマジ残念だわ。

 とりあえず引っくり返ってても仕方ないので、洗面所に向かうとしよう。


 俺は一つ気になり、母さんに尋ねた。


「なあ、今日一回でも鏡見た?」


 母さんはスカートを直しながら立ち上がり、そんな暇あるわけないでしょ、何言ってるのかしらこの子はとボヤいている。


(うーわ、これショック死ものじゃね?)

 俺は母さんの身を案じながら鏡の前に立った。

 するとポケットの中のスマホがガタガタと揺れたので、もしかしたら女子からの告白ではと期待しメッセージを開く。

 しかし【悲報】俺氏、急激に老ける【自殺待ったなし】というタイトルの十郎からのメッセージだったのでそのままポケットに突っ込んだ。


「ほらこれお弁当ね、って、あらあらもうこんな時間じゃない。急がないと遅刻するわよ」


 母さんに急かされるが、俺としてはそれどころではない。

 ぶっちゃけこんな可愛い子と朝から会話とかハードル高いっての。


「あの、母さん……」


「あら、なあに?」


 くはぁー!

 死ぬ!

 萌え死ぬ!


 何たる破壊力、ゴミ親父に俺は超可愛い母さんを嫁にした、俺達を超えられるかと聞かれ殴りつけた事があったけど……これはマジ超えられない壁かもしれん。


「お、俺!い、行ってくるし!」


 母さんの可愛いさに耐え切れなくなり、俺は鞄を抱えてダッシュで玄関へと駆けた。


「あらあら、いってらっしゃーい」


 くはぁー!

 死ぬ!

 萌え死ぬ!

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