ウラノスクイーン
後ろで手錠をされてベッドに座るM029を放って、姫輝は再び机に向かう。
早く打ち解けるには、冗談を言ってみるのも効果的と言う情報を、ELIZAが出してきたので、それを実行したら現実味があり過ぎた様で、姫輝を怒らせてしまった。
何とか冗談だと理解してもらえたが、罰として、喋る事と動く事を制限された。
「そろそろ時間だ、喋って良し。手錠も外してやるよ」
溜息を吐いた姫輝は、ベッドに寝転がって天井を仰ぐ。
姫輝とは反対の方を向いて寝転がると、脇の下に腕を入れられて、抱き枕にされる。
「あれが冗談だと分からなかったのですか、冗談が難しいのか姫輝さんが馬鹿なのか」
「MI6にあんな事言われたら、誰も嘘だって思わないだろ。身長も小さいし、随分と手頃なサイズになったな」
「胸は変わらないですけどね、この体だと少し大きく見えますね」
「そうだな、私には認識出来るほど大きいの付いてねーから分かんねえ」
足を挟まれて、完全に動きを制限される。
反省している態度を見せているELIZAは、視界の真ん中で正座をしている。
「ひと仕事終えたから、甘いものが食べたい」
ビクッと反応したELIZAは、立ち上がって近くの和菓子屋を表示する。
「もう帰るってのに、よくそんな暇があるな」
「帰りの手続きなどは、全てMI6の役目です。姫輝さんは付いてくるのですか」
「そりゃあな、もうこの国に居場所は無いし。お前はひとり暮らしなら都合が良い」
「仕事で殆ど家に帰りませんよ、諜報員ですから外国が多いですし。イギリスでもテロ対策で終日警戒でしょうし」
ピックアップした店を纏めて、フォルダの中にぶち込む。
残りの情報を片付けたELIZAは、ぐったりとして動かなくなる。
視界のド真ん中に居座るELIZAを、視線を動かして端に転がす。
ASCを埋め込まれた生物は、常に制府に健康管理などを監視されている。
その為、過食や拒食をすると、直ぐに警告が表示される。
警告を無視し続けた生物は、制府により監視下に置かれて、隔離部屋で健康体になるまで外に出られない。
以前それが表示された時は、全て嘔吐して黙らせてやった。
それからはELIZAの知能を駆使して、制府に偽の情報を送るプログラムを組ませた。
Dummy Programを起動してからと言えば、暴食を続けて一時期体を壊した事がある。
朝昼晩洋菓子の上に、間食まで入れた栄養そっち退けの生活は、そう長くは続かなかった。
任務に支障をきたした事により、ユージーンから上官にバレて、当時滞在していたバチカン市国から、本国のイギリスに送還された。
それに懲りた俺は、ELIZAに健康管理プログラムをインストールさせて、甘い物だけの生活は終わった。
制府でない日本は、そんな面倒な警告も無い。
ASCすら埋め込まれておらず、自由で生物らしい生活を約束されている。
リスクと言えば、自由を制府の下で行うよりも、より大きな責任が後から来る。
そんな面倒な説明を長々と見て、ELIZAから姫輝を連れて行くリスクを、遠回しに突き付けられる。
全て削除してしまい、フォルダに入れた和菓子屋の情報で、視界を埋め尽くす。
情報に追いやられたELIZAは、両手でせっせとフォルダに情報を戻す。
姫輝の腕を退けて、拘束から抜け出して服を整える。
ホルスターを肩にかけて、MP-433をズボンの間に挟む。
「何処に行くんだ、もう直ぐで飛行機の時間だぞ」
「響さんに挨拶して来ます。卯衣さんにも。色々とお世話になりましたので」
廊下を歩いていると、窓の硝子がバラバラに飛び散って、体に小さな衝撃が幾つも突き刺さる。
遅れてディストーションを張ったELIZAが、サーモグラフィで人影を認識する。
五つの人影が、個々に散っていく。
反撃を試みたが、想像以上にダメージ量が大きく、腕が垂れ下がったまま、ホルスターまで上がってくれない。
音を聞いて部屋から飛び出して来た姫輝は、倒れ伏した俺を抱え上げて、コードネームを叫ぶ。
意識レベル低下。器官の機能低下。聴力低下。警告を伝える表示が、警告で赤くなった視界に次々に表示される。
視界の真ん中に現れた粒子が形を作り上げて、人型のELIZAを組み立てていく。
警告で散らかった視界で、ELIZAが何かをアンインストールする。
その瞬間警告が全て消えて、意識が途切れる。
ーーーーーーーー
目を覚ますと、ASCを入れた時と同じ部屋で横たわっていた。
以前も同じ様な事で、この部屋で目覚めた事がある。
意識が回復したのをモニタで見て、医者が病室に入って来る。
「M029さん。今回貴方に施した手術は……」
「以前にも受けたので分かっています」
MI6のエージェントのASCには、少しだけ特殊な機能が備わっている。
今回の様に、他国のエージェントや、テロリストに情報の漏洩を防ぐ為に、全身の機能を停止させて脳を凍結させる。
それによって仮死状態になり、記憶媒体となっているASCから、情報が抜き取られる事も、脳が死ぬことも無くなる。
但し、凍結の他に、雷撃処分と言うものがある。
これはエージェントが自害する事が出来なくなった時や、ASCが不備を起こした時に実行される。
自害する事が出来なくなったエージェントを、他のエージェントが直接手を下す。
ASCが生きていれば、中にある国家機密の液体が、急速に体を白骨化させる。
この機能が備わっているASCを付けているのは、イギリスのエージェントだけで、他国ではどの様な処分が下されるのかは不明だ。
病院から出ると、スーツを着た男ふたりに、車の中に促される。
それを無視して、停まっていた無人タクシーに乗り込む。
タクシーの前に立ち塞がったふたりは、直ぐに下りる様にシェイクハンドで伝える。
行き先をデバイスに送信して、男たちを退けて、車が目的地に向けて発進する。
駐車場から出たタクシーは、法定速度をしっかりと守って、ノロノロと前方車両と車間距離をとって、MI6本部に向かう。
「M029またタクシーか、本当に有人の車には乗りたがらないな」
「言いたい事があるならハッキリ言ってください。それとも何も無いのですかユージーン」
ASCの情報を受け取って、覚醒した事も、病院から出た事も、無人タクシーに乗り込んだ事も、全て見ていたユージーンは、タイミングを図るように通信を入れる。
温かい雰囲気の日本とは、景色も人も全く違う。
全て機械化されたイギリスの街は、それに順応する様に、人も機械のようになっていった。
歩道を歩く人は殆どが無表情で、学校の校庭に子どもの姿は無い。
人口の減少と同時に過保護になり過ぎた世界は、わざわざ子どもに外で遊べとは言わない。
公園で遊んでいた子どもが転びそうになると、地面からクッション材が展開して、即座に衝撃を殺して保護する。
子どもが街灯にぶつかりそうになると、街灯が変形して避ける。
より人間を大事にする制府は、早く治すではなく、この国から怪我や病気を駆逐しようとしている。
今の国のトップの名は知らないが、そう言ったマニフェストを掲げて、選挙に見事勝利した。
他からすれば有難いかもしれないが、コチラとしては至極迷惑な話だ。
昔の様に公園のゴミ箱で爆発物が爆発するテロや、学校に乗り込んで子どもを撃ち殺すなど、そんな事件は全く無くなった。
無くなったと言うより、不可能になったと言った方が、この国では適当かもしれない。
「退屈な世界……このままずるずる生きてたら、磨り減って消えてしまいそう」
「……休暇中に悪かったな」
今の独り言を聞いていたのか、ユージーンは言いにくそうに、申し訳なさそうにそう言う。
「貴方が謝る事じゃない。全てMI6のトップに問題がある、あんな任務は下の工作員にやらせれば良い」
「それがな……最近はMI6狩りが頻発している。下の工作員じゃ確実にヘマするだろ、今回はマスター直々の指名だったんだ」
「指名されておいて悪いけど、俺は今回ヘマしたけど」
「まだ俺しかその情報は握ってないから、ここで揉み消す事も出来るけど」
顔が見えないユージーンは、今どんな顔をしているのだろうか。
真剣な顔でモニタに向かっているのか、落ち込んだ顔でぼうっとモニタを眺めているのか。
「いい、バレたらユージーンの信用が落ちる。貴方が責任を感じる事は無い。負わなくて良いのだから、それは唯の責任感。本当に負うべきなのは責任だから」
「御免な、お前ばっかにこんな責任負わせて。何かあったら何でも言ってくれ、協力出来るなら何でもするよ」
無人タクシーが停車すると、デバイスに金額が表示される。
口座からタクシーにお金を払うと、ドアが自動で開く。
舗装された歩道に足を着くと、目の前に、MI6本部のビルがそびえ立つ。
ワンテンポ遅れて到着した迎えのエージェントに、両脇を固められる。
「どうにかならないのユージーン、俺は逃げないけど」
「ウラノスクイーンからの命令なんだ、こればかりは協力してやれない」
入口のデバイスにコードネームと、エージェントコードを送信する。
目の前の扉が開くと、外からは見えなかったロビーが、姿を現す。
エレベーターに乗り込んで、上の階に上がって行くと、ELIZAがメッセージを受信する。
メッセージを開くと、送信者が不明だった。
内容は何も無く、真っ白の状態で目の前に表示される。
こんな時代に悪戯で送り付けてくるなんて、命知らずな暇人も居るみたいだ。
その気になれば通ってきたルートを辿って、送信元が特定出来る。
「辿ってELIZA、これが終わったら行ってみる」
「じゃあ、ちょっと行ってきます」
メールが送られてきた電波を辿る為に、ELIZAが中から居なくなる。
目的地の百階に到着すると、衝撃を殺して滑らかに止まる。
足を前に出して歩くと、相変わらず全部が真っ黒な部屋だった。
床も壁も机も椅子も、天井もカーペットも、何もかもが黒で、深淵に踏み入ったみたいな感覚になる。
「M029只今到着しました。御要件は何でしょうかウラノスクイーン」
部屋の真ん中で立ち止まり、今回自分を呼び出した、MI6を束ねる人の愛称を呼ぶ。
真っ黒な物が視界の真ん中で回転する。
背後から冷たいものを感じ、反転して腰のMP-433に手をかける。
正面に銃を構えると、自分よりも少し小さいウラノスクイーンが、含みのある笑顔を浮かべていた。
「久し振りだねM029。君のASCが途中から異常な動きを見せたんだけど知らないかな?」
「普通に出て来て、ASCの事はもう掴んでる癖に、タチが悪いです」
くるくると踊るように椅子に座ったウラノスクイーンは、飛び込む様に椅子に座る。
「君の不正は大抵見逃してあげるよ。私の娘同然だからね、君たちエージェントは」
「死ぬ寸前の遺言でもそんな事言わないで下さい。正直に言います。気持ち悪いです」
「たはっ」
「用件が無いのなら……」
ウラノスクイーンの部屋から出ようとすると、一通の司令書が送信されてくる。
足を止めて、ウラノスクイーンの方に振り返る。
「これは本当ですか。日本の最強艦隊が動いたと言うのは」
「うむ。繁栄を極めた帝国時代よりも強力でね。まだ詳細は掴めてないけど」
「これをどうしろと言うのですか」
「まだ何もしないが、君にはこの艦隊に関係する任務を頼むかもしれない。だから事前に伝えただけだよ。今回は他の任務だ」
また違う司令書が表示されて、Absolute orderと書いてある。
ひっそりと帰って来たELIZAを確認して、同時進行で話を進める。
「休暇中ですから、他のエージェントに頼んで下さい。私の他に、四人の優秀なエージェントが居ると聞きます」
隣に表示されているELIZAが特定した地点を確認して、再び歩を進めようとすると、エレベーターがロックされる。
「Absolute orderが見えないのかな。このテロリストを潰す事は、我々に大きな意味をもたらす」
「MI6の権威やらにに興味はありません。無差別殺人をする者を消すだけです」
「君の過去は分かっている。育ての親をテロリストに殺された、その過去も理解している」
「そんな過去知りませでした。MI6になった時からしか、記憶がありませんので」
不味いと思ったのか、ウラノスクイーンは、机に置いてあった、携帯ゲームをやり始める。
携帯ゲームにELIZAを侵入させて、ゲームを中断させる。
膨れっ面になってジト目で睨まれるが、机に手を着いて睨み返す。
動かなくなったゲームのボタンを連打して、諦めたウラノスクイーンは、ゲーム機を机に置く。
「記憶を返して下さい。貴女が保管している事は知っています、その記憶媒体に保管してあるのですか」
「確かに持っている。だが、今は渡せない。私にとって不都合だ。兎に角、任務は遂行してもらう」
MP-433をウラノスクイーンの目に合わせて、引き金に指を掛ける。
この見た目の小さくて幼い体の中に、どれだけ多くの情報が詰まっているのか、想像したところで無駄だろう。
人智を超えたウラノスクイーンは、何百年も前から生きているという記録が残っている。
その歴史の中でも、真名を知る者は、たったひとりしか存在していなかった。
そのひとりは数年前に死去して、再び真名を知る者は居なくなった。
此処でウラノスクイーンを撃ったら、一体このMI6は如何やって崩れて行くのだろう。
「これが最後です。記憶を返して下さい」
「また何時か返そう」
答えはノーと出たので、引き金を躊躇無く引く。
それに呼応して動き出したMP-433が、ひとつひとつバラバラに分解する。
「だから貴女は嫌いです」
「私は君を男として好きだけどね」
ELIZAをゲーム機から追い出して、再びシミュレーションRPGを始める。
MP-433のマガジンと弾丸を、全てウラノスクイーンの机に置いて、司令書に受諾のサインをする。
サインした司令書を、ウラノスクイーンに送る。
ゲーム機の画面から視線を上げたウラノスクイーンは、幼い少女の笑顔を向けてくる。
またひとつ恨みを積み重ねて、ウラノスクイーンの部屋から辞す。
エレベーターが一階に到着すると、珍しく通信係のユージーンが、ロビーの壁にもたれかかっていた。
エレベーターから下りたのを認めると、ユージーンが俺に向かって歩いて来る。
「久し振りM029。休暇中だったのに御苦労様。今から昼飯食べに行かないか?」
「早く休みたいのでまた今度」
「待てって、良い洋菓子屋を見つけたからさ、食後にそこでどうだ?」
「後免。今はそんな気分じゃないんだ。明日連れて行って下さい」
MI6本部から出ようとすると、ユージーンに、ふたりのエージェントが声を掛ける。
「おい、あれってブラッディ・ファントムだろ。よくあいつと付き合えるな」
「見ただけでも殺されそうな雰囲気だな。他人と協力しない自分勝手な奴」
聞こえるように大きな声で言ったのか、内容が全て聞こえてくる。
気にせずに本部から出ると、大型のトラックが突っ込んで来る。
回避する為に飛び込んだが、両足が建物とトラックに挟まれて、骨が粉々に折れる。
「先程のメールの送り主から、再びメールが来ました」
送信されて来たメールを開いたELIZAは、怒りを表に出して、メールのアイコンに拳を叩き付ける。
メールの内容を読む。
楽しんで頂けたかなMI6のエースさん。これから目の前に地獄が始まるから、もっと楽死んで下さい。
メールを閉じて周りを見渡すと、街を歩いていた人々が、片っ端から車の中の男に撃たれる。
コルトガバメントをホルスターから出して、銃を乱射する男の車のタイヤを撃つ。
バランスを崩した車は転倒して、他の車を巻き込んで滑って行く。
次に車高の低い大型トラックが突っ込んで来て、最後のクライマックスを迎えようとする。
動かない体で何が出来るでも無く、トラックが走ってくるのを、他人事の様に眺める。
「ディストーションを展開します。諦めないで下さい、此処で終わるとウラノスクイーンに負けた事になります」
危険を回避する為に、ELIZAが自動的に防御システムを展開する。
目に見えないディストーションが、トラックに踏み潰されて弾けた車の部品を、虚空で静止させる。
「それは癪に障る」
手を使って地面を這って、MI6本部の中を目指す。
中から走って出て来たユージーンに、体を引き摺られて建物の中に運ばれる。
「大丈夫か。M029の顔も、ASCのアカウントもバレてるみたいだな。何処のテロ組織か分からないけど、今回は手強いな」
「ユージーン。此処に置いていってくれ。床が汚れる」
引き摺られて運ばれると、床に血が付いて、二本の赤い線が引かれる。
血にまみれた両足からは、骨が突き出ていたり、変形していたり、酷い有様だった。
大きな衝撃がMI6本部に響くと、ウラノスクイーンから、通話が来る。
通話に出ると、角膜にウラノスクイーンの顔が映し出されて、通話が開始される。
「床は汚して構わんぞ。緊急手術室に運べユージーン。対策は幹部と共に考える、それまで全てのエージェントは待機させる」
通話が一方的に切られると、一緒に聞いていたユージーンが、俺を抱え上げて緊急手術室に運ぶ。
今日会うのが二回目の医者は、溜息を吐いて手術の準備を始める。
医療が発展した今の時代、元あった体の部位などが全て揃っていれば、よく分からない液体に漬けておけば、一時間も掛からずに治る。
少し痛みは生じるが、急患の場合は一瞬で治すことも出来る。
急患では無かったが、ウラノスクイーンの命令で、痛みのある液体に漬けられる。
幸いなのか、骨はひとつも置いて来ていなかったらしく、足を潰された時よりも痛む治療のおかげで、魔法の様に足が完治する。
「三回目は勘弁して下さいよ。この液体は、十リットルで家が二つ建つんですよ」
「お代は払います。いくらですか」
「君にはそんな財力が……」
医者の持っているデバイスに、残高のデータを送信すると、後半口が動くだけで、言葉が出て来ていなかった。
デバイスを覗き込んだユージーンも、目を細くして桁を何回も数え直す。
「前聞いた時よりも、恐ろしい程桁が跳ね上がってるけど。目が疲れてるのか」
「合ってると思う。日本の円に直すと三十二恒河沙さんじゅうにこうがしゃ最早ゴミの様にある。お金の単位に使われないけど」
「これは制府が軽く買える値段だろ。百代先まで繁栄するだろ」
「使い時が無いのと、ウラノスクイーンからの直接の命令だから。貯まりに貯まった」
医者が呆気にとられて動かなくなった為、取り敢えず一億をMI6医療部に振り込む。
椅子から立ち上がって、液体で濡れた足を拭く。
靴下を履いて、少し大きい靴に足をすっぽりと入れる。
手術室から退室して、テロがあった本部前に出る。
放置されたトラックと、ぐちゃぐちゃに荒れた道路が残っていて、テロリストは既にひとりも残っていなかった。
「掴めたか」
「勿論です」
黒い革手袋に指を入れて、指を動かして手に馴染ませる。
通信科に戻ったユージーンと通信を繋いで、ウラノスクイーンのAbsolute orderを開始する。
「こちらユージーン。通信状況はどうですか? どうぞ」
「こちらM029。通信、心身共にオールグリーン。オペレーション『ブラッディ』スタート」
ウラノスクイーンから追加で送られて来た作戦名を読み上げて、テロリストのアジトを目指す。
今回の作戦名『ブラッディ』は、血の雨を降らせろと言う、ウラノスクイーンの、遠回しな悪趣味だろうと思われる。
血に濡れたと言う意味があるブラッディには、うってつけの作戦だ。
やられたらやり返す、これが日本で学んだ武士道の心であり、弔い合戦と言う大義名分を掲げた戦い。
ウラノスクイーンが用意した車に乗り込んで、ハンドルを両手で握る。
車のデバイスに接続して、全てのシステムを起動させる。
アクセルを全開で踏んで、ノロノロと法定速度で走る車を、次々に抜いて行く。