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叛抗姫の人形  作者: 聖 聖冬
7/41

佐世保保安祭事件

未だ約百年前の姿を保っている日本は、機械化があまり進んでおらず、暖かな雰囲気に包まれている。


イギリスの祭りは全て機械化されていて、機械の放つ冷たさで、とても楽しめるものでは無い。


それに比べて、日本の祭りは皆が笑顔で、出店の人も皆良い人だらけだ。


これが政府の作っている国で、制府には出来ない国なんだと。


元はイギリスもこんな暖かな国だったのだろうか、自分の中で想像してみる。


無駄な事だと考え、想像を打ち切る。


「人が沢山ですね、人混みは苦手です」


「それが祭りなんだから、含めて楽しむもんだろ。私はなかなか良い景色だと思うぞ」


横を歩く姫輝は、店などを色々見ているが、M029にそんな余裕は無かった。


腕を掴んでいるのが精一杯で、慣れない服にも苦戦していた。


周りよりも身長の高いふたりは、注目を集めてしまい、恥ずかしさすら湧いてくる。


「意外と女らしいところはあるんだな、最初見た時は私って言うから、本当に気付かなかった」


「俺の方で慣れていたのですけど、薫さんが私にしろと」


「長官は変わり者が多いからな、この祭りも佐世保の長官が呼び掛けて、最近始められたものだしな」


「騒ぐのが好きなのですね、俺はそんな生活とは真反対でしたから。でも、新鮮で楽しいです」


人混みを抜けて、ベンチに腰掛ける。


お茶を買って来てくれた姫輝は隣に腰掛けると、ペットボトルに入ったお茶を手渡してくれる。


「有難う御座います」


「私の方が可愛いと思う、俺じゃなくて」


「今更可愛さなんて、それ程重要じゃないですよ。私に求められているのは強さですから」


姫輝が私の方が可愛いと言っていたので、表面上では否定してみるが、こっそり私にしてみる。


「明日イギリスに帰るんだろ、私も一緒に行って良いか? 辞表は出してきたから、無理って言われても付いてくけどな」


軽い話をする様に喋る姫輝に、危うく流されそうになった。


「待って下さい、辞表って……警部ですよ。まだ上を目指せるのでは」


「出世コースから外れちまったんだ、これ以上居ても消耗品として使われるだけだ。そんなんより、お前と行った方が楽しそうだろ?」


「国外旅行みたいに言わないで下さい。テロが多発する危険な場所です」


「私は警部まで腕ひとつでのし上がったんだ。実力はそこそこある方だ」


雑木林に向かって銃を発砲した姫輝に手を引かれて、祭り会場に戻って人混みを駆け抜ける。


「どうしたんですか、いきなり発砲して。危険過ぎます」


「日本にもテロはある、ここ最近増えてきている。本来お前が呼ばれた目的は、日本に恩を売るためだ」


人混みを押し退けながら進んで行くと、前方で大きな爆発が起きる。


舌打ちをした姫輝は、一瞬でパニックに陥った人々に押されていく。


「姫輝さん」


「くそ、退けよ」


それぞれ人に揉まれながら、距離が離れて行く。


銃をと思ったが、薫に預けている今、自分が闘うことが出来る手段は素手のみ。


銃火器を相手にしても、突っ込んでいる途中に自分が力尽きる。


「足下にディストーションを展開して、脇に避ける」


足下にディストーションが展開され、それを踏んで人混みから抜け出す。


爆発のあった場所に向かい、雑木林の中を走る。


爆破地点を予測したELIZAは、角膜に地図を表示して、赤いポイントでその場所を示す。


人が居なくなった出店の前の道は、異様な光景となっている。


肉塊を焼いて売っている出店から、短刀位の長さのナイフを借りる。


「爆破地点が見えました。神輿が爆発した様です」


神輿の破片の周りには、血を流して倒れている者が多く居た。


「大丈夫、大丈……」


反応するか確かめる為に、ひとりひとりに声を掛けていると、前方から自動小銃の発砲音が聞こえた。


しかし、弾丸は空中で止まって、M029に届く事は無かった。


「ディストーションを収束します」


「展開し続けて」


「再展開します」


「無差別が、一番頭に来る」


ナイフを逆手持ちにして、自動小銃を持つ男との距離を詰める。


男は弾を連射するも、全てディストーションに阻まれる。


ナイフの間合いに入ると、ディストーションが収束される。


大きく振りかぶった右手のナイフを、男の顔目掛けて振り抜く。


右手を男の太い腕に止められるが、真打の左突きが男の鳩尾に入る。


よろけた男の顎目掛けて、ナイフの柄頭を打ち付ける。


更に大きくよろけた男に前蹴りを放つが、男の腹に当たってから、男は足を両手で掴む。


「しまった……」


足を思い切り上に投げられて、地面に転倒する。


「気絶させた後、可愛がってやるよ」


仰向けのM029に馬乗りになって、男が拳を叩き付ける。


「ディストーションを展開します」


頬すれすれでディストーションに阻まれた拳は、次の攻撃を行う為に、再び大きく振り上げられる。


「突撃ー!」


男の背後から聞こえた声と同時に、男の目が飛び出て、上に倒れてくる。


男が退けられると、睡蓮の顔が視界に入る。


「大丈夫? 良かったね、私たちがここに来て。やっぱりそう言う性癖だった?」


「違います。襲われるのは嫌です」


「テロリストはひとり?」


「分かりません、ひとりしか来なかったので。残りは逃げたのかもしれません」


立ち上がって服に付いた泥を払うが、白いワンピースには、茶色い汚れが付いたままだ。


歩いて来た薫は、トレンチコートを羽織らせてくれる。


「ごめんね遅れちゃった。睡蓮ちゃんが準備するのが遅くて」


「あんたがメイクしてたからでしょカマ野郎! あと、これ貴女の銃でしょ」


睡蓮はホルスターに入った二丁と、MP-433を別々に渡す。


人が逃げて行った方で、再び爆発が発生する。


弾かれる様に走り出して、力一杯地面を踏んで進む。


姫輝が巻き込まれた可能性がある、悪い予感が当たらない様に、走りながら姫輝を探す。


雑木林が揺れる音がして、帽子を被った男が走って行く。


その男を追っている姫輝が、その後に続いて雑木林に入って行く。


「姫輝さん」


姫輝を呼んだが声は届かず、振り返ることなく雑木林に消える。


男が消えた先から、多くの発砲音が聞こえた。


自動小銃の音、数は三人。


「サーモグラフィに切り替えます、スコープ併用」


視界が切り替わり、四つの熱が人型に映る。


「エコーロケーションを準備して。フラッシュバンを使う」


ピンを抜いて前方に大きく投げる。


耳を塞いで、サーモグラフィに映る熱の方を見る。


反響した音を拾って、全員の体格を把握する。


スコープと腕を接続して、寸分違わずテロリストの足を撃ち抜く。


生垣を掻き分けて、姫輝の形を捉えた方向に走る。


生垣を抜けると、肩で大きく息をして、木の幹に寄り掛かって座り込んでいた。


生垣を抜けようとする音に、姫輝は銃口をこちらに向けていた。


「お前か……無事で安心した」


「俺は負けませんよ、少しだけ危なかったですが」


「流石MI6だな、爆弾は上空で爆発したから、被害は無いと思う」


「あまり無理はしない事が、生き残る秘訣ですよ」


座り込んでいる姫輝が頭に向かって手を伸ばしたので、目を瞑って撫でられるのを待つ。


頭をくしゃくしゃと撫でられて、後頭部に手を添えられて、引き寄せられる。


「服が汚れているので駄目です」


「良いだろ、髪の毛に付いてた葉っぱを取ろうとしただけなのに、目を瞑って撫でられるのを待ってたから、サービスで撫でてやったんだ、抱き締めるくらいサービスしてくれ」


「部屋に帰ってお風呂に入ったら良いです。先ずは響さんと合流しましょう」


「その時は抵抗無しだからな、好きにさせてもらうぞ」


手を引っ張って姫輝を立ち上がらせると、警告音が脳内に響く。


角膜に表示された矢印の方を見ると、足を撃たれたテロリストが、自動小銃の引き金を引こうとしていた。


「ディストーションを展開します」


視界の隅のELIZAが、軍人のコスチュームで、アトラクションの従業員みたいに、大袈裟な動きをする。


空中で止まった弾丸が地面に落ちると、三人のテロリストは、残弾の無くなった銃を捨てて、後ずさりをして逃げようとする。


「ディストーション収束、死ねテロリスト」


MP-433の銃口から吐き出された銃弾は、三人の目を的確に撃ち抜いて、脳幹を削り取る。


十点の札を上げているELIZAを無視して、生垣を掻き分けてお祭り会場に戻る。


「M029は、テロリストに恨みでもあるのか」


生垣を抜けて隣に立った姫輝は、MP-433を右手に持つ。


「育ての親を殺された。親は無差別テロに巻き込まれた、上層部からはそう聞かされた。私にはMI6になってからの記憶しが無いから、自分では覚えてない」


「嘘って可能性は無いのか」


「私に嘘をついて、上層部に利益が無いこと。嘘じゃない事の証拠」


「生きてるかもしれないだろ、私も一緒に捜してやるよ。私も妹を捜す為に警察官になったからな」


騒動が収束して保安庁に戻ると、ぐるぐる巻にされて吊るされている薫が、入口で出迎えてくれた。


「あら、ちょっと下ろしてくれない?」


「睡蓮さんがやったのですよね、なら俺には何も出来ない」


「おい、良いのか放っておいて」


助けようとする姫輝を押して、建物の中に入る。


廊下に立っていた睡蓮は、銃を突然こちらに向ける。


何の躊躇いもなく発砲すると、頭上を滑って行った弾丸は、薫を吊るしていたロープを切る。


地面に落ちた薫は、潰れた蛙の様な格好になる。


「無事だったみたいね、特殊な性癖な人」


「変態呼ばわりしないで下さい、そんな性癖は無いです」


「まあ、ふたりとも無事で何よりだわ。イギリスの客人に怪我させたとなったら、国際問題になるもの」


睡蓮は二発発砲して、落ちた薫のロープを完全に解く。


踵を返して戻って行った睡蓮は、へしゃげた扉を引き摺って、長官室に入る。


「ふたりともお風呂に入っちゃいなさい、籠に入れておいてくれれば、ここの人たちが洗ってくれるわ」


去り際に、薫は姫輝をまじまじと見て、「あなた好みだわ」とだけ言って去って行く。


お風呂に入る為、薫の少し後を歩くが、姫輝が一向に来ない。


「どうしたのですか」


「えっと、何でもない」


我に返った姫輝は、隣を歩かずに、少し前を歩く。


心ここに在らずと言う感じの姫輝は、ひとりで廊下を進んで行く。


スコープを使用して、姫輝の背中に向けて三発発砲する。


弾丸は姫輝に当たらず、廊下を突き当たった壁に当たり、壁に穴を開ける。


「敵か?」


振り返って銃を構えた姫輝に近寄り、姫輝が持っている銃を掴んで、銃口を自分の左目に向けさせる。


「敵です」


「は?」


「敵をよく見て下さい、目を逸らさないで」


「お前は敵じゃないだろ、危ないから手離せ」


銃から手を離すと、銃を仕舞った姫輝は、M029に手を差し伸べる。


それを無視して、M029は廊下を早歩きで進んで、脱衣室に入る。


汚れた白いワンピースを籠に入れて、下着を脱ぐが、ブラジャーの外し方が分からない。


ナイフで紐を斬って、肩から外す。


「後免って、そんなに怒らな……」


後から追って来た姫輝に、手に持っていたブラジャーを投げつける。


姫輝は顔に当たったブラジャーを拾って、優しい笑顔でM029に手渡す。


「それは差し上げるので、こちらを見ないで下さい。見たら殴りますから」


「貰っても嬉しくないからな、変な所切れてるし」


黒いブラジャーの紐を持って近付いてくる姫輝に、籠の中の下着を投げる。


「見るなって言ってるじゃないですか」


タオルで隠しているが、下着を投げた弾みに少し浮き上がる。


焦って真下に投げてしまった下着を、拾ってからM029にハグをする。


「フライングのハグ、意外と女の子の柔らかさだな」


「し……し、死ぬ」


頭に血が急激に上り、目眩に襲われて全機能がシャットダウンする。


「修復不可、全ての命令を解除します」


ELIZAの声を最後に、視界が真っ暗になって、前に倒れる。


ーーーーーーー


目が覚めると、木の天井と卯衣の顔が映る。


立ち上がった卯衣は、部屋から出て行くと、入れ替わりで姫輝が入って来る。


上半身を起こすと、掛けられていた布団がずり落ちる。


「起きたか、突然倒れたから心配したぞ。誰にも見られてないから安心しろ、聞きたい事が沢山ある」


「服くらい着せてもらっても良いですか。もう見られたので良いです、気が済むまで見て下さい」


机に向かって座っている姫輝の背後に忍び寄り、腕を絡めて背後から抱き着く。


誘う様に耳を舐めて、吐息を耳に吹きかける。


「おいおい、折角服を買っきてやったのに。要らないのか?」


「……いけず」


椅子ごと姫輝を倒して、上に覆い被さる。


瞳をじっと見てくる姫輝の目を見ていると、再び頭に血が上る。


「無理するな、疲れが溜まってるんだろ。また倒れるぞ」


姫輝は足先を腹に当てて、M029を押し上げて、半回転させてベッドに戻す。


掴んでいた両手を離して、布団を深く被る。


枕元に置いてあった下着を履いて、袋の中に入っていた、サイズの大きいワイシャツに袖を通す。


「白いワイシャツから透けて見えるのが好みですか?」


腕を精一杯伸ばしても、袖から手が出てこない。


それどころか、手ひとつ分余っている。


膝で立つと、膝の少し上まで隠れて、袋の中に入っている黒いジーンズが、必要なくなる。


「先ずひとつ目、何で体が縮んでる」


「透けて見えるのが……体が縮んでるって、チビって遠回しに言ってますよね」


「分かったから教えてくれ。まだ聞きたいこともあるから」


「元は百六十一センチです、プログラムで高くしていただけです」


膝を抱えて座るM029を見て、姫輝はまた謎が増えたと言う顔で、スーツに着替え始める。


「ふたつ目、何を狙って日本に来たんだ」


「貴女の命とここの長官の命です。一番の目的は世界大戦の遺産艦です」


「MI6が動くって事は、あるんだな遺産艦が」


「そう命令があったので、私はこの日本に来たのです」


着替え終わった姫輝は、MP-433の銃口をこちらに向けて、手錠を取り出す。























































































































































































































































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