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叛抗姫の人形  作者: 聖 聖冬
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小さくないですから

不覚にも人の前で寝てしまったM029は、姫輝から距離を置く。


面白半分で近付いてくる姫輝を避けながら、佐世保軍港事務室の中を移動し続ける。


約二百年以上も前の姿のままを保った建物は、劣化している箇所が一つも見当たらない。


二百年前の名残が残った建物は、大日本帝国軍人が前から歩いてきても、違和感が全く無い。


廊下を歩いていると、窓の外の庭で、ひとりの少女が空を見上げたまま、突っ立っていた。


星空が広がる下で、少女は本当に動かない。


廊下を見渡すが、庭に出る扉が無い為、窓から庭に出る。


庭一面に広がる芝を踏み鳴らして、少女に近付く。


「少し良いですか」


少女言葉を投げると、顔をこちらに向ける。


「どうぞ」


短く返事をして、再び空を見上げる。


「空に何かあるのですか」


「星」


M029も空を見上げると、当たり前に星が敷き詰められている。


暫く眺めていると、隣で芝を踏む音がした。


目で少女を追っていくと、突然視界から消える。


少女が消えた地点に行くと、大きな深い穴が空いていた。


その下で尻餅をついている少女は、服に付いた土を払う。


「手助けは必要でしょうか」


穴の下の少女に話し掛けると、小さく頷く。


とは言ってもロープなど持っていない、助け出すことが出来るものを探すが、周りには何も無い。


「ELIZA。ディストーションは何処にでも展開出来るのか」


視界に人型のELIZAが出てくる。


「出来ます」


「何個まで展開出来る」


「縦横三メートルです」


「穴の左右に細長くして階段状に展開……」


少女の落ちた穴の右に足を着くと、足下の芝が陥没する。


体を引き摺り込まれて、約五メートル落下する。


「貴方まで落ちたのですか」


直ぐ隣の穴から抑揚の無い声が聞こえてきて、状況を言い当てられる。


「ELIZA。足下にディストーションを展開、跳躍するからディストーションを同時に上げて」


底に落ちていたロープを持って、穴から抜け出す。


「ディストーション解除します。彼女のデータが存在しました」


穴に落ちている少女のデータが表示され、ELIZAがその前に座る。


こてんと転がったELIZAは、出現させた布団に包まる。


名前と所属、出身を確認して、穴の中を覗き込む。


有栖川卯衣ありすかわういさん、ロープがあったので投げます」


「よく抜け出せましたね。掘った側としても、改善点を教えてもらいたいです」


少女を地上に引き上げると、情報と同じ顔と確認出来る。


身長はそれほど高くなく、高校生くらいの童顔で、琥珀色の目が特徴的だった。


顔に付いている土を指で取ろうとすると、長くて手が出ていない少女の袖から、刃物が出て来る。


M029の腕に当てたそれは、月の光を反射して、少女の眼光と等しく光る。


「顔に付いている土を取るだけですが」


「自分で取れます」


腕を引っ込めると、少女の刃物が袖の中に引っ込んでいく。


ELIZAが今の行動を記録して、使用武器の項目に、刃物と付け加える。


スカートに付いた執拗い泥を諦め、白銀の髪に付いた土を取る。


顔を手の甲でごしごしと拭くが、頬に付いている土は取れない。


「顔に付いているけど」


「自分で……」


「取れてないから二回目言った」


「入浴するので大丈夫です」


建物内に戻ろうと歩き出すと、卯衣が隣を歩く。


「そう言えば、あの穴は自分で掘ったのですよね」


米内よない長官と山本次長を落とそうと掘ったのですが、掘ったことを忘れていました」


とんでもない天然少女の物忘れに付き合わされた挙句、助けたにも関わらず刃物を向けられたのは、流石に疲労を感じる。


ど天然と追加したELIZAは、卯衣の服装にコスチュームチェンジする。


人工知能がお洒落をするのか不明だが、ELIZAは何かを気に入ったらしい。


出てきた窓に向かおうとすると、袖を掴まれて引っ張られる。


「何処に連れていかれるのですか」


「お風呂です。貴方も泥だらけですので、米内さんが怒ります」


庭の端にある扉から建物に入って、廊下を曲がる。


暫く直線の廊下を歩くと、卯衣が立ち止まる。


「どうしたのですか」


「私の自室は此処ですので。お風呂はこの廊下を真っ直ぐ進めばあります」


「御親切に有難う御座います。では、お先に頂かせてもらいます」


部屋に入っていた卯衣と別れて、ひとりで廊下を進む。


卯衣の言った通り、廊下の突き当たりに、湯と書いてある布が吊り下げられていた。


以前ELIZAが話していた、暖簾と言う日本独特のものだそうだ。


少しかがんで暖簾を避ける。


「違います。暖簾は手で押すものです」


ELIZAがアップで視界に入って来て、自分の体でやってみせる。


「そうなのか、それが日本のやり方か。やり直そう」


もう一度廊下に戻って、今度は暖簾を手で押して入る。


「完璧です」


「そうか、日本文化も難しい」


暖簾を潜ると、次は道が二つに分かれていた。


右には青がベースの、湯と書いてある暖簾。


左には赤がベースの、湯と書いてある暖簾が垂れ下がっている。


青か赤、どちらの色が好きかと言うと、赤のほうが好きなので、赤の暖簾を手で押して潜る。


暖簾の先にある自動扉が開くと、脱衣所が広がっている。


扉を潜る時、赤いセンサーのような膜があったが、何事も無かったのなら正解なのだろう。


二百年前のままの景色を残した脱衣所は、棚に籠が置いてある。


ひとつの籠の前に立って、スーツを脱いで、畳んで籠に入れる。


次に肩にかけていたホルスターを外して、籠の中に入れる。


脱衣所の扉が開いて、卯衣が籠を持って入って来る。


「卯衣さん。貴女も赤色の方が好きなのですか、同じですね」


扉を潜って暫く固まったままの卯衣は、開いたままの扉の方を振り返って、暖簾の色を確認する。


「男湯は青色の暖簾の方ですよ」


「そうですか、なら良かったです」


「良くないのであちらに行って下さい」


「待って下さい、今触られると外れてしまい……ました」


胸に巻いていたさらしが外れて、押し潰していた胸がワイシャツに浮かび上がる。


「お、お……大きくないのですね」


「殴りますよ。別に大きいと邪魔なので良かったです、大きいと潰すのが大変そうですから」


何故か同胞を見る目で見られる。


頭に付けていたカチューシャを外すと、ショートヘアだった髪が、腰の下まで伸びて、スーパーロングになる。


頭を左右に振ると、長い髪が波打って揺れる。


「凄いですねそのカチューシャ、短くなってしまうのですか」


「いえ、これはきちんと髪を短く見えるようにしています」


ズボンを畳み、上着に重ねる。


ワイシャツのボタンを外して、袖から腕を抜く。


ワイシャツを羽織ったまま、落ちた晒を拾って、ゴミ箱に捨てる。


「あの、そんなに見られていると、同性でも恥ずかしいのですが」


ずっと脱いでいる光景を見ていた卯衣は、自分の籠さえ拾っていなかった。


「御免なさい、やっぱり細くて白いと思いまして。とても綺麗です、私と同じくらいですが」


「次胸の話したら殴りますよ」


「私はCですが、貴女はBくらいでしょうか」


「失礼ですね、C寄りのDです。貴女よりもひとつ大きいです」


墓穴を掘った卯衣は、肩を落としたまま籠を拾う。


体にバスタオルを巻いて、浴場の入り口の前に立つ。


自動ドアのセンサーが反応しない。


飛んだり手を翳したり、手を振ったりしてセンサーに認識させようとするが、扉が開く事は無い。


「やっぱり、少しは揺れるのですね」


「いい加減殴りますよ。そんな事より、故障ではないのでしょうか」


背後から卯衣が扉に近付くと、すんなり開く。


隣を歩いていった卯衣は、M029の顔を見て笑う。


「やっぱり実際のサイズよりも小さいので、センサーが反応しなかったのでしょう」


横を通り過ぎようとしていた卯衣の手を掴んで、自分の胸を触らせる。


「俺の場合は身長の高さもあり、小さく見えるだけですから。それにアンダーの細さもありますから」


「その高身長の所為で大きさはそれ程ですが、触り心地は完璧ですね。ふわふわで幾らでも触れます」


卯衣の手を引き剥がそうと考えたが、彼女の事だ、タオルまで剥ぎ取られる。


打つ手を考えている内に、だんだん思考が回らなくなってくる。


頭がぼーっとして、何故だか息も少し上がってくる。


「離して下さい、これ以上はぁ……」


「これ以上は?」


「これ以上、は……駄目になって……しまい……ますから」


床にヘタリ込むと、卯衣の手が離される。


「MI6のエリートさんが駄目なるところ、非常に興味深いですね」


「次触ったら、国際問題にしますよ」


「触らせたのは貴女です」


「俺は……確かに触らせたけど」


言い返すことが出来ないので、入浴所に逃げ込む。


お湯で濡れている床を走っていると、止まることが出来なくなる。


止まろうとすると滑る床は、直進しか許してくれず、そのまま前方の湯船にダイブする。


「走ったら危ないですよ……さあ、私は体を洗いましょうか」


見て見ぬふりをされて、呆気なく見捨てられる。


白濁色の湯から顔を出すと、外れたバスタオルが途中の道に落ちていた。


「このお湯、肌がすべすべになりますね。戦場が乾燥している場所ばかりだったので、このお湯は助かります」


自分でも驚く言葉が口から出た。


今まで肌なんて気にもしていなかったのだがと、少し不思議に思いながらしばらく湯に浸かる。


「何してるのですか。浴槽に入るのは体を洗ってからですよ」


「ですよね、このお湯は肌がすべ……いえ。今行きます」


浴場に反響する声で会話を交わして、浴槽から出る。


床の水を吸って濡れたバスタオルを巻き付けると、肌に張り付いて、あまり心地良い感触がしない。


一列に並んでいるシャワーの前の椅子に座る。


前に色々付いているが、何をどうしたら良いのか分からない。


目の前にあった何かを捻る。


その隣にあった蛇口らしきものを下に下げると、上に付いていたシャワーヘッドから水が勢い良く出る。


「ひゃっ」


冷たい水を頭から被り、全身が一気に冷える。


冷たくなったバスタオルを外して、椅子から飛び退く。


離れた所で体を洗っていた卯衣の下に行き、首筋に冷えた手を置く。


「うゅっ……M029さん。いえ、面倒なのでもずくさんと呼びます。シャワー止めてきて下さい」


「故障ですか、冷たい水しか出ません。それに止め方も分かりません」


温かいお湯を浴びていた卯衣に体を密着させて、体温の低下を緩やかにさせる。


「押し付けないで下さい、動けないので離して下さい」


「Dは小さくないですから、Dは小さくないですから、Dは小さくな……」


「貴女が付けていたら小さく見えます。プロフィールによると、身長は百八十三センチ。高身長過ぎますね」


「コンプレックスですから、俺だってもう少し小さかったら女らしく出来ていた……ことも無いですね」


卯衣から体を離して、卯衣が使っていたシャワーのお湯を浴びて、体温を取り戻す。


卯衣が戻って来ると、両肩を掴まれて、椅子に座らさせられる。


「温かくしたのでこちらをお使い下さい。出すとの止めるのはここです」


それだけ言うと、卯衣は自分の座っていた所のお湯を止めて、浴槽に歩いて行く。


シャンプー、リンス、シャンプー、洗顔、体、トリートメント、リンスを済ませて、お湯を止める。


べたべたに濡れたバスタオルを手で持って、先程の白濁色のお湯が張ってある浴槽に入る。


ひとりでほっこりしてると、入り口の扉が開く。


あまり背の高くないショートボブヘアーの女性が、浴場に入って来る。




















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