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叛抗姫の人形  作者: 聖 聖冬
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ひとりきりじゃなかった

目の前に広がるのは瓦礫、手には小銃。

砂埃が舞う戦場には幾多もの死体が転がり、既に一緒に戦う者は居なくなっていた。


離れていった者、足でまといで置いていった者、何方も多々居たが、最終的に誰も居なくなっていた。

紛争地で生まれた私は幼いながらに死体から銃を奪い、そしてたったひとりで戦って来た。


助けた者も居たが全員私から離れて行き、最後には誰も居なくなった。

居なくなった筈だった。


いつもの様に私が家と読んでいる使われていない小さな倉庫に戻ると、その少女はいつもこう言って迎えてくれた。


「おかえり」


私はその言葉に応えずにいると、少女はいつも決まってこう言う。


「ただいまでしょ」


その言葉をしつこく言ってくるのが耳障りで、いつも私はこう返す。


「……ただいま」


そう言っておけばこの少女はまた笑い、満足そうにして私の話を聞きたがる。


「今日はお仕事どうだったの?」


「人殺しなのに聞きたいのか?」


「だって、殺さないと食べていけないんだし。良いとは思わないけど仕方が無いよね、私もそれで食べれてるんだし文句は言えないよ」


「今日は十八人だ」


殺した分の報酬を少女に渡すと、「おぉー」と小さな歓声が上がる。


「百八十ドルもあるんだー」


「今日の御飯は何なんだ」


「そうだそうだ、今日はすごいんだよー」


そう言って錆びれた器を持って来た少女は、少量の肉が入ったスープを私に見せる。


「本当だな、肉なんて久し振りだ。これはお前が食べろ、俺は殺した後で気分が悪いから寝る」


「えぇー、食べないと死んじゃうよ」


「一食抜いただけで死なねーよ。兎に角食え」


次の朝に目が覚めると、少女は私の背中にぴったりと寄り添って眠っていて、いつの間にか布が体に掛けられていた。

布を少女に掛けて小銃を持ち、いつもの様に戦場を探して街を彷徨う。


瓦礫の後ろに隠れて、遠くから来る軍の車両を狙う。

反政府組織の旗が掛けられた車両の上には、大量の武装集団が乗っている。


音が反響して位置を特定し難い場所に息を潜めて、射程に入った所を狙い打つ。

予想通り混乱して車両から逃げ出すやつから撃ち抜いて、乗っていたやつを全員片付ける。


物陰から出て人数を数えて、銃と弾薬とコンカッショングレネードを奪って次の鴨を探す。

そんな一日を終えて、いつもより多く入った報酬をポケットに突っ込んで家に戻る。


家の周りで政府軍と反政府軍の乱戦が巻き起こっており、家には既に流れ弾による穴が多数空いている。


「クソッ!」


すぐに駆け出して乱戦を横切って家の中に入ると、真っ暗な部屋の中には誰も居なかった。

家から出ようと背を向けると、端で器が落ちる音がした。


反転して小銃を構えると、部屋の隅で小さくなった少女が居た。

駆け寄って半ば引き摺る形で家から出て、戦場から離れてスラムに逃げる。


「なんで逃げなかった」


振り返って手を引いていた少女にそう問うと、目に浮かんだ涙を拭いて私に抱きつく。


「だって、あそこが私たちの家だから。おかえりって言わないと、帰って来るからずっと待ってたの」


「ごめん。でも危ない時は逃げろ、そうしないと俺がただいまって言えなくなるだろ」


「うん……でも何処で会えるの?」


「その時は探す、どれだけ時間が掛かっても探す。俺がお前を必ず見付け出す」


それから私たちはスラムを少し歩いて、ゴミの山に辿り着く。

その中から使えそうな材料を集めて、少し離れた所に簡単な家を作る。


「上等じゃないか」


「うん、ちょっと狭くなったけど立派だね。前よりももっとくっついね寝ないとねー」


「そうだな、絶対離れるなよ」


「そっちこそ、行ってきますくらい言ってよね」


「起こすのも悪いだろ、言いたいなら起きてくれ」


「むうー、明日の朝絶対起きてやるんだから」


そうして一旦中に入り、今日の報酬をポケットから出す。

今日殺したのは四十八人で、四百八十ドルと倍以上の報酬が入った。


「どうだ」


「すごいですよ、一体何人殺したんですか?」


「四十八人だ。今回は集団が多かったからな」


「今度私も……」


「駄目だ、付いて来る事は許さない。こっそり付いてきていた場合、お前は私の元から離れてもらう」


「分かりましたよー、お家で待ってますー」


「お前を思ってとか恩着せがましい事を言ってる訳じゃない、帰って来たらお前が居るのが安心するんだ」


言い逃げる様に私は外に出ると、ゴミの山から火が上がっていて、スラムに人が溢れて流される。

家の中に手を伸ばしたが、掴み損ねた少女の手が宙を彷徨って人に呑まれる。


そこで目が覚めて飛び起きると、自分は右手を伸ばしてベッドの上に座っていた。

驚きもせずに私をじっと見るティエオラは、左手で私の右手を握る。


「君の求める物はもうここにしかない、過去にはもう無い」


「忘れていた……あの時の名前も聞いていなかった少女は一体誰で、今は何処にいるのか」


「少なくともあの環境で生きられる数少ない子だと思う、でも君には僕と友希那が居る」


「私はひとりきりで、あの少女が居たか……」


「ひとりきりじゃないだろう、左手を見てもそう言えるのかい?」


自分の左手を見てみると、ベッドに寝転がって私の左手を握った友希那が居た。

掌には友希那の手、手の甲にはティエオラの手に挟まれて、私が寝ている間ずっと握ってくれていたのだろうか。


「私の上に来てくれないか」


「別に良いけど、変な事はしないかい?」


「するかも」


「友希那が起きたら死ぬのは君なのにね」


そう言いながらも私の太股の上に座ったティエオラを右腕で抱きしめて、瞼を閉じて暫くの間噛み締める。

そのままティエオラを引っ張って倒れ込んで、仏頂面のままのティエオラと見つめ合う。


「本当にお前の心眼のお陰で目が見えるのは有難いよ、なんか幸せだな。ははっ」


そうやって笑ってみせると、突然視界から光が消えて何も見えなくなる。


「ティオ? 何で心眼を……」


訳も分からず講義をしていると、唇に柔らかいものが押し付けられて、温かな吐息が少しだけ感じられる。

それが離れると視力が戻り、友希那とは反対側にティエオラがころんと転がる。


「どうかな幸せの方は」


いつもの仏頂面が緩むと、口角が少しだけ上がってティエオラが微笑む。

友希那にしか滅多に見せなかった表情を真正面から見せられると、胸が高鳴って自然と微笑みが零れてしまう。


それを取り繕おうと顔を引き締めようとするが、どうにもティエオラの前だと効果を発揮してくれない。

負けた気がして布団を顔まで被るが、直ぐに剥がれて顔を掴まれて強制的に見つめ合わさせられる。


「参ったからもう許してくれ、こんな顔見られるのは恥ずかしいだろ。離さないならこうだな」


ずっと握られていた左手がいつの間にか自由になっていた為、起き上がって両手で馬乗りになったティエオラを両手で抱き寄せて顔を見れないようにする。


「どうだティオ、これで見えなうぐっ……」


首筋を両方から噛まれて、腕の力が抜けそうになるが堪える。


「こら友希那、ティオの噛み癖は知ってたけどお前まで。こら、痛いだろ」


いつの間にか背後に居た友希那の攻撃にも耐えていたが、遂に力尽きてティエオラを離してしまう。


「幸せだろう少年」


「これ以上に無いくらいに幸せだ。いや、すっげえ幸せで幸せだ。幸せの中の幸せで本当に幸せだ」


前に来た友希那にもそう言って笑いかけると、戸惑ったような顔を見せて顔を背ける。


「これから少しずつならこういう事もしてあげるけど、お母さんには手を出さないでね。勿論私に手を出しても殺すから」


「なら今から手を出しておく」


ふたりを抱きしめてベッドに転がると、全員が笑って疲れてそのまま眠ってしまった。

本当の幸せに包まれたまま眠ると、人間は夢なんて忘れて眠ってしまう。


最近の時代では当たり前になっていたが、夢を見ない贅沢がどれ程幸せなのか忘れていた。

そう思うと夢の中の少女は、今もどこかでいつまでも笑ってる気がした。


あの笑顔で誰かにおかえり、いってらっしゃい、当たり前の挨拶を大切にしながら。

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