生まれ落ちた災厄
「陛下、中国と韓国、北朝鮮が兵を挙げて撤退した後の拠点を次々に占拠している様です」
「構いません、どの道その人たちは消えるのですから。戦意のある国のリーダーと共に殆どの国民が」
特に焦る事もなく空を見上げる鈴鹿にそう返して、次々と飛行場に到着したと言う報せを受け続ける。
最後の一機が到着したと聞いて、全兵士を武装解除させて機内に睡眠ガスを散布する。
「全員落ちました。陛下も御準備を」
「出来ています。鈴鹿もこの部屋でそうしてください」
「分かりました。では、我々が日本で起きている最後の国民です」
虚空の操作パネルを押した鈴鹿は、意識が遠退く私の体を包み込んで倒れる。
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次に目覚めたのは、ガスが切れる時間ぴったりの、翌日の十五時だった。
同じく起き上がった鈴鹿は窓の外を見て、下りてくる人を目で追う。
「ようこそ約束の星、愛の星に」
空から消えた人影は、部屋の中で目の前に居るにも関わらず、蒼髪と軍服だけしか認識出来ず、フードで隠された顔は確認出来ない。
壁の隠し収納から銃を取り出して構えた鈴鹿だが、蒼髪の人間は動じる様子も無い。
「ウラノスだろ」
「おや、私の名を知る者が居たとは。君は危ない存在かな」
「見方にもよるだろ」
「それもそうだ、まだ敵と認識するには早過ぎる」
言葉が終わると同時に引き金を引いた鈴鹿に、一瞬で肉薄したウラノスが銃を弾き飛ばす。
上に弾き挙げられた右腕の袖から出したナイフを叩き付ける鈴鹿に、ウラノスは姿を消すという対処方法をとる。
「逃げられたか、聖冬に連絡だな」
「陛下! 中国と朝鮮から人類がたった数千人を除いて消え去りました。現在再度制圧部隊が向かっておりますが、偵察部隊だけで十分だと報告が」
部屋に飛び込んで来た軍人と入れ替わりで鈴鹿が出て行き、私はデバイスの中に映された街の様子を見る。
「さて、そろそろ真実を知る覚悟が出来たかな」
突然目の前に現れたウラノスは、アンジュと姫輝、ティエオラ、聖冬、そして日本軍の主な面々を同時に飛ばしてこの部屋にやって来た。
突然の出来事にも関わらず、ティエオラと聖冬を除く全員が銃をウラノスに突き付けて、私を守るようにして位置をとる。
「これは重要な話。今の現状を伝えるのに必要不可欠、そして終わったら元居た場所に戻ってもらうから安心して」
聖冬の言葉に従った全員は、位置を動かずに話を聞く。
「アメリカの軍人、中国の軍人、朝鮮の軍人、イギリスの軍人。全て均しく消え去った、それ即ち日本の勝利だ。だがこの地球はふたつの種族が生きられる程広くは無い、私たち神とこの約束の星を奪い会おう」
その言葉の途中で全員が銃を抜き引き金を引くが、バラバラになって部品が床に落下する。
「そう焦らずとも、剣の勝負の方が美しいだろ。ティエオラと聖冬も挑戦者側だぞ」
「君如きが僕の相手にならないけど。それでも良いのかい?」
「そうだよねティオ、僕とティオどちらが一番か今決めよっか」
「あまり虐めてくれるな、私も頑張って勝つに決まっているだろ」
緊張感の無いふたりに同調するように、ウラノスは今からする行動を何とも思っていない。
ただそこにあったから壊すと言う、神の我儘の典型的な理由で消されては、こちらもたまったものではない。
「それじゃあ私は消えるからな〜、始まりの丘で待ってる」