終わる世界で
「本日お呼びしたのは他でもありません、ウラノスさんについての事です」
集まった私たちの方を向いて真剣な眼差しでそう言うのは、軍服を纏った天皇陛下だ。
ひとりだけ状況を理解していると言うような顔をしているティエオラは、一部だけ空の形を保っている箇所を見上げる。
この展望台から見える空は、最早殆どが空とは呼べなかった。
深淵よりも深い黒が貼り付けられた空間は、残っている空を徐々に蝕んでいく。
ウラノスと言う空が無くなったことで、この世界の空も終わりを迎えようとしている。
「この空をどう取り戻すか、それを僕に聞くつもりだったのかい?」
苛立ちを表に出しているティエオラは、無表情のまま聖冬の持っている鈴蘭を見詰める。
「はい。空は、ウラノスさんはこの世界に、この時代に必要不可欠です」
「君たちが勝手に始めた戦争から華染病は出来た、化学兵器の中身が飛び散り大気中の何かと結合して僕に降り注いだ」
「だから、取り戻せるならこの国を……」
「ウラノスが守った国を掛けて何をするつもりなのか知らないけど、僕は僕のやり方で取り戻す。君たちには頼らないし協力もしない、黙って見てれば良い」
「ですが、いつかなど言っていられない所まで来てしまいました」
「だから今するんだ、黙ってろって僕は言った筈だけど」
聖冬は鈴蘭をティエオラの目の前で投げて、ティエオラの左手が翳されると、鈴蘭は跡形も無く消え去る。
次に広げた右手の掌には、弱々しく光を放つ生命体が出来上がっていた。
「天皇陛下、天は地から創られた創造物。つまり大地が不滅なら空も不滅、私が掛けた魔法は既に解けていました。それでも死んだのは身勝手な人類の所為」
聖冬はティエオラの手に自分の手を合わせて、生命体を包み込む様に閉じ込める。
「次の空が生まれた時、戦争の意思が有るものは均しく消え去る。それが約束の星愛の力、つまり天王星」
ふたりは同時に残った空に光を投げ込み、吸い込まれるようにして光を増しながら空に落ちて行く。
すぐにロシアの軍需部に繋ぎ、
「全兵士に武装解除を、戦闘の意思を全員から捨てさせて下さい。次の空が生まれるまでに急いで!」
「あ、あぁ。了解した、大統領に了解をとっている暇は無いね。私が責任を持とう」
天皇陛下も同じ様に中国と朝鮮から兵を引かせ、国内の全兵士に武装解除と戦意放棄を命令する。
一秒でも早く撤退する為に、空軍基地、海軍飛行場から戦闘機が飛び立ち、撤退を支援する動きが始まる。
元の姿を取り戻し始めた空を見上げていたふたりは、既に展望台に姿が無かった。
上空には光滋迷彩を搭載したikarugaがいつの間にかホバリングしており、再び姿を消して何処かに消える。
「天皇陛下、この場に居ても意味がありません。私は帰国します」
「分かりました、ありがとうございますアズュールさん。丁度私にも迎えが来たところです」
階段から上がって来た人物を見ると、ASCを通じてELIZAにプロフィールが表示される。
日本は最近ASCが起動されたと聞いたが、まだここまでアップデートされていない筈。
それなのに、目の前の天月鈴鹿と言う人物は、上位の階級にしか許されないプロフィールのロックまでされている。
「お迎えの準備が整いました陛下、アズュールはこの国のパイロットに送らせます。早急に指揮を執ってください」
「では、また縁があれば」
そう言って消えていった天皇陛下に頭を下げて、迎えのパイロットに付いて行って機体に乗る。
既に半分以上姿を取り戻した空の中心には、髪の蒼い人型の何かが浮かんでいる。
「武装解除完了、兵士には全員睡眠状態に入ってもらう準備も出来た。アズュールのひと言で開始する」
「それが最善です、始めて下さい」
日本でも同じ様な措置が取られているのか、既に満員になって本土に帰還する機体はひとつの飛行場に向かっている。




