アズュール・ディア・アズライト
日本から飛んで八時間飛行し続け、ロシアの上空はもう真っ暗になっていた。
高性能のステルス戦闘機は見事にレーダーに引っ掛からず、聖冬の研究所が目前に迫る。
格闘機に変形させて着陸させると、巡回していた兵士が集まってくる。
だが敵意は無く、ひとりが目の前で低頭して私を建物に案内する。
プログラムで見えなくした銃を握り締めながら、緊張感が漂う研究所に入る。
真っ白の部屋に案内されると、兵士が部屋から出て行った。
壁がひとつ消えると、聖冬が姿を現す。
「ここに戻って来たと言うことは」
「当然。聖冬を返してもらいに来たぞアズュール」
「最初から気付いていたという事、なるほどね」
聖冬の姿が剥がれ落ちると、一回り小さなアズュールが、真っ白な髪を左右に揺らす。
「残念だけど、もうロシアは戦争する気しか無いわ」
「それならそれで構わない、だが日本が勝つには聖冬が必要だ。私ではなくてな」
「自分の価値を過小に評価し過ぎじゃない? 貴方の大好きな病人はもうすぐで死ぬと言うのに、必要になるまえにね」
「私が華染病を治せないとでも?」
アズュールが指を鳴らすと部屋の照明が落ちて、真っ暗な壁に映像が映し出される。
画面に映ったのはひとりの男性で、薬を飲んだ後隔離部屋に戻る。
華染病患者によく見られる特徴に、体のどこかにランダムに花の痣が刻み込まれる。
この患者の場合、左腕に姫百合の痣が浮かび上がっている。
映像が何回か切り替わると、いつも男性が居た場所に、一輪の姫百合が咲いている。
「私もこの病について研究しているが、未だ成果を上げていない。またひとり花になった」
「どうせお前も接触し過ぎて感染したんだろ、証拠を見せてやる。絶対に動くなよ」
左眼に紫色を乗せてアズュールの手を握る、燃え上がった炎はアズュールの体を飲み込んで青色になって消える。
自分の体に花染病が移ったのASCで確認して、アズュールの体から消えたのも確認する。
「ふふん、どうだ? 私の能力は人を支配するものと思われがちだが、実際は全てを治すものなんだよなー」
「自分の体に取り入れる必要性が無いだろ」
「万能な能力はこの世に無し、綺麗さっぱり消える事は無い」
「全て治ってないじゃない」
「私が花になれば消えるだろ。お前の花は白詰草か、らしいな」
「押し付ける気は無いが、あの時気付いてくれていれば、お前の妻は私だったかも……」
気付いてくれていればの後、アズュールにしては珍しくはっきりと喋らない為、全く聞き取れなかった。
「にしても、大きくなったな娘さん。お前もだけどさ」
「私の子とは思えないでしょ」
「いや、似過ぎだろ。クローンかと疑ったくらいにな、元気にしてるみたいだから安心しろ。戦争が終わったら会えるさ」
「始まったばかりの戦争が終わる頃なんて、既に死んでいるんだけど」
「私を甘く見るなよアズ。一日で終わらせる」
日本がプロメテウスを使う事を決断したと言う情報を送ると、メッセージがアズュールから届く。
「勿論アメリカに、だがその次はロシアか、イギリスか。最初に属国のイギリスからだろうけどな」
「こんな卑怯な手を使って……」
「どうする、って聞くまでもないか。同盟は結ぶのか? 相互不可侵条約と共に」
「それは国のトップと話さないと、私にはどうしようも無い」
自分の肩甲骨の下に刻まれた痣を、服をずらしてアズュールの顔の前に出す。
それで私の意図を察したアズュールは、通信を誰かに繋ぐ。
「大統領、アズュールです。日本から不可侵条約の誘いが……ですが、分かりました。申し訳ありません」
「どうだった?」
「結んでくれるそうだ」
「ご苦労さま、ありがとうな」
「脅迫したくせに」
「礼に望むもんくれてやる、なんなら死んでやっても良いけど。死なないから」
自分の望みを考えだしたアズュールは、長考して目を開けたまま数秒停止する。
ぴょんと飛び出したミミと尻尾が、嫌な予感を引き立たせる。
「妻と離婚して私と結婚して」
「えー、断ります」
「約束は?」
耳を塞いで蹲ると、両肩を押されて地面に転がさせられる。
スグに起き上がろうとしたが、腕を左右反対にクロスさせられて、手の平を踏まれて動けなくなる。
「おい、服を破るな莫迦」
「きゃー!」
「叫びたいのはこっちだ」
「胸がある、小さいけど」
「お、おお。触るな触るな」
「学生時代と変わってる。女体化なんて珍し過ぎる病気に興味が無い訳が無いでしょ、調べ殺す」
アズュールの腹に足を当てて、思い切り押し上げる。
宙を舞って着地したアズュールは、足が当たっていたお腹を押さえて咳き込む。
服を着直して、まだ咳き込んでいるアズュールを引き摺って、施設の奥に進む。
「人の身体をべたべた障るな、自業自得だからな莫迦」
「だって女体化なんて世界初、研究者として血が疼かない訳が無い」
「ティエオラに許可を取れ、その次に私」
「望みは貴女しか考えてないし、譲る気もないし言質もとった」
「まぁ、夫婦なんて形だけみたいなもんだし。愛があればどんな関係でも問題ないか」
「イラッとする。なら変更、この国に戻るつもりは?」
「無いよ、今のところはね」
目的の部屋の前でアズュールを離すと、虹彩認証でロックが解除される。
扉が開いて、待ち望んだ人物が居る部屋に入る。




