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叛抗姫の人形  作者: 聖 聖冬
30/41

プロメテウスの火

警報が鳴り響く機内で、黒煙を吹いている左翼を確認する。


流石に無理をし過ぎたかと後悔しながら、日本まで戦闘機を飛ばす。


緊迫していた声を思い出すと、全速力が出せないまで無理をさせてしまった機体にしてしまった事を、天皇陛下に謝らなければならない。


「ウラノスだ、用意をしてほしい」


「了解。あと何分で着く」


「もう日本は見えている、二分で着くだろう」


「待ってるぞ」


降下して成田空港滑走路に着陸すると、すぐに整備班に囲まれる。


機体から降りると手際良く状態をチェックして、煙が出ている左翼を消火する。


「その機体はくれてやる。色を塗り替えて日本のにするも良し、フェイクで騙すのも良し。レーダーにはイギリス軍機と映るからな」


「にしても、どうしたらこんな壊れ方がするんですか。弾も当たってないじゃないですか」


「無理させ過ぎたみたいだ、やっぱ日本製に限るな」


「まぁ、この機体も俺たちに掛かれば、日本製と同じくらい信頼出来るようになりますよ」


「そうだな」


整備長にユニットキーを渡して、機体の操作権を全て譲渡する。


隣を歩く男性にヘルメットを渡して、日本の軍服を受け取る。


鎮守府内に入って廊下を歩いていると、米内響にばったり会う。


「あ、あぁぁぁ……覚えてますか?」


狼狽えてそう言う響は、両手を胸の前で合わせて前のめりになる。


「もちろん覚えてるぞ響。少佐になったんだってな、やるなお前も。初めてあった時はあんなに小さかったのに」


「成長しましたから、大人の魅力も出てきたんじゃないんですか?」


「そうだな、小さくて可愛らしい」


「それ大人の魅力じゃないです……あれ? ウラノスさん胸出てますけど」


確かめるように私の胸に手を当てた響は、服の中に手を突っ込みだす。


「そこからは駄目だ」


服の下に潜り込んだ手を捕まえて、服の上に戻す。


「上からは良いのですか、難しいラインですね」


「上からも出来ればやめて欲しい、下着なんて着けてないからな」


「て言うか何で胸が? 見てくれだけじゃなくて、性別まで女になったのですか? 私の記憶が……あれぇ、おかしいな、いやでも」


「迷うな迷うな、これも病気だ。体が女体化する誰得なやつだ」


左手を自分の胸に当てた響は、小さくガッツポーズをする。


何で喜んだのかは察せるが、元男と比べないでほしい。


「ぎりぎり勝った」


「まだ大きくなってるんだよ困ったことに。早く止まってくれないかな、て言うか男に戻してくれないかな」


「そうですよね。私小さな時にウラノスさんと結婚する約束しましたからね」


「おいおい。妻子ありだぞ」


「なら愛人?」


「まずティオに殺されるからな」


殆ど無表情のティエオラの怒る顔が、容易に想像出来る。


他の人から見たら無表情に見えるが、長年一緒に居ると確実に表情が変わっているのが分かる。


そして無言で取り出す包丁と、生き返るから良いと言って躊躇無く刺す光景も、もう何度繰り返したか分からない。


「愛人万歳ー」


「やめなさい。する気は無いからな」


「それ大人の悪いところですよー、後で教えてあげるとか、おじいちゃんに聞いてみなさーいとか、お父さんが怒るよーとか。そう言うのと同じです」


「そう痛い所を突いてくれるな、もうそろそろ行かないと」


避けようと右に移動すると、それに合わせて響が前に立ち塞がる。


偶然かと思い今度は左に移動すると、同じタイミングで響も左に移動する。


偶然が続いたなーと思って、右に移動すると見せかけて左に移動すると、騙されて右に移動した響が、あわてて私の前に移動する。


「響さん?」


「はい」


「君は左、私は右。せーの」


自分が言った通りに移動するかと思うと、また響は目の前に立つ。


「おーい」


「私から見て左はこっちですから」


「屁理屈になってるぞー。なら響はそのまま」


言われた通り動かない響を避けて歩こうとすると、腕を掴まれて引き止められる。


「こら、忙しいから後で」


「明日出撃があるので。今日の夕飯は御一緒してもらえますか? 南雲さんも、山本さんも……」


「ウラノス様、至急海軍大臣室にお越し下さい」


「分かった。呼ばれてしまったからもう行くぞ」


漸く解放してくれた響の頭に手をぽんぽんと置いて、待っていた男性に案内されて、更衣室に入る。


そこで日本の軍服に着替えて、刀と軍帽を姿見で確認して部屋を出る。


一秒でも早くと思って廊下を走ると、背後から雷鳴の様な怒号が飛んで来る。


「廊下を走るんじゃない! そこで止まれ」


振り返って歩いてくる軍人を見ると、何となく見覚えのある顔だ。


だがあと少しのところで名前が出てこない。


「ウラノス殿でしたか。お久し振りです、私も次官になりました」


「そうか、おめでとう」


「あの、覚えていませんよね」


「いや、覚えてるぞ」


期待されているが、全く記憶に残っていない。


恐らく十五年くらい前の話だと思うのだが、オリジナルのELIZAが居ない今、補助をしてくれる人が居ない。


「あの、本当に良いんです。父の後ろに隠れてて直接話した事は無いんです」


父の後ろに隠れてると聞いて、やっと誰か名前が出て来る。


「山本の愛娘だろう。覚えているぞ、大人になったんだな。美人じゃないか」


「い、いえ。ウラノスさんに比べればまだまだです、貴女以上に美しい方は見た事ありません。貴女は憧れなんです」


「とうに私を超えているだろ、私は少佐までしか行けなかったんだ。次官になんてやるじゃないか、山本、南雲、米内、阿南、工藤、山口は私の子どもみたいなものだ。戦場に出て生きていてくれて嬉しいぞ」


「ここに来たという事は、日本軍に戻って来てくれるのですか?」


「すまんな。戻る気は無いんだ、世代交代もあるし。何よりも家族の傍をもう離れたくないんだ」


残念そうにする山本はだが、顔を引き締めて堂々とした態度に変える。


「いえ、私も我儘を言うつもりはありません。御家族を大切になさって下さいね、時々友希那さんから相談されるんです」


「友希那が。すまないな仕事の邪魔をしてしまって」


「いえ、可愛らしい娘さんですよ。貴女との距離間に困ってらっしゃるみたいで、申し訳ありません。呼び止めてしまって、この話は後ほど」


「友希那をよろしく頼む。気を遣わせて悪いな、そう言えば明日出撃なんだな。これをやる」


水仙を模した飾りが付いているピンを渡して、海軍大臣室の前まで歩く。


久し振りに会う米内を驚かせようとノックもせずに入ると、軍服のスカートを脱ごうとしていた天皇陛下と目が合う。


私の姿を認めてソファーの背凭れに置いてあった上の軍服で体を隠して、深呼吸してから、特に大きく息を吸う。


「いやぁぁぁ!」


「わあぁぁぁ!」


急いで部屋から出ようとすると、陛下が急接近して体を密着させる。


「てててて、てんにょうえーかさん。私今日下着着けてないんです、そんなに触られると」


「分かったので見ないで下さい」


「離れて下さいよ、部屋から出ていきますから」


「離れたら見やすくなるじゃないですか、密着するのが最善なんです」


隣の部屋から荒々しい音がして、目の前のドアが勢い良く開けられる。


「陛下! 何事……で」


「み、見るなー! この身体は流石に男でも無理だー! 出てけよ」


「米内さん退室して下さい」


「陛下失礼致しました」


焦ってドアを閉めた米内を追い出すと、背後の天皇陛下がゆっくりと手を離す。


「お、おおおおおお女の人……胸が、胸が……」


「落ち着いて下さい陛下、ウラノスです」


「ウラノスさんは男です。多分、恐らく、かも」


「あの、女体化なんです。病気でこうなって」


「あの、私が男になったり出来る化学なんてありますか?」


「ないです」


「ですよね」


話の真意が分からないが、取り敢えず無理をすれば出来ることは黙っておく。


下着なんて着けた事がないし、まず買ってすらいないし買いに行くのは恥ずかしい。


ネットで買ってサイズが合わないのも困る、採寸はやっぱり人の手でやった方が確実だし、機械には出来ない応対もしてくれる。


「あの、娘さんを下さい」


「はい?」


「ウラノスさんは御結婚なされてるので、娘の友希那さんを下さい」


「んん? 娘だぞ、AAAだけど娘だぞ? 一応あるらしいからな」


ティエオラに似て全く無いのは、ティエオラの遺伝子をしっかりと受け継いでいるのが分かる。


自分も女体になって少しずつ出てきてはいるが、それ程大きくならないだろう。


友希那を見ればそれは確信出来る。


「AAAですか。もう既にウラノスさんの方が……」


「あーえっと、陛下もずいぶんと発育が良ろしいですね」


「それはセクハラですよ」


「まぁまぁ、友希那の話は終わり。それより命令をお聞かせ下さい」


軍服をしっかりと着て帽子を被った陛下は、柔らかな雰囲気から一転して、軍のトップの威厳をそのまま象徴したように凛としている。


乱れた私の軍服を綺麗に整えだした為、自分でやると言ったが、やりたいと言うので陛下に任せる。


「陛下! よろしいですか」


外から緊迫した声で誰かが呼び掛けて、陛下がどうぞと言って入室を促す。


「アメリカが核兵器のハンマーヘッドを日本に向けて撃ちました、電磁砲で迎撃準備をしており、到達は八分後です。イージス艦も出撃しましたが、緊急事態で横須賀に配備していた数は少なく、舞鶴からも出ましたが恐らくは間に合いません」


「アメリカが? ポーランド条約に調印した筈だろ、核の凍結を全世界が合意した筈。条約を提案した国が一番初めに破るとは」


「あ……あの、うっ……」


混乱して思考が回らない陛下か、言葉が出てこず何も指示を出せていないでいる。


総司令である陛下の命令が無ければ、迎撃と出撃は出来ず、唯一方的に攻撃を受ける事になる。


「私が出よう、ハンマーヘッドは何本飛んで来ている?」


「一本ですが、その後何本撃ってくるか。出るとはどういう事ですか?」


「要らない旧型の戦闘機を用意してくれ、安定性向上プログラムは解除。トンボ釣りの為に駆逐艦も」


「分かりました」


出て行った軍人を見送って、へたり込んでいる陛下を立たせる。


ゆっくりと椅子に座らせて、チョコを目の前に出す。


珍しく反応が無い為、空いている口に突っ込む。


咀嚼して飲み込んだ陛下は、やっと気が付いたが、チョコを食べた事を覚えていない。


「本当に食い意地はすごいですね。私は出撃します、落ち着いて指示を出して下さい」


ノックして入室してきた南雲は、手に持った資料を私に差し出す。


「旧型はF型の試験機が八機ありました、どうするつもりなのですか」


「突っ込むだけだ、ハンマーヘッドに。生憎不死だからな、頬にご飯付いてるぞ」


南雲の頬に付いていた米粒を取って、自分の口に入れる。


「本当に南雲と陛下だけは食い意地がすごい、帰ったら皆で食事をしよう。響と約束したからな」


「不死とは言っても、送り出す側は辛いのですよ」


「ティエオラもそれくらい優しければ躊躇ってたけど、そう。で終わるからな」


「そういう人に限って心配してるんですよ、すごく我慢していらっしゃると思います」


「あいつは学生の時からあんなだ、ずっと私に冷たいままだ」


「でもプロポーズはされた方ですよね」


「そうだったな。本当愛されてるかどうか」


機体の準備が出来たと連絡が来た為、部屋を後にして滑走路に走る。


滑走路には、たった一機だけ用意されたF型戦闘機の周りに、整備班が調節と設定をやり直している。


隣を並走する整備員からヘルメットを受け取って、頭に被りながら機体に飛び乗る。


電源をすべて入れて、オプションで付けさせたASCコネクトプラグを、首元の接続部の役目をしている刻印に繋ぐ。


「ウラノス出ます」


戦闘機だけの形しか模す事の出来ない機体だが、体当りするだけなら充分過ぎる。


滑走路から離陸して、五分程でハンマーヘッドをレーダーが捉える。


「神風行きます」


フルスロットルにして全速力で突っ込み、当たる直前にプラグを引き抜いてベイルアウトする。


命中した機体の爆弾が爆発して、誘爆したハンマーヘッドも放射線を撒き散らしながら弾け散る。


爆発の温度と放射線に晒された体が、一瞬で消えて空に落ちる。


意識が戻ると空を落下しており、直ぐに海に落下する。


ディストーションを出力全開で張っていた駆逐艦にサルベージされて、急速潜航して水の中に逃げる。


体を拭くタオルを貰って艦内を歩いていると、弾薬庫から響がひょこっと顔を出す。


「混乱に乗じて乗り込んでしまいました」


「次官に怒られるぞ」


「チクるんですか?」


「どうしよっかなー、恐らく帰ったら響の奢りで飲める気がする」


「脅迫魔!」


「冗談だって。内密にしておいてやる」


飛び付いてきた響を避けて艦長室に入ると、見たくもない顔がそこにあった。


「東郷大佐がなんでトンボ釣りの任に」


「俺だってこんな命令が来た時は舐めてるのかとキレてやろうかと思ったが、これで漸く理解したぜ小僧」


「既にくたばったのかと思ったぞジジイ」


「お前より長生きする予定なんだよ」


煙草を消火して立ち上がった東郷は、ポケットからユニットキーのデータが入ったらチップを取り出す。


「パイロットのお前を辞めさせてやったのに、戦闘機に乗っているのか」


「戦争中だからな。それに飛ばずには居られないんだよ」


「まだまだひよっこのおまえが空母部隊に派遣された時、びびって上空で背面飛行ばっかりしてたのは誰だよ」


「そいつは昔の話で、まだ入ったばっかの十五歳の時だろ。中学生だぞ」


「俺を戦闘機に乗せろって無理言って、いざ乗ったらあのザマだったからな。エースパイロットになるなんて思わなかった、だがおまえは期待を超えた。すぐに抜かれたがな」


飴と鞭の使用割合が明らかに偏ってるこの爺は、私の言葉に一切動じず、思い出話を語っているみたいだ。


近い内に全面戦争になる事を予想しているのだろう、よくここまで持ちこたえた世界だったが、この地球博二つの考えを持っている人間が、共存できる程広くはなかった。


それを分かっていて軍備強化を言い出したのは、流石東郷だと思うが、それとその思い出話は話が別だ。


「プロメテウスを使う事を陛下に勧める、ウラノス、お前も手伝え」


「それしか道は無いか、戦勝国は何をやっても許される。だから私たちはもう負ける訳にはいかない」


「そうだ、アメリカをたおして満州を取り戻して、この国を再び帝国にする」


「大東亜は見事に阿南さんが纏め上げてくれている、後は海軍だな」


横須賀母校に到着した駆逐艦は浮上して、排水作業を終える。


東郷とすぐに陛下の部屋に走って、部下と主として進言する。


「陛下。今こそ最新兵器である、プロメテウスを使用するべきです」


「私も東郷大佐に賛成です、敗戦国になれば好き勝手されます。戦勝国は何をしても許されてしまいます、われわれが巻ければ今度こそこの国は無くなってしまいます」


「……私も、この国が大好きです。国民や動物や綺麗な伝統、四季折々の季節。分かりました、プロメテウスの使用を許可します」


「ありがとうございます。日本に勝利を」


プロメテウス使用許可の命令はすぐに日本全土に広がり、同時に史上最悪の自体になる事を予想した。


水素爆弾や原子爆弾など比にもならないプロメテウスは、恐らく地表の形を変えて人が住めるには再開発が必要になってしまうだろう。


だが、負けた後の惨劇を知っている日本は、手段など選んではいられない。


それぞれが家族の顔を思い浮かべながら、戦闘機、軍艦、戦車に積まれるプロメテウスを見つめる。

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