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叛抗姫の人形  作者: 聖 聖冬
29/41

上等じゃない

陥没した地面から新たにβiosが出現して、大きな咆哮を上げながらこちらに来る。


唯でさえ怪力で底無しの体力なβiosが、一体どころかもう一体出て来るなんて、こちらからしたら冗談じゃないと思う。


遂に破られたディストーションに続けて、悪い流れが連続して続く。


「このまま悪い流れが続くのは不味いです、打開策を考えないと」


今持っている武器を出来るだけ頭に浮かべて、長い間やってきた戦闘の記憶を引きずり出す。


だが当然こんな相手なんてした事無く、有効な策が浮かんでこない。


「お待たせしました、佐世保鎮守府所属の有栖川ありすがわ卯衣うい推参」


「呉鎮守府所属、立華たちばな睡蓮すいれん推参」


一機の格闘機が新手βiosに突っ込み、空を通過した戦闘機が落とした爆弾が、最初のβiosを撃破する。


レーダーには格闘機の方に卯衣、戦闘機の方に睡蓮のASCが反応する。


「何故日本がASCの使用を?」


「元々全国民に埋められてたの、でも今までは国民の反対もあって起動はしてなかっただけ。それなのに今になって起動してくれって抗議が始まったから起動した。以上」


空の乱戦に参戦した睡蓮は、手始めにウラノスクイーンを追っていた戦闘機を落とす。


βiosを投げた卯衣は、腕に装備されているマシンガンを容赦なく叩き込む。


Alice In Unreadableが終盤に差し掛かり、最後のサビで確かに体の中で何かが動いた。


まだあと一歩足りない衝撃が、体を巡って力に変換されていく。


「姫輝さんはArsenalにディストーションを接続して修復を早めて下さい。今ならβiosを叩き潰せるかも知れません」


それを聞いてβiosから離れた卯衣は、姫輝の前に立ってシールドを構える。


ウラノスクイーンが落とした戦闘機を茨で絡め取り、ばくだんを積んだままβiosに直撃させる。


大爆発を起こした戦闘機は、ばらばらになって巨大なコンカッショングレネードの様に、鉄片を撒き散らす。


ぐちゃぐちゃになったβiosだが、それでも活動を停止させない。


それどころか倒れたβiosを吸収して、更に巨大に姿を変える。


ディストーションが修復されるまでの時間を稼ぐ為、アサルトライフルで周りを回りながら陽動する。


まだ大きくなるβiosに、渾身の力で大剣を叩き込むが、全く効いているような手応えがない。


トーリ援護射撃で体に穴を空けるも、心臓が無いのか動きを止めない。


「修復出来たぞ」


「なら次は私が修復します。ディストーションは使わないで下さい」


「ちょっと。陸軍が全然減らないんだけど、こっちに誰か来てくれない訳? 妃咲部来なさいよ」


流石に文句を言い出した都子は、妃咲部を指名して呼び出す。


「俺かよー、ここから援護じゃ駄目ですか?」


「駄目よ。私が只管にえらいだけじゃない、なんなら狙撃手は私がやりましょうか?」


「いえいえ、喜んで接近戦をさせてもらいます。急いで行きます」


都子の方を一瞬見てみると、桁外れた切れ味を誇る日本刀はガタガタに刃毀れしており、付いた血で斬れ味が落ちている。


Arsenalから日本刀を放って、都子の前に落とす。


一々拾っている所なんて見ている余裕は無く、巨大化を止めて動き出したβiosの攻撃を回避する。


「待たせた、変わるぞ天使」


「有難うございます」


「堅苦しいのは無しだ、私とお前の仲だろ」


「Спасибо」


ウラノスがよく使うロシア語で礼を言って、Arsenalにディストーションの修復をさせる。


それ程消耗が激しくなかったディストーションは、すぐに修復が完了する。


「姫輝さんディストーションを私に預けて下さい」


「分かった」


姫輝に委託したディストーションの半分が帰って来て、唯一思い付いた苦肉の策を実行する。


「Sacred Song」


大きくなったβiosの足下に剣山を作って、動かないように拘束する。


「ローズパレス」


そのまま薔薇でβiosを包んで、全て潰れるまで締め付ける。


開花した薔薇の中央で沈黙したβiosが、紫色の液体を流して横たわって出てくる。


今ので出力限界まで達したディストーションは、少しの間クールダウンが必要になった。


「βiosを倒したところで悪いけど、陸軍の援軍が来てる」


「どこから? 虹火」


「ウェストミンスター寺院を挟み撃ちにしようとしてるから、都子さんの逆方向からです」


「アンジュ、姫輝、トーリそっちに行って」


都子の指示に従って反対側に行くと、既に陸軍の先頭が見えていた。


「上等じゃないか天使。燃えてきたな」


「燃えません、たぎるだけです」


「どこが違うんだよ」


「軍人かならず者かの違いですよ」


「私がならず者か?」


「逆ですよ」


忘れていた本能を引きずり出した歌がSacred Songに変わった途端、全身の細胞がふつふつと沸騰しているような高揚感に包まれる。


右手に剣、左手にコルトガバメントを携えて、ディストーションを足場にして三百六十度の機動を可能にする。


音に合わせて勝手に動く体が、MI6になったばかりの頃の、狂気に満ちていた気魄が蘇る。


優に二百は超える大隊の兵士ひとりひとりの次の動きが手に取るように把握出来て、どうすればより効率的に殺せるか、頭の中で一瞬で全滅させるまでイメージ出来る。


それと同時に幼い頃の記憶まで蘇り、今と姿が変わらないウラノスクイーンの姿が映る。


その映像を記憶媒体である体に刻み付けて、熱が上がり続ける体で意のままに戦場を飛び回る。


「これが戦場、これが戦争、これが命の磨り減り。これが高揚、これが生きが……」


「それ以上言うな天使、そこから先は人ではない」


私の頭を掴んで地面に叩き付けた姫輝は、周りの兵士に牽制弾を撃って離脱する。


「お前無理し過ぎだ、忘れてたけどお前もまだ子どもだろ。体が付いてってないじゃないか」


ハンカチで私の顔を拭いた姫輝は、ASCと接続していた通信を切断する。


Phantom Princessの音楽が聞こえなくなると、一体感が無くなって、倦怠感が体の上にのしかかる。


目から流れる液体を拭い続けてくれる姫輝の膝から頭を持ち上げようとすると、液体が頬を伝って顎先に溜まる。


それを拭いたハンカチは真っ赤に染まっていて、既に元の布の色は残っていない。


「なんで血が」


「限界超えるとこうなるんだな、あの歌は力をくれるけど、無理し過ぎると毒にもなる。無理せず寝てろ」


「戦場が目の前にあるんですよ、寝てるなんて勿体無いじゃないですか。私を呼んでいる」


「呼んでない。大人しくしてろ」


姫輝のディストーションが籠のように私を囲んで、戦争の傍観者にされる。


「その檻に触れると切れるぞ」


「この腕が落ちたら、姫輝さんは籠の中の私を助けに来てくれますか?」


「一体どうしたんだ。戦場を嫌っていたお前が求めるなんて」


「こんなに楽しいのは久し振りなんです。私が初めて殺したのは、あっ……」


話を聞かずに走っていった姫輝の背中を見送って、籠の真ん中で膝を抱える。


上空の最後の一機を落としたウラノスクイーンが、弾薬の補充をする為に放置してあったArsenalの隣に降りる。


「クイーンこれを壊して下さい」


「上官命令だ。大人しくしてろ、今のお前を出したのは間違えだった。正直言って今出ても邪魔だ」


「そうですか……良いですよ、私はひとりでもここから出られる」


Arsenalからホーミングを発射して、ディストーションの檻にぶつける。


何発もそうしている内に、近付いてきたウラノスクイーンに手招きをされる。


檻になるべく体を寄せると、胸倉を掴まれて頬を叩かれる。


「このディストーションは虚像だ、出力の限界で本格的にメンテナンスをしなければ使えない。嘘をついてまでお前をここに引き止めた姫輝が、何を考えているのか分かるか?」


「戦うことが生き甲斐なのが気に食わないんでしょ、私の中に流れる血がそうさせるんだから。本能がそう叫んでる……」


「なら! 私の血が悪かった、お前に私の血を混ぜてしまったのが間違えだった。お前はウタの下に生まれるべきだった、わるいのは私だ。子どもは親を選べない、悪いのは私だ」


「言っている事の理解が出来ない、わたしはウタの子どもで……」


本能が出て来た時に一緒に出て来た記憶を思い返すと、自分の伸ばした手が病院のベッドで寝ていたウラノスクイーンの顔に向かっていたを思い出す。


そして肌に一瞬触れた事で、ELIZAが抜き取ったウラノスクイーンの記憶が再生される。


「やっと返してもらえた。私の記憶の一部」


「お前っ……抜き取ったのかELIZA」


フォルダの中に隠れたELIZAだったが、ウラノスクイーンに容易く引きずり出される。


「早く真実を語って、私には全てを知る権利がある。貴女との関係も全てを」


俯いて拳を作ったウラノスクイーンは、ゆっくりと口を開く。


「然るべき時が……」


「そう言って逃げるの?」


「分かった……お前は私の子どもだ。空軍をやめてすぐお前が生まれた、私は新編されるMI6のトップに推薦された。だが多忙な私は家に帰ることも出来ず、暫くウラノスに面倒を見ていてもらった。だが、そのウラノスも追われる身となった、だから当時同期だったウタに預けたんだ。それからウタが死んだと聞いてお前の行方が分からなくなった、必死に探していた私は何年経っても見つけられず途方に暮れていた。そんな中お前がMI6に入った、最初はまさかと思っていたが、見間違う事もなくお前だった。出来れば前線に出したくはなかったが、それに反してお前は結果を出し続けていた。遂に制府からお前を差し出すように言われた、当時特殊プログラムで身体強化の研究中で優秀で身寄りのない者を求めていた。それが納得出来ずに私は引渡しを拒否し続けた」


「……だからって声も掛けないで、貴女は淡々と私に命令を出していたの?」


「ウタに育てられたお前は本当に真っ直ぐな人間になっていた。そんなお前に私が母と言っても……」


「もう良い、大人しくしてるから」


「傍に居る」


「勝手にして」


Arsenalに凭れて座った私の隣に、ウラノスクイーンが膝を抱えて座る。


年齢の割に幼い体つきをしているウラノスクイーンは、よく見ると髪に隠れた大きな傷が額に刻まれている。


私の視線に気付いたウラノスクイーンは、私と目を合わせると気まずそうに笑う。


「別にそれ程気にしてないから。私の事を考えてくれたんでしょ、自分が苦しくてもそうしなきゃいけない。本当に私の親か心配な程立派」


「娘にそんな事を言われるなんて思っていなかった。親としての評価を初めてもらったのが娘とはな」


「不服?」


「結構不服だな、そんな事を言わせてしまった自分に」


「自己嫌悪は鬱陶しいだけ、折角隠さなくて良くなったんだから、今まで出来なかったことさせてもらうし、してもらうからね」


「上等じゃないか。なら、まずは勝ちに行くか」


完全に体の熱は引き、今まで通りの冷静さを取り戻す。


それ程大きくない自分よりも小さなウラノスクイーンを抱き上げて、ArsenalからウィンチェスターM1897を取り出す。


「こら、下ろしなさい」


「よくこんな幼女体型で埋めたものね。その遺伝か私も小さいけど、貴女より身長は高い」


「幼女体型って言うな。成長期に栄養が足りなかったんだ」


「ならこの私と同じくらいの脂肪はどう説明するの?」


「し、知らん。望んでないし勝手にあるんだ」


「ほら、機体に乗って援護して」


ウラノスクイーンを機体の前で下ろして、心の中が今までで一番落ち着いた状態で戦場を見渡す。


やっぱり何度見ても戦闘は好きじゃない、同族は同族を喰うようには出来ていない、なのに同じ種族を仲間と認めない人間だけが起こすこの惨事、その中に何故か希望の光を見つけた。

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