表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叛抗姫の人形  作者: 聖 聖冬
28/41

空の意思

それじゃあ私はロシアに行くと言ってウラノスと別れ、半壊の状態となった宮殿から出る。


結局βiosの姿は無く、抵抗らしい抵抗はされずに陥落した。


押さえてあったウェストミンスター寺院に王女を送り届けて、次の指令を待つ。


「制府本部を制圧する。MI6もテロリストも準備が完了した」


「了解、私はMI6の部隊と合流します。次の指示をクイーン」


プライベート通信をウラノスクイーンに繋いで、次の指示を仰ぐ。


私の実力なら必ず最前線に出してくれる、今までだってそうだった。


「本格的に軍が動き出す、厄介なのは空軍だ。戦闘機の操縦は出来るな?」


「当然。訓練なら十本の指に入るくらいは」


「なら温存しておく、Phantom Princessの防衛を任せる。傷を付けさせるな」


「ウラノスクイーン、何故後方支援に回されるのですか」


今送られて来た資料には、Phantom Princessは歌で味方を奮い立たせる為、ウェストミンスター寺院に残ると書いてある。


最前線どころか、一番後ろを守るだけの任務に回される。


「どうしてですか」


「ウラノスとそう決めた。命令だ」


「分かりました」


「健闘を祈る。お前の防御力があれば心配無いだろう」


ウラノスクイーンが通信を切った後、ウェストミンスター寺院の壁に拳を叩き付ける。


最前線に出てこそ自分の本領が発揮されるのに、ディストーションが覚醒した今、攻撃力は格段に上がった。


それなのに制圧部隊から外された悔しさが、いつもとは違う場所から底無しに溢れ出て来る。


「こら、伝統ある寺院を殴らないの」


誰かも分からない声の主に銃を向けるが、既に首元に日本刀の切っ先が当てられていた。


臙脂色えんじいろの髪を揺らした都子が、私の手に握られている銃を取り上げて、地面に銃を投げ捨てる。


「貴女の任務は傷付けることじゃないでしょ、今回は守ることだから。聞き分けのない馬鹿は任務に必要ないわ、それが嫌なら貴女の実力を見せてみなさい」


そう言って刀を納めた都子は投げ捨てた銃を拾い、私の手の中に落とす。


何故か挑発的な言葉にも関わらず、全く苛立ちの感情が湧き上がってこず、先程まで胸の中にあった苛立ちまでもが消えていた。


都子の歩いて行った後を見ると、炎の残光が線を引いて消えて行く。


「感情を奪う炎」


そう口に出して納得しようとしたが、そんな生ぬるいものではないと、何故かそんな気がした。


ふと夕日に目をやると、煙草に火を付ける姫輝の姿が見えた。


隣に行こうと一歩を踏み出すと、空から何かが空気を切り裂く音が響く。


空を見上げると、隊列を組んだ四機の戦闘機がウェストミンスター寺院に向かって来ていた。


それに気付いた姫輝は私の存在にも同時に気付き、プライベート通信を繋ぐ。


「ディストーションを張るぞ」


「ここは私が防ぐから中に通信で伝えて」


寺院全てを包む為に最大出力でディストーションを展開して、落とされた爆弾を無力化する。


「ローズクォーツ」


光の壁から茨が生えて、飛んでいた戦闘機に巻き付いて握り潰す。


突如真後ろに現れた機体にELIZAのレーダーが反応して、警告音を発する。


展開中のディストーションを戻しても間に合う確率は無、掃射で死ぬ確率は殆ど確実。


何としても一矢報いてやる為にコンカッショングレードを咥え指でピンを抜き、足下に伸びていたディストーションに体を跳ね上げさせる。


掃射の弾丸が目前に迫ると、臙脂色の髪が目の前で揺れる。


「申し訳ないけど、特殊武装足場にしちゃった」


そう言って微笑みながら弾丸を斬り、私の口からコンカッショングレードを取って戦闘機に投げる。


勢いが無くなって落下を始めた体を、小型の戦闘機から格闘機に変形した機体が受け止めた。


「ロシアに行く為に戦闘機を拝借したらこうなった、謝る気は無い。あと二十機こちらに向かってるが全て潰しておく。俺の娘に傷付けたら許さねえぞ」



「少しは申し訳なさそうにしたらウラノス、守る為に聖家を雨宮に任せて来たんだから。本当に屈辱だったわあんなのに頭下げるとか」


「そうかい。それじゃあ俺はこっちにもうじき着く戦闘機を落として来る」


「はいはい、落とされて死ね。口調が高校生の時みたいだから、ティオに報告しとく」


「それは気付かなかった。あとティオには辞めて下さい、お願いします。口聞いてくれないのは悲しいし寂しい」


「自業自得でしょ、ほら敵機がレーダーに反応したって虹火から報告」


左の空を見たウラノスは、私たちを下ろして戦闘機に形を変えて飛び去る。


ウェストミンスター寺院に向かっていた戦闘機は、ウラノスの戦闘機と接近すると散開して乱戦となる。


触れた拍子に機体のデータを抜き取っていたELIZAは、ほぇーと感嘆の声を漏らす。


「あの人安定性の低い戦闘機の安定補助プログラムを外してますよ、機動力が異常過ぎますよ」


「でも少しでも力が加われば墜落じゃないの?」


「貴女たち忘れた訳じゃないでしょ? ウラノスは空、ウラノスは地球、ウラノスは宇宙」


「なるほど、納得してはいけない事をさらっと納得出来るようになった」


急降下して格闘機に変形した機体が、銃で三機撃ち落とす。


まるで踊っている様に爆弾を回避していたが、誘導型のホーミングミサイルに追尾される。


背面飛行で後退を続けるが、真後ろに巨大なビルが迫る。


ディストーションを展開しようとすると、都子に手で制される。


「あっちは心配無いわ、私たちは攻撃に回った五機の戦闘機を落とす」


「ホーミングなら作れるかも、時間を作って下さい」


Arsenalを展開して、ホーミングの製造を始める。


ウラノスをちらりと見ると、ビルの手前で急上昇して全てビルにぶつける。


壁を這うように上昇した機体から尻尾が伸びて、戦闘機を一気に片付ける。


姫輝が戻って来て状況を判断すると、降り注ぐ爆弾を防ぐ。


「三発落とし漏らしたぞ、都子そっちは任せたアンジュちゃんホーミングは……っと食らっちまった」


「腕が落ちたんじゃないの? 元空軍の万年次席さん」


「嫌味を言う暇があったらひとつでも多く落とせ、流石にわたしもふたつも爆弾は落とせん」


「なら、あとひとつは私が落とそう」


MI6本部の方向から飛んで来た機体が、弾幕をウェストミンスター寺院の上空に張る。


全ての爆弾が取り除かれた後、ウラノスの機体と新しく来た機体がスレスレですれ違う。


「アルテマ」


「腕が落ちたんじゃないか、万年私の下」


「本当に嫌味ったらしいな、誰が空軍のエースパイロットに育てたと思ってるんだよ」


「九条冬教官かな」


「私の事じゃないか」


急降下しながら後ろに張り付いた敵機を撒こうとするが、なかなか離れない。


「左捻り込みするから邪魔すんなよアルテマ」


「私はインメルマンターンするから邪魔」


「やんのかよてめえ、ここは恩人に譲るべきだろ。お前はつばめ返しでもしてろよ」


敵機其方退けで背後の取り合いを始めたふたりだったが、小型で旋回能力の高いウラノスが後ろをとる。


ホーミングを撃ったウラノスに対して、ウラノスクイーンはフレアを撒いて急上昇する。


「ここでブレイクしても無駄だ馬鹿が」


「馬鹿はどっちですか、これは戦闘機の戦いだけでなく格闘機でもあります」


ウラノスの機体よりも大きな機体が格闘機に変形して、特殊武装で撃ち落とそうと弾幕を張る。


「冬ちゃん! 至急日本に戻って、真理教がまた動き出した! 裏で再び大きくなってたみたいで、天皇の政権を狙って、きゃ! とにかく急い……」


「秋奈! 大丈夫か秋奈! ロシアは後回しか」


ウラノスクイーンの追撃を切り上げたウラノスは、急上昇して空の彼方に消える。


「早、追撃出来ないか」


残念そうにそう呟いたウラノスクイーンは、人型の機体を地面に着陸させる。


手の上に乗ったウラノスクイーンはヘルメットを地面に投げ付けて、黒煙が残る空を見上げる。


高い位置から地面に叩き付けられたヘルメットは、破損してバラバラに砕ける。


「何でここに」


「一番後ろで座ってるのも退屈でな、私は暇だからここに来た」


「司令は一番後ろで指揮を執る、これが基本ですよ」


「さぁライブが始まるぞ。私は生で見たい、二本線が入っているPhantomはPrincessの防衛担当。ライブが終わるまで守り切らねばならん」


「私にはもう関係無い事」


「軍人気質だな君は」


遠くからランチャーの弾が飛来して、ウラノスクイーンが格闘機の通常兵器で撃ち落とすと、それを合図に一斉に陸軍が前進を開始する。


「来たきた、地上でのドッグファイトも悪くないかな。と思ったけど空軍の援軍が大量に、地上は任せたぞー」


「多勢に無勢過ぎる」


戦闘機に変形させて飛び立ったウラノスクイーンを見送って、前進してくる戦車と歩兵、格闘機を睨みつける。


「申し訳ないわ私なんかで、鈴鹿なら無勢じゃなかったのにね」


「そういう訳じゃないです、ウラノスが言っていました。一番強いのは鈴鹿さんですが、一番人を殺せるのは都子さんだと」


「あっそう、あいつ次会ったら縛ってやる。まあ今は集中、ちょっとズルするけど」


左眼の炎を輝かせた都子は、Phantomの刺繍が入ったクロークを羽織る。


Capsuleから同じものを出して、自分も羽織る。


「あそこの道路を境にするから、よーく見てる事ね」


遠くの道路を指さした都子は、刀を抜いて炎を大きくする。


波紋のように広がった炎に触れた歩兵が、持っていた武器を落として座り込む。


戦車と格闘機は停止して、巻上がるタツマキに吹き飛ばされる。


「非常識」


「違うわ、空の意思よ。天候はウラノスの意のままに出来る、それがあの名前に刻まれた権限」


刀を納めると、眼に灯っていた炎が消える。


空を飛ぶウラノスクイーンの機体は、翼から黒煙を吹き出しながら、己を囲む機体の弾丸を回避して行く。


空中のドッグファイトを見上げていると、イギリスの街に轟音が鳴り響く。


戦車の砲撃かと疑ったが、沈黙したままの姿で停止している。


「ディストーションを展開して、姫輝は……あっちで戦ってるか」


走り出した都子の足下が陥没して、巨大なβiosが這い出て来る。


消えた都子を探していると、ウェストミンスター寺院の入口を防衛する部隊が到着する。


テロリストであるPhantom Princessと、制府に反旗を翻したMI6の混合隊は、それぞれのやり方で戦いを展開していく。


テロリストの統制のとれた戦いと、MI6の中でもはぐれ者が集まった隊の、個々の戦い方が合わずに危ない展開が何度も繰り返される。


「これから防衛から攻撃に移る」


「許可する」


見ても分かるように余程状況がよろしく無いウラノスクイーンは、そう短く言葉を返して通信を切る。


「防衛は姫輝さんの防御力に依存させます。お願いします」


「任せとけ、このまま繋いでても良いか?」


「良いけど。どうしてでしょうか」


「音でそっちの状況が分かるだろ?」


「なるほど」


完成したホーミングをArsenalから放って、ウラノスクイーンを追う戦闘機の連携を崩す。


出来た隙をすかさず突いたウラノスクイーンが、三機を纏めて撃ち落とす。


耳でずっと繋がれている寺院の中の慌ただしかった音が、静かになっと思うと妃奈子の声で楽器が一斉に鳴り出す。


既に完了している全世界のハッキングで、イギリスのビルのモニタにも、ライブがリアルタイムで流される。


妃奈子の歌声を聞きながら戦っていると、体が勝手に動いて力が出て来る。


心地好い一体感に包まれた体は限界を容易く超えて、ディストーションを足場にしてβiosを跳び越える。


突然吹いた風に背中を押されて、都子が落ちた穴に届けてくれる。


底の見えない真っ暗な穴を覗き込むと赤い炎が噴き出て、丁度上空を通過した戦闘機を一瞬で灰に還す。


「よくもやってくれたわね、死んでも尚戦い続けるのは結構、でも死者は生者の邪魔をしてはならない。それが真の優しさでしょ」


どうやって出て来たのかは不明だが、地上に立った都子は日本刀を構えて姿を消す。


巨大なβiosの首を撥ねた都子は、いつの間にかArsenalの上に立っていた。


一瞬動きを止めたβiosだったが、すぐに巨大な腕を振り回して都子を狙う。


自分の何倍もある腕を軽々と片手で止めた都子は、炎を更に大きくしてβiosの腕から燃やし始める。


苦しみ始めて腕を自ら切り落としたのを見て、都子がすぐに撮影していた映像を誰かに送る。


「アンジュさんあの化け物知能がありますよ」


「なんで」


「あれは危険と判断して自ら腕を切り落としたんです、それは今まで当たった中で無かった行動です」


「あんなのに知能があるとか、考えたくもない」


後ずさったβios目掛けて、Arsenalから引きずり出した大剣を叩き込む。


同時に空から飛来したミサイルを迎撃して、ホーミングをお返しに撃つ。


他の箇所に流れた流れ弾は、姫輝の張っていた大規模なディストーションで防がれる。


「すまん、ディストーションが崩壊する。あと二三発受けたらやばい」


「分かりました、では私のを張ります」


「馬鹿言うな、前線に居るのにディストーションが無ければ……」


「大丈夫ですよ、トーリさんたちが到着しました。援護射撃をしてくれるそうです」


「なら私も前線に出てやる、久し振りで上手く立ち回れるか分からないがな」


「駄目です、後ろに居て下さい。心配です」


「私は子どもかよ、最初会った時からは考えられないな。私はもうお前の隣に居るし」


左肩を叩かれて咄嗟に反応すると、ベレッタを構えて立っていた。


「分かりました。離れないで下さいよ」


「それはこっちの台詞だ。私から離れてくれるな」


走り出した姫輝に置いてかれて、追い掛けるように自分も駆け出す。


「卑怯ですよフライングは」


「これはレースじゃないんだ、ドッグファイトだろ」


「言いましたね、撃破数で勝負しますか?」


「言ってもでかい傀儡が一匹だけどな」


Arsenalから飛び出した日本刀が姫輝の手の中に吸い込まれて、月の光に反射して一閃の残光を虚空に刻む。


足を斬られてバランスを崩したβiosの心臓に、都子が渾身の力で日本刀を突き立てる。


それでも尚動き続けるβiosの姿を見て、都子はデータを誰かに送り続ける。


出遅れた私は遠くから発砲しながら接近して、軽量の大剣を持ち直す。


起き上がった陸軍の方に走って行った混合隊を見ると、先程とは一転して、見違える程の連携で互角に渡り合っている。


「到着しましたよ都子さん、今からトーリと援護射撃開始します」


「ウラノス呼んで来て」


「分かった。ウラノス隊の本領を発揮して」


βiosの腕に弾き飛ばされた姫輝を受け止めて、八メートル程地面を転がる。


追撃しようとしていたβiosの足下に、トーリの放った弾丸が突き刺さって拘束する。


遅れて弾丸が通過する音がして、拘束していた鉄がドロドロに溶ける。


「この歌良い曲だな」


「二曲目のAlice In Unreadableですか、一曲目のRIOTは良い曲じゃないと?」


「どっちも良いけど、私の人生に似てる気がするからな」


「冗談ですよ。ほら立って」


先に立ち上がった姫輝に差し出された手を掴んで、補助をしてもらいながら立ち上がる。


「ふたりとも目を瞑ってないと痛いよ」


妃咲部からの通信でそう告げられると、目の前で閃光が煌めく。


間に合わずに目を開けていたが、特に眩む事も痛むことも無い。


「ごめんねー、驚かせちゃったかな? これは人間には無害なんだ」


「ウラノスに言われてきてみれば、こんな下らない戦闘」


割って入ったトーリは不機嫌そうに毒を吐くが、的確にβiosの動きを封じている。


「貴女たちもウラノスに言われてここに来た訳、なるほどね。こんなに人の集まりが良いなんて怪しいと思ってたけど」


納得した様に呟いた都子は、混合隊では相手し切れなかった陸軍の中央で戦っている。


全てウラノスから始まったここに居る全員を考えてみると、的確に得意分野に分けられている。


唯強い鈴鹿と聖月華ではなく、攻撃力には劣るが、特殊武装のディストーションで守りを固められるわたしと姫輝。


大局を見て全ての敵を惹き付けることが出来る都子。


特殊武装の中でも強力な性能を誇るものを持つトーリ。


サポートをして全員が万全に、そして安全に戦えるように出来る妃咲部。


ウラノスの気配を察知して本部から抜け出して来たウラノスクイーン。


たった数人の人財で、戦場の要を全て揃えているウェストミンスター寺院防衛隊は、砦ではない建物を砦に変えてみせる力を持っている。


計算され尽くしたウラノスの思考に、体の中で何かの本能動いたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ