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叛抗姫の人形  作者: 聖 聖冬
24/41

不協和音

迷宮で大半が力尽きた為、全員片付けるのにそう時間は掛からなかった。


それでも少なくなかった敵を倒しきった頃には、ディストーションの出力も弾丸も底をついていた。


大きく上がった息を時間を掛けて整えて、目の前に倒れている光景をふたりでやったのが、未だに信じられない。


唯姫輝の背中を守るのに必死で、指の皮が剥けるくらい引き金を引いていた。


疲れ切って座り込んでいる姫輝の隣に立って、セレナに掃討完了の報告をする。


セレナは同時に報告を受けており、皆も丁度終わったようだった。


「SECONDOPERATIONウェストミンスター寺院は押さえた、全小隊はそこに集合。ここからはMI6の部隊が居る、気を抜いたらすぐに死ぬ世界だから気を付けて」


セレナの声からも緊張が伝わり、何処かでエージェントが命を狙っていないか、警戒心が自然と姿を現す。


虹火ここは全大隊と中隊に戦線維持を通達、那葵は虹火を護りながらウェストミンスター寺院に向かって。聖月華、ツヴァイ、チェリーと合流した後、寺院を死守して」


「アンジュは女王拉致隊に加わって。ウラノスクイーンから聞いたけど、王宮の警備をした事があるんでしょ? それも女王の部屋のドア、下調べもしたと思うから詳しいでしょ。案内よろしくね」


機嫌が良さそうなセレナは、語尾を上げて次の指示を下す。


後から送られて来たデータに、集合場所とメンバーが載っている。


妃奈子と友希那と私で組まれた小隊は、女王誘拐と言う無理な命令を下され、ウェストミンスター寺院に集合になっている。


当然近衛の警備を潜るのはかなり難しい、それに加えて常に最新のセキュリティに更新されているシステムは、有名な暗殺集団のひとりを仕留めたと、その性能も確認されている。


下手に潜むよりも正面から大勢で押し込む方が得策だと思うが、それに割くほど人手がぎりぎりなのも分かっている為、無理でも連れ出すしかない。


仕方無く腹を括ると、姫輝に手を強く握られる。


「どうしたの?」


「さぁ、私も分かんね。唯お前が腹を括った気がしたから」


「変態並ですね、本当に余計な心配しかしないからそんなに平らなんですよ」


「なら大きくなるよう心配させるなよ」


「心配ないですよ、寺院に行くまでは一緒ですから」


そう距離も無かった為、比較的早く寺院に到着した。


寺院を取り戻さんと陸軍が囲んでいるが、当然発砲する事が出来ない為、剣で突撃した所を狙い撃ちされて全滅を繰り返す。


そうする内に睨み合いになり、補給が安定していないテロリスト側は、確実に潰される事になる。


「セレナ」


「どうしたのアンジュ」


「女王って誘拐しないと駄目なもの?」


「んー、無理そうなら死んでもらって」


「了解。誘拐ではなく暗殺に切り替える」


「まぁ、仕方が無いか。暗殺に変更」


プライベート通信を切って、ふたりの到着を待つ。


陸軍が居ない入口から姫輝が寺院に入るのを確認して、Arsenalが作った弾丸を全ての銃に装填する。


自動修復の最中で、スタンバイ状態のディストーションの修復率を確認する。


肩を叩かれてコルトガバメントを抜きながら振り返ると、笑顔の妃奈子と不服そうな顔の友希那が立っていた。


「行きましょうか」


「妃奈子に銃を向けるなんて、許さない」


「今は協力する時ですよ、当然後ろから肩を叩いた私が悪いのですからね。大人しくしないと分かってるよね友希那」


「嫌いじゃない」


妃奈子が出した右手の手の平に拳を乗せて、完全に服従している意思を示す。


笑顔で友希那を撫でる妃奈子からは、幸せオーラが全開に出ている。


「友希那はウラノスさんと似てて、目を離したらすぐ何処かに行っちゃうから、今度首輪でも買おうかしら」


「それが妃奈子の趣味なら、センスに全て任せる」


「分かったので行きますよ。ここから先は奇跡何て置いていってください」


「受け売りの言葉ですけど、確かにそうしなければ確実に落命しますね」


「最初から奇跡になんて頼ってない」


革手袋を着けた友希那は、白のコルトガバメントと黒のコルトガバメントを取り出して、私の方に向けて発砲する。


背後でドサッと何かが倒れる音がして、妃奈子が友希那を褒めて撫でる。


その光景を見て、姫輝にされたのが懐かしく思えて、人肌寂しくなる。


プライベート通信を姫輝に繋いで、少しだけ無言で姫輝の声を聞く。


「おーい。My Angel? 繋がってないのか、可愛い声が聞けないのは残念だな。愛してるぞー」


「有難う御座います」


「うぉ! 繋がってたのかよ、恥ずかしいな。余計な事言わなきゃ良かった」


「帰ったら御呪おまじないお願いします」


「それは良いけど、何か言うことは無いか? 盗み聞きみたいにして」


「んー? んー、あぁ。我儘ですね……すき」


「好きってか、まだまだ頑張らないとな。愛される為に、今回は今までに無いくらい声が可愛かったから許す」


「うん、ありがと。じゃあ、out」


通信を切ってふたりを見ると、同じ様に誰かと通信をしていた。


「そうなんですよお母様、こんな大役を任せられて光栄ですわ~。はい、私は大丈夫です。はい、愛してますお母様。out」


「友希那は?」


「私は良い」


「して下さい友希那。じゃないと連れて行きませんよ」


仕方無くという感じで虚空に手を翳して操作を始めた友希那は、ウラノスにプライベート通信を繋ぐ。


「痛た……おや友希那から通信とは珍しいな、いつも私からしても無視なのに嬉しいな」


「妃奈子がやれって言うから仕方無く」


「でも嬉しいよ、女王を攫うんだな。いや、そのメンバーなら暗殺か。だが手遅れみたいだ、βiosの生命反応が多数そちらに向かっている」


「βiosは王宮にも配属されてるって事。人間じゃない分容赦してくれそうにもないし、倒しても疲れてる所をやられる」


「最強のβiosも配属されているのを確認した。妃咲部の息子と、私の優秀な部下を向かわせた。暫く待っててね」


友希那が舌打ちをすると、ウラノスが小さく悲鳴を上げる。


御免と謝ったウラノスは、その後は小さな声でぶつぶつと喋る。


次に重い溜息を吐くと、遂にウラノスが泣き出す。


「もう鬱陶しいから切る」


「待って待って待って、友希那さん。Любовь Вы」


「気持ち悪、死ねば良いのに。はぁ、Любовь Вы」


満足そうに微笑む聖冬は分かっているようだが、生憎母国語ですら危うい私には全く分からない。


「私も愛してるぞ友希那」


「もって何。私は言ってない」


「言ったじゃないか」


「御父様死ぬの? 難聴ですか、さっさと死ね。禿げて死ね」


「お父さんは禿げませーん。まぁ、愛する友希那から愛してるって聞けたし。そろそろ合流する」


「その流れだとそろそろ死んでくれるのかと期待した」


「本当は寂しいんだろ〜? そっち着いたら久し振りに親子三人で風呂にでも入るか?」


「性別考えろ変態。クズ」


「残念もう女の身体になってしまいました〜。まぁ、お前よりも胸はあるがな」


「巫山戯ないで、お母さんと私を超えて許されると思ってるの馬鹿」


高笑いするウラノスにそう言い捨てて、友希那は一方的に通信を切る。


録音していた通信記録を再生して、友希那は微妙に口角を上げながら目を瞑って聴き入る。


はっと顔を上げて突然私を睨み、ふいっと妃奈子の背中に顔を埋める。


ELIZAが友希那のASCから抜き取って来たデータには、ウラノスの写真や音声が沢山保存してあった。


「ELIZA余計な事をしないで。プライバシーの侵害」


「でも私の睨んだ通り、友希那さんはウラノスさんの事を本当は好きなんですよ。貴重なヤンツンですよ」


「病んではないと思うけど。ツンツンはしてるんじゃない?」


「いずれ病みます、確実に黒です」


煩いELIZAをつまんで視界の奥に投げると、関節がおかしな方に曲がるなど、グログラフィックのオプションを勝手につける。


それをミニELIZAが片付けて、全て収束して元の姿に戻る。


ピピピピと全員に向けて通信が入る音がして、目の前に聞いた事の無いコードネームが表示される。


「こちらLegion。ウラノスからは妃咲部で紹介されてるかな、所属は十八師団副師団長」


「私はトーリ。本名はリエム・バレッド・セイクリッド、十八師団師団長。推参」


小型ikarugaから飛び下りたふたりは、地面の直前でブレーキをして勢いを殺す。


ワイヤを離して地面に着地して、私たち全員をひとりずつ見る。


私で視線を止めたふたりは、ふたりで会議を始める。


「聖さんと九条さんの娘は分かったけど、真ん中の君は誰かな」


「アンジェリカ・レインワーズ」


「レインワーズか、アンレイスさんの娘かな?」


「ウタの娘ですけど」


「娘なんて居たのか、あの年齢で?」


「知らない。ウラノス以外どうでも良い」


友希那と同じデザインの、カスタム済みのコルトガバメントをスタンバイ状態にして、トーリは何かのプログラムを組み上げる。


プログラムを起動すると、手の中にあったコルトガバメントが消える。


妃咲部も同じプログラムを起動して、UZIを消す。


感心しきって口を開けているELIZAはトーリを指さして、飛び跳ねて何かを訴える。


「あんなの日本の軍事機密だから、教えてくれるわけがないでしょ」


「教えても良いけど、帝国軍に入って十八師団に昇格するまで教えれないぞ」


「流石菊の称号を承った師団ですね。武器の特定は今の時代大きな武器になりますから、隠すのは大きな強みですね」


「流石にそのELIZAにはバレたか」


作業をしていたELIZAが顔を上げて、納得のいったであろうプログラムを起動する。


起動したプログラムが展開を始め、私の体に白い光が纒わり付く。


「ELIZAさん?」


「あー……お願いですので体を隠して下さい。二秒前!」


妃咲部は後ろを向いて私から目を逸らし、トーリがプログラムを展開して、私の体を作り出した鉄の壁で外界から遮断する。


光が弾けると、着ていたスーツを吹き飛ばす。


「ELIZA!」


「御免なさーい!」


外から妃咲部の大きな笑い声と、妃奈子が逃げたELIZAを受け入れた声がする。


「どうしますかアンジュさん。流石に服は持ってませんよ」


「上は取り敢えず晒だけ貰えれば、下はそうもいきません」


「プログラムで作れませんか~?」


「そんなプログラム無いですよ」


鉄の壁に扉を作って入って来たのは、無表情のトーリだった。


「帝国の軍服で我慢して、一応プログラムでワンピースにしてみたけど。あと武器を消すプログラムはこれ」


手際良く晒を巻かれて、ワンピースを着せられて壁を取り除く。


こっそり隠れてフォルダから顔を出したELIZAは、飛び下りて土下座をする。


「よし、今から作戦の確認をする。その前に有難うなトーリ」


「何言ってるの、ウラノスに褒めてもらえるからやったまで。早く終わらせて会いたい」


「相変わらずブレないな。じゃあ、確認。侵入後に全員が分かれ、それぞれ武器を隠した状態で近付く。この時変装していくから来賓を装ってくれ、配置は部屋の外にふたり、部屋の中にひとり、外の狙撃手はふたり」


「狙撃手は私がする」


一番に手を上げたのは、狙撃銃を持っていないトーリだった。


「そうだな、それが最適だな。じゃあもうひとりは」


「待って下さい。トーリさんの銃からして狙撃手は適当じゃないと思います」


「私の特殊武装をイギリスのエージェントが使ってる粗末な物と一緒にしないで」


「聞き捨てならない言葉ですね。イギリスのエージェントを侮辱するのは、ウラノスクイーンを侮辱しているのと同じ」


「エージェントの過半数も敵に回った無能の指揮官を侮辱せず、私たちはMI6の何を侮辱すれば良い訳?」


「撤回して下さい」


「する理由が見つからない」


「お前たちそうヒートアップするなって。今のはトーリの言い方が悪いぞ」


友希那に近付いたトーリは、意外そうな顔をしてそのまま張り付く。


それを見た妃咲部は、勘弁してくれという顔で肩を落とす。


正直こんなのを寄越したウラノスの気が知れない、公開されているプロフィールは制限されているが、記録を調べても十八師団の話は出てこない。


実力も分からない相手と仕事をするのは、危険が常に纒わり付く。


「私はひとりでも良いけど、ウラノスに私だけ褒められるなら寧ろそっちのが良い」


「馬鹿を言うな、警備とセキュリティを抜けるには俺たちだけの情報じゃ足りないだろ。MI6さんが居るんだから、使ってやろうぜ」


「もうひとりの狙撃手は九条を指名する」


「分かった、それで良いか九条さん」


「妃奈子としか組まない」


紅潮させて顔を隠す妃奈子に、友希那が腕を絡ませる。


「えー……じゃあ狙撃手は、俺とトーリで……」


「九条以外受け入れない」


「俺とお前は今まで何回組んできたと思ってるんだ、いつも通りやれば良いだけだろ」


「九条が良い」


「何でだよ! 理由は何だ、何なんだ」


「髪の匂いがウラノスと同じ、恐らく同じものを使っている。それが落ち着くから最高のパフォーマンスが出来る、それ即ちウラノスに褒められる」


「よーし分かった! お前は俺とだ!はい次」


結局反発を押し切れず、編成は狙撃手がトーリと妃咲部、見張りが私ひとり、部屋の中が妃奈子と友希那になった。


文句を言いながらも妃咲部がトーリを引き摺って、宮殿よりも高い建物に向かっていった。


ドレスを着たふたりは、相変わらず見つめ合っていて、見ていると目が死ぬ。


警備をひとり攫って下水道に括り付け、奪った服を身に纏う。


身体強化プログラムを展開して、髪を上げて男装をする。

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