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叛抗姫の人形  作者: 聖 聖冬
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瓦礫の山

次に意識が覚醒したのは瓦礫の山の前だった。


目の前に現れた自分は、私を睨んでいる。


手の平を私の顔の前に翳したイミテーションが、眩しい光を放つ。


瞼を閉じて手で光を遮り、光が収まるのを待つ。


目の前に現れたのはウタと姫輝だが、向けられる眼差しが明らかに違う。


「久し振りだなアンジュ、お前は料理とか出来るか?」


一歩前に出て私の頭を優しく撫でたウタが、突拍子もなくそんな質問をする。


「いや、苦手な方」


「なら銃火器以外になにかスキルを持ってるか?」


次は姫輝が笑顔を見せて聞いてくるが、何故かいつもの様に目を見ることが出来ない。


「戦うことしか出来ないかな」


「使えないんだな」


ふたりは同時に冷たい声でそう言って、踵を返して瓦礫の山とは反対の方に歩いていく。


「私たちだけで行こう」


「そうだな。アンジュは要らないし」


「待って、そんな突然……」


「邪魔」


ふたりの前に回り込んで立ち塞がるが、容易く突き飛ばされる。


突如現れたウラノスクイーンに受け止められ、小さな手で優しく撫でられる。


さっきウタに撫でられるよりも遥かに優しいその手は、私を離して背中を叩く。


「アンジュ。その手の中にある物であいつらを消せ」


「ウラノスクイーン、私にはふたりを殺せない」


「紛い物だとしてもか。ならお前が消えるだけだ」


「そのスキルは違う場所で活かせば良い、内紛地なんていくらでもあるだろこの時代」


ふたりの言葉が交差して頭の中の思考を掻き回すが、次の言葉で体が勝手に反応する。


「邪魔をするなよウラノスクイーン。お前から先に……」


手に持った銃の引き金を反射的に引いた体は、大きく震えて力が入らなくなる。


血を流して倒れた姫輝の姿が崩壊して、中から自分が出て来る。


「なに……これ」


ウタも姿を変えて私になり、腰に手を当てる。


「まだまだ甘い、期待外れ。私が認められていない環境置かれた時、簡単に壊れないように防護策をとったけど無駄だったわ。どうか私が思っているより私の心が強いと願うわ」


「随分と手の込んだ嫌がらせだなイミテーション、ウラノスの作ったこの世界で……」


「ここはアンジェリカの心の中、私は唯の一人格。後はあの人から話を聞いて」


イミテーションが指さした先には、鳥籠に入れられたウラノスが居た。


鎖で手足を拘束されていて、目を瞑ったまま動く事は無い。


「どうすれば良いのウラノスクイ……」


さっきまで居たウラノスクイーンの姿は無く、代わりに蒼猫がじっと私を見ていた。


籠の扉を開いて中に入ると、猫がウラノスの足下を回り始める。


ウラノスを繋いでいる鎖を弾丸で断ち切り、体を受け止める。


「軽い、細い」


驚く程軽くて痩せていたウラノスの体は、少しきつく抱きしめただけでも崩れそうだった。


「やっと来たかアンジェリカ。突然だが時間が無い、君には選択を迫る。瓦礫の山の方にある銃を拾って、頂上に居るウタを殺すか、後ろの人形を拾って扉の前に居るウタと共に帰るか。選びなさい」


自分で立ったウラノスはそれぞれ前と後ろを指さして、銃と人形の在り処を指し示す。


「やっぱりそうなるのは避けられないか、だってウタが教えたのは銃の道だもんね。私は前に進むウラノス、貴方も来て」


「残念だが私の代わりにこいつが付いて行く。頼んだぞフユ」


そう言って蒼猫を抱き上げて鼻を合わせたウラノスは、背中から翼を出して飛び去る。


残された猫は瓦礫の山に向かって歩き出し、先に登り始める。


瓦礫の山の前に落ちていたコルトガバメントを拾うと、茨が地面から何本も姿を現す。


「その茨はお前の思い通りだ、未来を選んだお前にウラノスが加護を授けた。この山を登って頂上の番人を殺せば、お前は今までの人間とはいかない。聖冬の言う天使だ、くれぐれも忘れるな」


喋り出した猫を抱き上げて、茨に乗って頂上までショートカットする。


頂上にはスーツを着たウタが立っていて、ブラックスターの紋章を肩に付けていた。


「久し振りだなアンジュ、お前が死にかけて以来だな。突然だが、母を超えて行け愛する娘よ」


素手のまま踏み込んで来たウタの足を狙って撃つが、弾丸が避けるように当たらない。


「弾丸を避ける人間なんて……」


重い拳が鳩尾に突き刺さり、地面から足が浮く。


続いて回し蹴りが横腹を直撃し、瓦礫の山から転がり落ちる。


全身に鉄片が突き刺さり、最早痛みなど感じなくなり、燃えるような熱さが全身を支配する。


「躊躇うな馬鹿、ここから先は奇跡なんて置いてけ。必要なのは絶対だ!」


ディストーションでもう一度茨を作り、足場にして瓦礫の山を駆け上がる。


待ち構えていたウタに蹴り飛ばされと同時に、腕から茨を伸ばして足を絡め取る。


初めてナイフを抜いたウタは、茨を断ち切って瓦礫の山に落ちる。


姿を消したウタを茨の上から探すが、気配すら感じさせない。


真下から飛来した発光体に茨を断ち切られ、瓦礫の山から突き出たディストーションの剣山に逆さまに落ちる。


「ディストーション?」


「そうだ、私もお前と同じ特殊武装。ディストーションだったんだぜ」


いつの間にか私よりも高い位置に居たウタは、小さなディストーションの破片を投げる。


ディストーションでそれを防ぐと、すぐ後ろにウタのディストーションが迫る。


「ローズパレス」


自分を包み込んで剣山をへし折り、ELIZAが表示した文字を読み上げる。


「Phantom Princess」


薔薇の花弁が舞い散ると、目の前に姫輝が現れて体を包まれて瓦礫の山に落ちる。


その他にもセレナ、ツヴァイ、妃奈子、友希那、愛奈がウタを食い止める。


「それがお前の答えなんだな。ははっ、良い仲間だな。ずっと見てたぜお前の頑張る姿、カタリナを思い出したじゃねえかクソ」


ウタはツヴァイの胸倉を掴んで引き寄せて、額を合わせる。


「お前はツヴァイのイミテーションか、本人には会えなかったけど、欠片に会えて嬉しいよ。じゃあな、愛するPrincessども。それとありがとなアルテマ」


そう言ったウタは、人生で見た事も無いくらい幸せそうな笑顔を見せる。


初めて本物の笑顔を見た私は、感動のあまり涙が出る。


光の粒子となったウタが消えると、瓦礫の山の世界が崩壊を始める。


「済まないなお前たち、私もそろそろ限界だ。タークスの拷問がきつくてな」


羽を一枚だけ落としてウラノスが消えると、瓦礫の山が音を立てて崩れ出す。


「妃奈子と友希那は出口を探して、ツヴァイは少しでも瓦礫の山を登るための道を確保、愛奈はあとどれ位で崩れるか計算を」


セレナが的確な指示を出すが、ディストーションで全員を包んで瓦礫の山の頂上に下ろす。


「ここが出口。有難う御座いました、突然呼び出してしまって申し訳ないです」


「何言ってんの、私結構危なかったから感謝してるくらいよアンジュ」


「私も弾切れです。囲まれて大変でした」


セレナと妃奈子は弾の切れた銃を出して、補給役の愛奈からマガジンを受け取る。


「私も流石にスナイパーライフルで妃奈子の包囲を破るのは無理だった」


「完全に折れてますね、私の為に有難う御座います」


「いや、これはなかなか減らないからイライラして叩いたら折れた」


「あぁー、後で私の部屋で説教ですね」


説教と言われたのに一瞬嬉しそうにした友希那を放っておいて、何かを言いたそうに待っている姫輝の手を引いて、出口の扉を開けて飛び出す。


扉の奥には宇宙が広がっていて、天王星が目の前に迫る。


姫輝と離れない様にしっかりと手を握り、温かな陽だまりに居る様な心地良さに目を瞑る。


戦場で感じるぴりぴりした空気の中で目が覚めると、迷宮を丁度抜けた陸軍の大隊の先頭が、銃を構えて走って来ていた。


「もう逃げません」


「そうだな、ふたりなら強くなれる」


「言葉だけじゃ微温いです」


「これを機に結婚でもしとくか?」


「それフラグです」


「なに、回収なんてさせないさ」


ディストーションを剣に変えた姫輝は、飛来する弾丸を斬って突き進む。


それを見て真似をしようとしたが、当然弾丸を目で追える筈も無く、直前でディストーションで防ぐ。


街の至る所で交戦している音が聞こえて、その音で互いの生存を確認しながら、あっちに負けるかと背中を押し合っている。


「変な事言うぞ天使」


「プロポーズなら後でお願いします」


「違う。何か人殺してるのに、お前と戦ってると嬉しいんだ」


「そうですか。気が知れません」


とは言いつつも、自分もひとりで戦っている時よりも、何故か冷たい筈の戦場が、落ち着く場所になっている。


日本の侍が使っていた抜刀術で、斬っては進み斬っては進みを繰り返している姫輝は、まるで本物の侍を思わせる様な動きを見せる。


昔から日本の歴史をデータで見ていて、侍には強く関心を持っていて、一度日本に行って見てみたいと思っていたが、思わぬ所で見ることになった。


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