表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叛抗姫の人形  作者: 聖 聖冬
2/41

ELIZA

MI6に帰還後、体内の弾丸を手術して取り除いた後、撃たれた傷を癒す為に、長期休暇が与えられた。


特に行く所も、一緒に出掛ける友人も居ない為、M029は薬莢を机に並べる。


ひとつ置く度。


こつ。


こつ。


こつ。


リムが机を叩く音が部屋に響く。


「……そうだ、ケーキを食べに行こう……って違うわ」


頭の中に思い浮かべたケーキを退けて、壊れたMK23を机の上に置く。


コルトガバメントをスーツの中に隠して、マンションの部屋から出る。


液晶に手の平を当てて、施錠をする。


「銃火器最寄り店」


壊れたMK23の代わりを探す為、Information Life Wizard Alchemyに検索ワードを投げ掛ける。


Lifeだけ頭文字の二文字を取ったELIZAの名の由来は、生活を便利にする情報を、魔法使いが錬金術の様に出す事をコンセプトとして、作り出した人工知能プログラムだ。


「ルート案内を開始致します。本日の天気は晴れです、本日もお元気ですね」


角膜に地図が表示されて、目的地の場所に旗が立っている。


車通りの多い道を歩いていると、ウェストミンスター寺院が右手に見える。


以前王族の戴冠式で警備に当たっていた事があり、構造などを知り尽くしてしまった。


ルイシャム・ストリートに入って、民家の間の通りに入る。


マンホールを開けて、体を中に滑り込ませる。


店の入口に着くと、黒服を着ている男がふたり立っていて、片方に止められる。


「MI6エージェント、コードM029」


データ化すると、漏洩した時悪用される可能性がある為、手帳となっているエージェントのカードを見せる。


それを見た男は、店の中に通してくれる。


店の中に入ると、壁には様々な銃が飾られていた。


「どれが良いんだ」


端から順に見ていくが、これと言ったものが無いので、店主に問い掛ける。


「やっぱりベレッタ92Fじゃないか?」


「ベレッタも良いけど、MP-433にする、MK23は置いてないのか?」


店主はベレッタとMP-433を出す。


「MK23は置いてないな、ちょっと前まではあったんだけどな」


「そうか、ELIZA口座の残金は」


「はい、口座の残金は八億二千万と……」


「もう良い、どちらも頂く」


カウンターに置いてある液晶に手をかざして、早々と会計を済ませる。


「は、八億って……兄ちゃん裏の仕事でもやってるのか? ここに来るのは精精テロリストくらいだぞ」


「なら、表の警備は何なんだ」


「警備なんて付けてないよ、この店知ってるのはそう言う奴らばかりだからね」


「……まあ良い、職業は只のエージェント。金を使う機会がなかなか無いから貯まる一方なだけ。あと、仕事が多い所為。弾はこの住所に送ってくれ」


銃を持って店を出る。


マンホールから出ると、先程入口に立っていた二人組が居た。


「おい、お前金持ってるんだろ。死にたくなければ口座キーを教えろ」


突然二人に銃を突き付けられる。


ひとりは後ろに回って、後頭部に銃口を付ける。


「そうだ、ケーキを食べに行こう。ここら辺の美味しいケーキ屋を調べろELIZA」


二人に構わず歩くと、発砲音が二回する。


「ディストーションを展開致します」


ELIZAが言うと、背中の前で弾丸が止まる。


「もっと撃て! どうせ防弾スーツだろ。貫通させてやれ」


弾が切れた二人は、無言で走って逃げる。


「この機能の説明をしろELIZA」


「はい、昨日の手術で取り付けられたものです。MI6の中でも、今は貴方様だけしか実装されておりません。ディストーションは、展開する代わりに動きが制限されてしまいます、そして、展開時間も有限です」


「そう」


トットヒル・ストリートに出ると、警察とテロリストが衝突していた。


街の中で銃撃戦が展開されており、一般市民が逃げ惑っている。


面倒な光景を目の当たりにしたので、角膜をケーキ屋の情報で埋め尽くす。


「あ、このケーキ美味しそう。プリンもパフェもある……って違うわ」


視界を埋め尽くしていた情報を片付けて、車の後ろに隠れていた警察官の隣に行く。


エージェントの手帳を見せて、ドアの後ろに身を隠す。


「MI6か、手伝ってくれ」


「ん、報酬は」


「何を言っているんだ、MI6の仕事でもあるんだぞ」


「今は休暇期間中だから。普通でも金は貰ってる」


「分かったから、取り敢えず手伝ってくれ!」


ドアの陰から出て、コルトガバメントの射程距離内まで接近する。


先程買ったベレッタを左手に持って、二丁拳銃で応戦する。


「ディストーションを展開致します。耐久時間残り八秒、七、六」


「五月蝿いし邪魔」


ディストーションが展開されている為、こちらの弾丸も止められてしまう。


こちらも攻撃が出来ないが、あちらも攻撃が出来ない、この間にテロリストとの距離を詰めて、即死する程度の射程距離には入っておきたい。


途中、乗り捨てられていた車を発見したので、その車に乗り込む。


アクセルを全開に踏んで、乗り捨てる。


そのまま走っていった車は、テロリストの一部を吹き飛ばしながら、店にぶつかってやっと止まる。


違う車の陰に隠れて、残ったテロリストの殲滅に当たる。


弾の切れたベレッタをホルスターに入れて、MP-433を取り出す。


コルトガバメントをリロードしている間は、MP-433を撃ち、何とか間を持たせる。


撤退を開始したテロリストは、車に乗って退散していく。


命からがらの逃亡虚しく、車でバリケードを作っていた警察に捕まる。


「ディストーションを使い切ってしまいました。本日の分は……」


「もう良い」


報酬の約束をしていた警察官の下に行くと、手を差し出される。


「協力感謝する」


だが、M029はその手を握らない。


「協力をした気は無い、報酬の為」


「分かったよ、報酬は何が良いんだ。あまり突飛なのはやめろよ」


今月は金欠になる事を覚悟した様な言い方をして、警察官は肩を落とす。


「最近美味しいと口コミがあるケーキ屋に連れてって」


「そんなんで良いのか? 俺はなんか、もっとこう、めちゃくちゃ言うかと……」


「道が分からないから、道案内が欲しかっただけ」


警察車両の助手席に乗って、シートベルトを締める。


「道案内なら、ELIZAにお任……」


「黙ってて」


警察官が運転席に乗って、エンジンをかける。


目を瞑って到着を待っていると、途中で警察官が口を開く。


「名前は?」


「M029」


「いや、コードネームじゃなくて」


「コードネーム以外、俺と識別する呼称は与えられていない」


赤信号で車が止まると、前を大量の人が横断して行く。


通行人のひとりがこちらを見て、不意に銃口をこちらに向ける。


意表を突く行動に、反撃の体勢が整っていない。


ディストーションは使い切った、相手より先に撃つのは間に合わない、そんな事を考えている内にも、銃を持っている男の指は引き金を引いていく。


シートベルトの金具を撃ち壊して、警察官の上に覆い被さる。


「邪魔なんだよ、ケーキ屋くらい普通に行かせろ!」


叫んだ警察官は、ハンドルを見て声を荒らげる。


弾は運良くハンドルに当たって、貫通すること無く止まっていた。


振り返って、コルトガバメントの引き金を引く。


カチッと音が鳴るだけで、発砲音が響かない。


こんな時に動作不良が起きる。


「大丈夫か、当たってないか?」


「行って、轢き殺して」


車は急激にスピードを上げ、テロリストの回避行動虚しく、その体を吹き飛ばす。


「やっちまった。救急車」


「要らない。ケーキ屋に行こ」


「馬鹿言うな、テロリストだろうと轢いちまったんだぞ?」


「轢いちまったんじゃなくて、俺たちは意図的にあいつを轢いた。ケーキ屋に行こ」


言い合いをしている間に、テロリストは血を流しながら、裏路地に逃げてしまう。


助手席から出て、テロリストを追い掛けようとすると、警察官にシートベルトを巻き付けられて止められる。


「やめて、仕留めないと。いや、やっぱりケーキ屋に行こ」


「ケーキケーキ五月蝿いんだよ、殺した後のケーキとか喉通らんわ」


逃げた男を完全に見失い、追い掛けようとするのを辞める。


助手席に戻って、緑色になっていた信号を確認して、道を進む。


「貴方の都合は知らない。俺は殺した後でもケーキは喉を通る」


「アイルだ。俺は通らないんだ、お前いくつだよ。まだ成人すらしてないだろ」


「年齢は十六。何で貴方もケーキを食べようとしているのですか」


「十六でMI6? よっぽど人手不足なのか?」


車が右に曲がると、目的地のケーキ屋に到着する。


「続きは店で」


助手席から下りて、先にケーキ屋に入る。


店内は若い女性で賑わっていて、席が殆ど埋まっていた。


店員が接客に来て、笑顔で空いている机に誘導してくれる。


「おい、M029置いてくなって。あ、連れです」


アイルが店に入ってくると、店員に頭を下げながら向かい側に座る。


「えっと、チーズケーキとチョコケーキといちごパフェと、いちごタルト。あと珈琲」


「俺は珈琲だけで」


注文をするパネルで、全てをオーダーする。


「ELIZA休暇の後の予定は」


「はい、このようになっております。初日の仕事は日本に行くことになっています」


角膜に予定表が表示される。


「四月は休みが三日だけか、日本では何をするんだ」


「日本では天皇陛下と首相に謁見した後、日本との交流だそうです」


「交流? そんなものが必要なのか、協力する条約などを結ぶなら分かるが、ただの交流か」


「裏があるとお考えですか?」


「交流だけなんて、何の意味も無い」


頼んだものが一気に机に届き、机の上が半分埋まる。


「おい、多くないか」


「これくらい何とも……あげないから。私を誘導して取ろうという魂胆?」


「取らねーよ……おいおいおいおい、珈琲にどれだけ砂糖入れるんだよ、色変わってるじゃないか」


「五月蝿いです、苦いのは苦手なので」


角砂糖を六つ入れ切って、スプーンでぐるぐると掻き回す。


それを見ていたアイルは、口を開けて勿体無いと言う顔をする。


珈琲を一口含むと、まだ少し苦い気もする。


もう一個足そうとすると、アイルの手に止められる。


砂糖を諦めて、ケーキに手をつける事にした。


先端のとがっている所から崩して、口に運ぶ。


無言で食べていると、アイルがぼーっとこちらを見つめている。


「美味いか?」


不意に口が動いて、そう聞かれる。


「美味しい。連れて来てくれて有難う」


「今日会ったばっかだけど、お前の笑った顔初めて見たわ。やっぱり笑うと、まだまだ子どもなんだな」


「笑ってない」


自分の顔をぺたぺた触ってみると、少し口角が上がっていた。


今までケーキを食べても、こんなことは無かったのだが、今回は何故か笑っている。


「な? 笑ってるだろ」


パフェに刺さっていたビスケットを、アイルの顔目掛けて投げる。


アイルはビスケットを口で受け止めて、もぐもぐと咀嚼していく。


「ビスケット返して下さい」


「お前がくれたんだろ?」


もごもごもごもご咀嚼して、ビスケットを胃袋に収める。


注文したものを全て食べ終わる内に、アイルは珈琲を四杯も飲んでいた。


カフェインを取り過ぎたアイルは、トイレに駆け込んで行ってしまった為、追加でショートケーキを頼んで待つ事にした。


「M029休暇期間中悪いが、緊急事態だ。直ぐに日本に飛んでくれ、警察官も一緒に居るだろ、そいつも連れて行って構わんそうだ」


「断ります、休暇期間中。何が起こったのですかそんなに焦って」


「取り敢えずマクトさんの命令だ」


「分かった」


椅子から立ち上がると、丁度アイルが帰って来る。


「お? 如何した、何かあったのか?」


「日本に発つ事になった、来る?」


「いや、遠慮しとくよ。妻も子どもも居るし」


「分かった」


急いで会計を済ませて、店から飛び出る。


ケーキ屋の前には、既に黒塗りの車が止まっていて、準備は万端だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ