最新兵器
ウラノスクイーンが帰った後、風呂から衣服を着ずにリビングに行くと、姫輝がガラス張りの壁を操作して、外から部屋が見えなくする。
機械に畳まれていた下着を渡されて、薫から貰ったワンピースを着せられる。
「服くらい着て出て来いよ!」
「風呂上がりは何も着たくない。部屋では大体下着一枚だから、穿いてるか穿いてないかは大差ない。姫輝は同性だし気にならない」
受け取った下着を姫輝のスーツのポケットに入れて、ひとり掛けの椅子に座る。
ポケットから下着を出して畳んだ姫輝は、スーツを脱いでワイシャツと下着だけになる。
「風呂入ってくる。飲み物はキッチンに置いてあるから好きに飲め」
「俺の家なのに上から目線」
「是非飲んで下さい。お風呂頂きます」
「冗談のつもりだったのに」
姫輝が風呂に入って五分過ぎた頃、ユージーンから通信が入る。
許可を選択して通信を繋ぐ。
「お疲れさん。ゆっくり休んでるか?」
「休んでるから邪魔するな」
「御免って。Phantom Princessの動画再生数が、凄い事になってるんだ。遂に十億を超えたんだ」
「不味いことでもあるのか」
「不味いだろ。これに同調して、世のテロリストが大きく動くかもしれないんだぞ」
カップに淹れた紅茶を口に含んで、世のテロリストが動いたとして、頭の中で想定を開始する。
今MI6に危険とされているテロ組織は、百四十三。
イギリスの中だけでも二十は存在する。
それが同時に制府の建物を襲ったら、三時間も持たずに建物は崩壊する。
四時間で漸く決着が着くが、制府軍が必ず勝てるとも限らない。
約八十年前にイスラムで活動していたテロリストみたいに、ちまちま嫌がらせみたいに人を殺したりせず、派手にする集団が増えて来た。
当然武装も強力になって行き、銃火器の開発が禁止された今、制府にも大量虐殺兵器は無い。
武器の性能はテロリストと同じで、有利なのは数だけだ。
白兵戦が得意なテロリストに、果たして何処まで数を削られるか。
早めに全てを叩かないと、動画を見た者がテロ組織に参加する恐れもある。
唯でさえASCを埋め込んだ事に恨みを持っている国民に、今度は無能だと叩かれて、更にテロリストが増えかねない。
「そっちも気を付けろよ、俺はMI6の宿舎だから良いけど。お前はわざわざ借りてるんだから」
「心配なら要らない。テロリスト如きに遅れをとってたら今頃死んでる。何戦してきたと思ってる」
「お前の能力に不安は持ってない。けど奇襲は別だろ、スナイパーなら避けようがない」
「一応気を付けとく。out」
ユージーンとの通信を切断して、紅茶を飲み干して、血の付いたベレッタをバラす。
酷い有様の中身を見て、明日買いに行こうと決断する。
寝室のベッドのまえにいどうすると、姫輝が脱いだスーツが無造作に置いてある。
ベッドに飛び込んでスーツを抱いて、鼻に当てて瞼を瞑る。
時折物語で見かける、主人公に恋するヒロインは、こんな感情で同じ事をするのかと、思考を巡らせてみる。
感情と単語が出て来たが、それについてよく理解が出来ていない。
考えるだけ無駄かと、思考を投げ捨てて仮眠をとる。
意識が落ちてからどれ位経ったのだろうか、人の気配が部屋に入って来る。
顔を覆っていたスーツが剥ぎ取られるタイミングと合わせて、素早く上体を起こして、ワンピースの内側からナイフを抜く。
寝起きでぼやけた視界に、人の顔と、自分が首に突き付けているナイフが、徐々にハッキリ映る。
「御免。強盗かなんかかと、ずっとひとり暮らしだったから」
少し驚いた様子を見せた姫輝だが、特に騒ぐでもなく、下着一枚で大人しく立っている。
「服着ろって言ってたのは誰」
「スーツしか持って来てなかったんだよ。明日買いに行くから、今日はお相子だ」
姫輝に両肩を押されて、ベッドに背中から落ちる。
「そう言えば、服なら変装用のが沢山あった」
遠隔操作でクローゼットを床から出す。
「私服とかあるし、こっちの着たら良いんじゃないか?」
「それは高身長の時のだから」
「成程」
「姫輝なら丁度良いと思う」
一着手に取った姫輝は、服を体に当ててこちらを向く。
どれも女らしくない服を選んで、機動性のある素材しか手に取らない。
ベッドから腰を上げて、姫輝の隣に立って服を見る。
今まで気付かなかったが、女らしい服は端にしかなく、殆どが男性向けのだった。
「結構前に女らしいのは何着か買った筈だけど、こんなに無かったっけ」
「すまん。この家に来た時女性向けの服があったけど、劣化が凄かったから捨てちまった」
「部屋用なので男性向けでも構いませんよね。見た目も美青年ですし」
「よく分からんが、お前みたいにひらひらしたのは似合わないからな。これで良いんだよ」
服に袖を通した姫輝は、俺の両脇の下に手を入れて、持ち上げたまま走ってベッドに飛び込む。
「ちょ、なんだよいきなり」
体をきつくしめられて、耳と耳がくっ付き合う。
後頭部に手を添えられて、これ以上何も言うべきではないと思い、大人しく姫輝に任せる。
暫く黙って抱擁していた姫輝は、溜息を吐いた後に、小さな声で言葉を耳に吹き込む。
「血の匂いと鉄の匂いがするな。きちんと洗ってるのか?」
「黙ってれば良い雰囲気だった」
肩を咬むと、姫輝は抱擁のしめつけを強くする。
肩から口を離して、両手で姫輝の顔を掴んで、引き剥がそうと試みる。
引き剥がそうとして、力を入れる度にしめつけが強くなる。
「痛い……って。何考えて」
「愛情の御裾分けだ。愛情は有限なんだから取っておけ」
「訳が分からない……痛いっての」
「あと三十分」
「長い。もう少し弱くしてくれれば良いけど、俺は寝るから」
瞼を瞑って眠りの世界に逃げようとすると、ELIZAがフォルダから何かを出す。
それを目の前に展開すると、ウラノスクイーンが机に座っている映像が映る。
「今日は世話になったな。Phantom Princessに動きがあったら、真っ先君に動いてもらう。これが当分の仕事だ」
屈託の無い、見た目だけ少女の笑顔の後に、貼り付けられた様な、殺意に満ちた顔に変わる。
ウラノスクイーンがこの顔になった任務は、大抵長引く上に、良いことが起こらない。
これは司令伝達でもあり、ウラノスクイーンなりの忠告でもある。
「武器はこちらで用意した。ハンドガンでは物足りないだろ。明日、本部に取りに来い」
そこで映像が終わると、抱擁のしめつけが緩くなっていた。
腹式呼吸をしている姫輝の息が、耳にかかって擽ったい。
首を回して対処しようとすると、鼻先が触れ合う。
反射的に首を後ろし下げると、変に捻って筋を痛める。
「慣れない環境なら仕方が無いか。五時に起こしてELIZA」
「睡眠時間が四時間になってしまいますが」
「それで良い。MI6に行かないといけない」
「畏まりました。良い睡眠を」
全ての機能をシャットダウンして、ELIZAが機能を停止させる。
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五時ぴったりに起こされて、低血圧で気怠い体を起こす。
目を擦って、無理矢理起きようと努力する。
起こした上体を再び倒して、瞼を閉じようとすると、ELIZAが角膜に大量の文字を展開させる。
瞼を閉じても映されるそれは、勝手に脳の中を掻き乱す。
ベッドから転がり落ちて、床を転がる。
「起きましたかー」
「五月蝿いしこれ仕舞え。こんなの見てるだけで頭が痛い」
「何時もどうやって司令書読んでるんですか?」
「仕事の時は読める様になる」
閉じられて行く表示に、見た事の無い司令書が混ざっていた。
それを表示して内容を確認すると、知らない建物の地図だった。
ELIZAはその建物と一致する場所を検索して、建物の外装と場所を表示する。
命令の内容は暗殺。
そこに書かれていた名前は、ドルト・エルクーレ。
その隣に顔写真が添付されていた。
その顔に見覚えがあり、記憶を探っていると、何とかひとり引っ掛かった。
「ウラノスクイーン反対派筆頭。テロリストに武器の横流し、直ちに天誅を下せ」
再び録画してあった映像が流れて、手に持っていたMP-433を、凍らせて粉々に砕く。
ファイルが自然消滅して、データが跡形も無くなる。
何処にも跡が残らないデータは、ウラノスクイーンの命令を表に漏らすことは無く、テロの多いこの国で、銃殺も不審ではない。
最近動き出したPhantom Princessを利用すれば、確実にウラノスクイーンが疑われる事は無い。
飛び散らかった髪のまま外に出て、MI6本部に向かう。
タクシーを下りる前に髪を短くして、ウラノスクイーンの部屋に入る。
「M029到着しました。武器の受け渡しを……」
「そう焦るな。少し話をしようじゃないか」
ウラノスクイーンがデバイスを操作すると、床から椅子が出て来る。
それに腰掛けると、ウラノスクイーンはH&K PSG1を机に出す。
更にジュラルミンケースを出して、中に入っている銃のデータを送って来る。
「随分と良い物を揃えましたね。その期待に必ず応えます」
データの中には、H&K PSG1、コルトガバメント、スプリングフィールドXD HS2000の名前が並んでいた。
椅子から立ち上がろうとすると、ウラノスクイーンに手で制される。
椅子に座り直してウラノスクイーンの言葉を待つと、何をするでもなく、唯顔を見つめられる。
居心地が悪くなって立ち上がると、ウラノスクイーンも立ち上がって、目の前で両腕を広げる。
「通せんぼですか。ケースを取ってみろと言うのですか」
「物騒だな、ハグだよ。戦勝祈願」
「御断りします」
「んー。ん、ん」
一瞬だけハグをして、流れる様にウラノスクイーンを投げる。
地面に叩き付けられる直前、床からクッションが展開して、衝撃からウラノスクイーンを守る。
「残念だったな」
「チッ。もう行きます」
机の上のジュラルミンケースと、H&K PSG1を持って部屋を出る。
エレベーターで一階に下りて、ロビーを通過して出ようとすると、背後から肩を叩かれる。
H&K PSG1を手から離して、ジュラルミンケースを開けて、反転してコルトガバメントを構える。
H&K PSG1とジュラルミンケースが落ちる音で、周りから注目が集まる。
ELIZAが顔を認証すると、目の前の男のデータが表示される。
「ヘリオライトの隊長、Gz9様です」
その情報の文字を見て戸惑っていると、ELIZAがデータを読み上げて教えてくれる。
「背後から突然接触すると、脳幹が削れますよ」
「今時そんな警戒している人がいるなんて。そんな物騒な物は仕舞ってよ」
素性も知れたところで銃を下ろすと、Gz9は笑顔で握手を求めて来る。
握手に応じると、想像以上に細い指に驚く。
「ウラノスクイーンに会って来たようだね。僕も手伝おうか?」
「結構です。ひとりの方が計画を進めやすいですから」
「それは残念。ウラノスクイーンに補助を頼まれたんだけどな」
「初めましての人は信用していません。どれ程の腕かも見ていませんから特にです」
Gz9は一通のメールを開くと、手に持っていたデバイスに映し出す。
送信者はウラノスクイーンからだが、内容が全く読めない。
「簡単に言いますと、M029と組んでターゲットを消せと言う事です」
「余計な事を。俺では足りないと」
通信が強制的に繋がれて、角膜にウラノスクイーンが映る。
「制府が新しい研究を成功させた。それが解き放たれれば確実に我々は潰れる」
「それを事前に潰せと。ドルトとなんの関係が」
「ドルトがそれを手に入れようとしている。私を消す為にだ」
難しい話は分からない、だが俺に協力者を付けたのは気に食わない。
ウラノスクイーンにそんな気は無いとしても、力不足と言われている気がして、余計に腹が立つ。
「この任務はひとりで出来る。隊ではGz9が一番かもしれない、でも俺は個人で一番だ」
「そうムキになるでない。お前の力は認めているが、もし兵器が完成していれば人間に勝ち目は無い」
ウラノスクイーンが机の上の蝶の髪飾りを触っている時は、必ず嘘を言わないと言う癖がある。
その癖が今出ていると言うことは、言う通り人間では勝ち目が無い。
それを見たからと言って、引く訳にも行かない。
命令に従わなければ居場所は無いし、兵器とやらがこちらを狙って来る。
「協力するのは今回だけです。その代わり、以前の兵器を下さい」
「未完成だがGz9に渡してある。その兵器の名前はYAMATO、かつて最強を誇った主砲を乗せた、日本の戦艦の名前から取った」
大和についての情報はよく知っている。
大和が積んでいた四十六センチ砲は、未だに世界最大の主砲として、全国の海軍で有名だ。
そしてあの兵器は、RPGなんて比では無い程の高火力を誇る。
大掛かりな砲台で撃つよりも、遥かに効率も立ち回りも良い。
「これがYAMATO。今は小さなカプセルの中だけど、これにELIZAを接続すれば一回だけ展開から」
それを受け取って、スーツの内ポケットに仕舞う。
H&K PSG1をギターケースの中に隠して、コルトガバメントを腰のホルスターに差して、スプリングフィールドXD HS2000を服の中のホルスターに入れる。
「行こう」
「スーツにギターケースは無い。絶対怪しまれて終わりだよ」
本部から出ようとすると、ギターケースを掴まれて引き止められる。
確かにスーツを着たままギターケースを持っているなんて、不審で職務質問を受けかねない。
ケースの中を調べられれば、自分の身分を明かす事になり、あまりよろしくない。
かと言って、ギターケースを持っていて違和感が無い服なんて、持っている訳が無い。
カプセルはこう言った硬いものには使えないし、他に入れられるケースも無い。
「アサルトはアサルトらしく突っ込ませて下さい」
「それでも良いと思うけど、君はある程度有名だからな」
「なら後方支援は任せます。H&K PSG1はあなたが使って下さい」
「僕もアサルトだからな、あまり狙撃は得意じゃないんだ」
MI6トップの隊長も、あまり使えないと頭の中で処理する。
「使えなくて悪かったね。僕はアサルト向けの特殊武装だから」
思考が顔に出ていたのか、Gz9は煙草に火を着けて、煙を吹き掛けてくる。
煙を手で払って、ギターケースを受付に投げる。
慌ててギターケースをキャッチした職員は、こちらを睨んでギターケースをカウンターの下に置く。
結局いつも通り二丁拳銃のスタイルに戻って、どんな武器を使うかも分からないGz9と本部を出る。
黒い革手袋を指に通して、握ったり開いたりしながら手に馴染ませる。
サングラスを掛けて目元を隠し、ウラノスクイーンから送られて来た、ドルトの家周辺の情報を、脳に焼き付ける。
Gz9も同じ様に情報を確認しながら、どう行くかを考える。
黒い車の助手席に乗り込んで、Gz9が車を起動させる。
乗用車の形をした装甲車は、デバイスに目的地を映す。
デバイスの画面に文字が浮かんで、音声でふたりに伝える。
「オペレーション『チェルノボーグ』速やかに完遂して下さい」
フロントガラスに信号に捕まらない、最短時間で到着するルートを矢印で示す。
Gz9はそれに従ってアクセルを踏み、車を発進させる。
完璧なサポートもあり、信号に捕まらず、十分程でドルト邸の近くに着く。
「エンジンは待機状態に設定して、ルート再確認。マップ展開、あなたが正面から突っ込んで気を引いて」
「そんなんじゃセキュリティに引っかかるって。ELIZAで無効化しながら静かに制圧する」
サプレッサーを二丁に付けて、ELIZAをドルト邸のセキュリティに潜り込ませる。
「慎重に行く様に。バレたら直ぐに戻ってくる事」
「バレる訳が無いですよ。必ずおふたりをドルトの下まで届けます」
「失敗しそうな言葉だ」
「御武運を」
敬礼して出て行ったELIZAにセキュリティは任せて、Gz9のELIZAにデータを送らせる。
「来た来た。外の見張りは正門に四人。その他は放置しても構わない。中庭に三人、玄関の門にふたり。中は監視カメラで確認中」
車から出て、正門のひとりに接触する。
当然警戒されるが、Dummy chipを警備のELIZAに読み取らせて、ウラノスクイーン反対派のエージェントのデータを読み込ませる。
続いて車から出て来たGz9も、同じ手口で警備の警戒を解く。
「MI6本部から派遣された追加の警備だ。ドルト様の身辺警護を担当する事になった」
「同じく身辺警護を担当する事になった」
正門の防犯カメラに合図をすると、警備が焦って狼狽える。
「前が見えない……」
「真っ暗にな……」
Gz9とふたりずつ撃って、警備の四人を片付ける。
ELIZAがELIZAにハッキングして、遠隔操作で相手の視界を奪って片付ける。
正門を開けさせて、四人の死体を壁の内側に隠す。
「侵入者だ! 正門がやられた」
邸宅に向かって走りながらGzが中庭の三人にそう叫ぶと、正門に走って来た中庭の警護とすれ違う。
反転して三発の弾丸を放ったGz9と少し離れて、ぎりぎり声が聞こえた入口の警備が出てきた所を撃ち殺す。
「なかなかスプリングフィールドも使い易い。MP-433も捨て難い」
「独り言言ってないで、さっさと終わらせるよ」
隣を駆け抜けて玄関のドアを潜ったGz9を追い掛けて、続いて邸宅の中に入る。
ELIZAから追加の情報が入って来て、Gz9がそれを伝えてくれる。
いきなり左右に分かれる廊下を、Gz9は右、俺は左と別行動になる。
と言う事は、先に着いたら仕留めてしまっても構わない、エージェントとしての能力が上回る方が勝つ勝負。
幸い騒ぎは玄関で片付けれたらしく、邸宅内の警備は全く気付いていない。
廊下を走って、見かけた警備は片っ端から撃つ。
階段を駆け上がって一本の廊下に出ると、向かい側の廊下から、Gz9が走って来る。
廊下の真ん中にひとつだけあるドアの脇に、背中を着いて、Gz9がドアノブに手を掛ける。
この時代にドアノブは厄介だ。
こう言ったドアは、今の時代必ず何か仕掛けがある。
Gz9が慎重に手を掛けて、ドアノブを引いて開けると、何かが外れる音がした。
「コンカッション」
Gz9を背後に引っ張って、ディストーションを展開する。
目の前で爆発したコンカッショングレネードは、鉄片を撒き散らして壁を抉って行く。
穴だらけになったドアは、半壊状態で廊下に転がって、後ろの壁にぶつかった鉄片が足を削っていた。
膝を折って座り込むと、音を聞いて残りの警護が駆け付ける。
「挟み撃ちは部が悪いな」
「此処は食い止めておく。ドルトを殺って任務を完遂しろ」
壁に背を着いて、右手にガバメント、左手にスプリングフィールドを持つ。
ウラノスクイーンから貰った銃と一緒に死ぬのは、少しだけ気に食わない。
何かを解除したGz9は、短かった髪が腰辺りまで伸びる。
俺の頭からカチューシャを取って、自分の頭に付けて髪を短く見せる。
「また会った時に返してやる。完遂の報告は私ひとりで行っといてやるよ」
カチューシャの代わりなのか、胸に付けていた蝶のブローチを、スーツに付けてくれる。
破れたスーツの内ポケットから、白い何かが落ちる。
それを拾って中を見ると、薔薇の飾りが付いたヘアピンが入っていた。
中をよく見ると、一枚の紙が入っていて、中には『やる』とだけ書いてあり、右端に姫輝と書いてある。
「なんだ……こんなに居てくれるなら寂しくない」
俯いて両方向にディストーションを張り、確実に仕留められる距離まで接近させる。
すると、突然視界に動画が映る。
足音が消えたと言うことは、警備たちもPhantom Princessにハッキングされて、迂闊に動けないという事。
以前とは違う場所が写り、今度は最初に仮面を付けた少女が出て来る。
「今回は始まりの準備段階。Light a fire」
少女が点火と言うと、ドルト邸の一階が爆発する。
二階の廊下を巻き込んだ爆発は、ドルトの部屋の前の廊下だけを残して、全て崩れ落ちる。
瓦礫の下に埋まった警備は、誰ひとりとして立ち上がる事も無く、沈黙を続ける。
死ぬ覚悟をした自分が馬鹿みたいで、Phantom Princessに救われた形になるのが気に入らない。
気に食わない事だらけで鬱になりそうだ。
吐き気と目眩に襲われて、最高に気分が悪い。
このまま何もかも潰してやりたい、ドルトを殺しただけでは物足りない。
Gz9は無事だろうか、既にドルトを殺しているのだろうか。
目の前のドアが開くと、Gz9は首を横に振って、脇の下に肩を入れて、立ち上がる補助をしてもらう。
Phantom Princessの歌が終わると、勝手に画面から表示が消える。
「こんな所にも爆弾か。他にもMI6の主な面々の邸宅が爆破されたようだな」
「何時から女ってバレてたか教えてほしい。あとカチューシャ返せ」
カチューシャ取ると、決して鮮やかとは言えないGz9の赤黒い髪が、重力に従って下りる。
お世辞にも綺麗とは言えない髪色だが、染色では出せない綺麗な色だ。
何となく窓の外を見ると、ドルトが護衛に付き添われて、逃げているのが見えた。
戻って来たELIZAを確認して、カチューシャをしてから、窓を割って外に飛び出す。
「おい……気性が荒いな。追ってやるか」
地面に着地すると、太股の裏が痛んで、上手く着地が出来なかった。
奥歯を鳴らして痛みを噛み殺して、内ポケットからYAMATOを取り出す。
「接続しろ」
「特殊武装YAMATO確認」
右腕に黒い粒子が集まって、黒い筒が完成する。
サブマシンガンの弾丸の雨を、右腕の砲身を盾にして進む。
左手のスプリングフィールドで護衛を黙らせて、ドルトを追い詰める。
「貴様は……クロノスか!」
「M029だけど。手前の部下のコードネームくらい覚えてろよ」
照準をドルトに合わせて、指を引く。
強力な電磁を帯びてドルトに突き進む弾丸だったが、地中から出てきた何かに邪魔される。
「ははっ、死ねウラノスの子どもよ」
「それは神話の話だろ。俺の親は人間だよ」
煙が収まると、穴の空いた傀儡の腹が、ドルトを守った跡と教えてくれる。
傀儡は不気味に光らせた赤い目をこちらに向けて、持っていた斧を構える。
「撃っても無駄みたいですね。生命反応がありません、細かくしないと無理そうです」
「刃物なんて持って来てない」
考えている内に傀儡が走って、頭を狙って斧を振り下ろす。
斧を右腕の砲身で受け止めて、左手のスプリングフィールドで目を撃つ。
脳幹を削った筈だが、傀儡はまだ動き続けて、前蹴りを腹に受ける。
蹴られると同時に後ろに飛び退いて、衝撃を殺して傀儡と距離を離す。
近接戦闘の為、ディストーションが使えないのは、少しだけしんどい。
「行け屍人!」
「わざわざ調べなくても、お前から聞き出せば早いじゃないか」
頭に何かが上って行って、きゅっと締められる感覚がする。
久し振りに感じた怒りの感情に、心が燃えて体の中が熱い。
周りを見て状況を確認するより、Gz9の到着を待つより、ウラノスクイーンの命令よりも、唯殺すと言う思考が頭の中を占領する。
右腕の砲身が形を失って、生き物の様に動き始める。
ELIZAが発した警告を無視して、傀儡の斧を左腕で受け止める。
皮と肉が引き裂かれて、骨を割って斧が止まる。
「気安く触ってんじゃ……ねえよ!」
歪な形の砲身を振ると、黒い粒子を切り裂いて、大きな鎌が姿を現す。
傀儡を真っ二つにして、倒れてからも更に細かく切り刻む。
車を隣に止めたGzは、走って逃げていたドルトを取り押さえて、車に乗せていた。
「おい、もう良いだろ。原型とどめてないじゃないか」
「Gzか」
声を掛けられて我に返ると、道路に転がっていた傀儡は、唯の肉片にしか見えない程細かくなっていた。
鎌を捨てると自然消滅して、背後でドルト邸が崩壊する。
車の助手席に乗り込んで、制府になってから出来た、スラムに車を止める。
スラムの治安は当然良いものではなく、人が集まり始める。
Gzが窓をマジックミラーに切り替えて、縛られているドルトの方を向く。
「制府から贈られた兵器を出せ」
「そんなもの知らん。既にウラノスクイーンに送ったからな」
「……もう用はない。行くぞM029」
「急ごう。ウラノスクイーンの家は分かるか」
Gzから位置情報が送られて来て、ELIZAが詳細な位置を表示する。
ドルトを最寄りの焼却施設にぶち込んで、ウラノスクイーンの家に向かう。




