学者モーリス[3]
モーリスは今、大学の研究所にいた。相変わらず研究テーマは狼で、一人で実験や文献研究を行っていた。日が沈み始めた頃、彼は夕食をとるため一度研究の手を止めた。開いていた文献はしおりを挟んで閉じ、研究所内にあるテーブルに用意しておいた夕食を並べた。
彼の今日の夕食はパンとスープで、スープは研究所に併設してある食堂の台所でさっき温めた。彼は今日も一日中研究所内にいて外の様子を全く知らなかった。窓から見える景色で晴れているというのが彼のしる外の情報のほとんど全てであった。
食事の途中、研究所内の電話が鳴った。受付から来客が来たとのことだった。彼は中に通すよう告げて電話を切り、また食事に戻った。物音ひとつない中、彼は淡々とスープを飲み進めた。
五分ほどして、研究所のドアを誰かがノックした。彼が立ち上がって中から鍵を開けると、そこには受付の女性と一緒に二人の子供がいた。日も暮れかけた中、思わぬ来客にモーリスはすぐに中にいれようとはしなかった。
「この子たちは誰なんですか?」
モーリスは受付の女性に尋ねたが、少年が答えた。
「ロゼさんの友人です。お兄さんにききたいことがありまして」
「あーロゼの。今は忙しいから今度にしてくれるかな、時間ももう遅いし。わざわざ来てくれて済まないけど」
「どうしても話したいことが」
「悪いけど今日は無理だよ」
「お兄さん、長老の今日のお話ご存知ですか?」
その言葉で興味のなさそうだったモーリスの態度に異変が生じた。
「長老が何か教会で話したのか?次の選挙か何かについてかな?」
「ロゼさんの死と人に化けた狼についてですよ」
「人に化けた狼?」
モーリスは急に険しい顔をして少年をじっと見た。
「しょうがない、食事の間だけ話を聞こう。中に入って。」
その時やっと、モーリスは受付の女性にドアの前で彼らの話が終わるのを待つよう指示し、二人を中に通した。