学者モーリス[1]
行方不明になった金物屋の長女ロゼには、少年がライラに告げた通り兄がいた。長男は旅に出ていて今この村にいないが、次男はこの村の大学で研究をしている。大変優秀な学者で名前はモーリスといった。
彼は妹が帰らなくなった日も大学で研究をしていた。彼の研究のテーマとしているのは新種の動物や草花についてであって、その時研究していたのは「ムラサキカグヤ」についてだった。
モーリスは村に存在するほとんどの動物や草花の名とその生息地や生態を知っていて、図鑑も何冊か執筆していた。医者であるライラの父も彼から薬草の生息地を聞こともあり、村の皆から信頼を得ていた。彼はムラサキカグヤを見つけた後、真っ先に妹に教えた。そして花畑に連れて行って妹を喜ばせた。ロゼはその花を大変気に入り、彼女の部屋はムラサキカグヤをモチーフにした装飾や絵だらけだった。
彼は妹を何より大事にしていたのでいなくなった時、皆が諦めても最後まで探し続けていた。何より彼が気に留めていたのはロゼの最後の言葉で、彼女はムラサキカグヤを見に行くと言って出かけたのだった。
モーリスはその言葉を手掛かりに、自分の知っている花畑全て探し回った。しかし、どこにもロゼの姿はなかった。モーリスはその時ひどく落ち込んだ。自分がムラサキカグヤなんて見せなければこんなことにはならなかったのではないだろうかと。
彼は妹がいなくなってから、狼について熱心に調べるようになった。村の者はその理由を誰も知らなかったがロゼの死となんらかの関係があるようだった。しかし、それはいささかおかしなことでもあった。
なぜなら、この村に狼なんていないのだ。それは彼が一番よく知っているはずだったし、彼の図鑑にも狼の生息地は書かれていなかった。それでも彼は他の村や町から借りてきた文献を読み漁って狼について調べた。そのうち一つのことにたどり着いた。