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ほしにせかいを  作者: 狐鞠
プロローグ
3/8

僕のプロローグ

 10月16日

 今日は憎たらしいほどの青空だった。昨日も、一昨日も。

 今、(ようや)く夜が来てくれた。これで落ち着いて手紙を書くことができそうだ。

 たとえこの手紙を受け取る人がいたとしても、読む必要は無い。これは僕の単なる自己満足に過ぎないから。


 ——僕は、何かを間違えたのか。

   僕は、何を間違えたのか。

   僕は、いつから間違えているのか。


 よく、分からなくなる。

 自分のことが。僕は、いつ、こんな風になったのか。


 僕の住む街は、陽気な人が多い街。

 いつも誰かが歌を口ずさみ、誰かがどこかで踊り出す。植物さえもリズムを刻みそうだ。

 そんなこの街には、昔から伝わる〝スタラポルカ〟という舞曲がある。星の輝く夜に創り出されたものだとか、一度聴くと誰もが踊り出す不思議なリズムだとか言われているけれど、僕はその曲を聴いたことが無い。でも、一生聴かなくていいと思う。

 僕は他の人々に比べて内向的……なのだろう。こんな陽気な街で育ちながら、どうして。分からない。それに、あまり笑わない。笑えない。感情を表に出さないようにしている。そもそも表に出すような感情を抱けない。

 〝スタラポルカ〟を聴けば、こんな僕でさえ、本当に楽しい気持ちになってしまうのだろうか。


 僕はきっと、この街に居るべきではないんだ。


 いつもそう思う。早く大人になって、この街を出てやるんだと思っている。

 だから、大人になるまで耐えるんだ。我慢しよう。この街を出られるなら、何だってする。人には向き不向きというものが確実にあるのだと思う。僕には、光は似合わない筈だから。


 暗くて夢も無い希望も無い冷たい悲しい世界。

 僕は陽気な街に居るけれど、居ない。僕は僕の冷たい世界に、独りで居る。ここから出ようとも思わない。ここから出る力が僕にあるとも思えない。


 救いを求める気は無いけれど、それでも、こんな僕を連れ出してくれる〝誰か〟はいるのだろうかと、時々考えてしまう。


・ + ♪ + ・


 ことん。


 僕はペンを置いた。


 これで何度目になるだろう。

 随分前から、誕生日を迎える度に書いている気がする。全く同じ内容の手紙。誰に宛てるのかも分からずに。

 いつも郵便屋さんが来る前に、郵便差出箱(ポストノノス)へ入れておく。封筒には何も書かずに入れるから、多分、誰にも届かないまま処分されるのだろう。万が一誰かに届いたとしても、直ぐに捨てられてしまうかもしれない。


 もう、色々なことを諦めている。生まれてから今までの間に、どれほど諦めてきただろう。

 この手紙だってそうだ。誰かに読まれることを期待している癖に、諦めている。


 ——あ、星だ。


 夜は、落ち着く。自分の声も、醜い心も、闇に吸い込まれて消えてしまうようだ。

 何処かから流れてくるメロディーが、自然と僕の心に入ってくる。軽快なリズム。

 〝スタラポルカ〟を考えた人も、こんな星空を見ていたのだろうか。


 星は、僕が生きる世界で一番好きなものだ。いや、唯一好きなものだ。

 美しく光り輝く星は、僕と正反対だ。だから、一番憎くて、僕は好きだ。


 ——おやすみ。


 そんなことを言う相手もいないけれど。とりあえず、眠ろう。


 僕は何も考えないようにして、ただ眠りについた。

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