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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第三章 小深山章次編
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考察

 小深山兄の能力の目星は付いた。

 さて、ここからどう動くべきか……。

 

 携帯の時計を見ると、昼休みも残りわずかといった時間である。


 今から、こんな込み入った話を確かめる時間は無いだろう。

 無理に話をして、中途半端で終わりという事になるとまずい。

 残りの話をする時までに、小深山兄に情報が漏れて、対策を立てられてしまうかもしれないからである。

 次に話が出来る機会まで持ち越すべきだ。


 俺は何の気ないフリをして呟く。


「早いな。もうこんな時間だ」


 すると小深山も携帯を見て、口を開く


「そうだな。俺のアリバイも成立したし、話は終わりって事でいいよな?」

「待ってくれよ。まだ、もう少し話が聞きたいんだ」

「でも、もう昼休みは終わるだろ?」

「ああ。だから放課後も、この部室に来て欲しいんだよ」


 小深山は露骨に嫌な顔をする。


「今日は部活も出ないから、来れない事もないんだけど……面倒だ」

「頼む」


 しかし、小深山の表情は一ミリも動かない。


 俺がいくら頼んでも無理だろう――だから俺は、七原に目配せすることにした。

 小深山は女子生徒の頼みを基本的に断らない。

 それを利用すべきである。


 七原は俺の視線に気がつくと、はっとした様子で、小さく『うん』と頷いた。


「お願い、小深山君。私も、もう少し話が聞きたいの」

「戸山の気が済むまでか?」

「ううん。そんなに迷惑にならないようにするから。お願い」

「……仕方ないな。わかったよ。少しだけな」

「ありがとう」

「ああ、気にするな」


 小深山は爽やかな笑顔を七原に向けた。

 七原様様である。


「じゃあ、私達は部室の鍵を返しに行くから、小深山君は先に教室に帰ってて」

「わかった。じゃあ、また後でな」


 そう言って、小深山は部室を出て行った。


 その背中を見送ると、俺は七原の方に向き直る。


「七原、ありがとう。七原がいてくれて、本当に助かったよ」

「それはいいんだけどさ――これ以上、小深山君と話した所で、何も出てきそうに無いと思うんだけど……それでも呼ぶの?」

「いや、きっと重要な話が出てくるよ。小深山は、ほぼ間違いなく覆面だからな」

「まあ、私もそんな感じはしてるけど……確信が持てないというか……小深山君に嘘をついる様子もないし……」

「そうだな。恐らく嘘はついてない」

「でしょ?」

「小深山には嘘をつく必要なんて無いんだよ」

「どういう事?」

「小深山兄の能力は、おそらく記憶を書き換えるようなものだ。その能力で、小深山の覆面としての活動の記憶がごっそり消され、別の記憶に書き換えられていたんじゃないかと思うんだ」


 七原は驚きからか、目を白黒させる。


「ああ、そっか……言われてみれば、そうかもしれない……何でそんな事に気がつかなかったんだろう」


 七原は驚きを噛みしめるように段々と声を上げていった。


「それなら全部辻褄が合うよね! 両親やミサキさんも小深山君と同じ証言をした事も、青星さんも能力者だって予想も全部! 裏で青星さんが全部を主導してたって事だよね?」

「ああ、多分そういう事だ。俺もさっき気付いたばっかりなんだけどな」

「戸山君って、やっぱりすごいよ! よくそんな事を思い付いたね」

「たまたまだよ……それに喜ぶのはまだ早い。たとえ、この仮説が正解だったとしても、能力を排除できなきゃ意味が無いんだ」

「そっか……そうだね。まだ、この能力を作り出した心の問題を突き止めて、能力を捨てるように説得する方法を考えないといけないんだよね?」

「ああ。そうだ。まだ入り口の段階なんだよ」

「どうやって青星さんの事を調べるつもり?」

「小深山に聞くよ。その為に放課後も小深山を呼びたかったんだ」

「なるほど。小深山君なら青星さんが能力を得たきっかけを知ってるかもしれないよね」

「いや、それもそうだが、それだけじゃないよ」

「それだけじゃない?」

「今回は小深山のいだいている違和感ってのが鍵になってくると思う――つまり、小深山兄の記憶の書き換え能力はそこまで完全なものじゃないって事だと思うんだ」

「完全じゃない? どういう事?」

「人間の脳機能は複雑だ。脳の中に文章で記憶が格納されている訳じゃない。映像、音、匂い、感情――様々なものが入り交じっている。だから、記憶を書き換えるといっても、古いものを消して、全く新しいものを作るなんてことは出来ないんだと思う」

「じゃあ、どういう事をしてるの?」

「ある記憶を思い出す事を抑制して、別の記憶を思い浮かべるようにうながすとか、そういう事をしているんだと思う」

「無理矢理な感じね」

「そうだよ……あくまで俺の予想だけどな」

「そうなると大変そうだよね。覆面としての活動という、どう考えても強く残りそうな記憶を抑制しないといけないんだもんね」

「ああ。小深山が頻繁にミサキに呼び出されているからこそ、何とかその記憶に書き換える事が出来たんだと思う。そういうギリギリの事をやっている。だからこそ、小深山の中に違和感が残ってたんだ」

「じゃあ、その違和感を追求していけば、小深山君の記憶を取り戻させる事が出来るかもしれないって事?」

「ああ、そういう事だ。夜の第二グラウンド、司崎達、そして、あの極限の闘い。それらの事を詳しく説明していけば、小深山は記憶を取り戻すかもしれない」

「うん。出来るような気がしてきたよ。小深山君自身が覆面だと分かれば、一気に話が進めやすくなるね」

「それだけじゃない。俺が期待してるのは、小深山兄の記憶操作に一気にほころびが生まれてくる事だ。その綻びから、せきを切ったように様々な記憶があふれ出てきて、そこから有用な情報が得られるかもしれない」

「戸山君の、そういうり口には本当に感心させられるよ」

「いや、これは『そうなればいいな』というただの願望だ。やってみないと分からない」

「そっか。私も出来る限りの事はするよ」

「ああ、頼む。七原も少し考えておいてくれ、小深山や小深山兄が何故能力を持ち得たかと、小深山の記憶を取り戻す方法を。放課後こそ勝負を決めたい」

「そうだね。今度こそ解決しないとね」

「あとは逃げられないように、小深山を監視しておかないといけない。やっとの事で尻尾を掴んだんだ。逃がさないようにしないとな」

「そうだね」


 そして、俺達も教室に戻った。

 放課後までの時間は、七原と話した通り、頭を整理して計画を練る事と小深山の監視に時間を費やした。

 小深山には目立った行動もなく、そのまま放課後を迎えそうである。



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