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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第三章 小深山章次編
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委員長

 そして俺は、視界の端に消えた委員長の後を追った――実は指導室から出た時、逃げながら、こちらを振り返る委員長と目が合っていたのだ。

 委員長に気付いても呼び止めなかったのは、岩淵が不審がって廊下に出て来たら嫌だなと思ったからである。


 廊下を一つ折れると、そこで委員長は待っていた。


「あーあ。見付かっちゃったね。あと二秒早く逃げてればセーフだったのに」


 委員長は悪戯っ子の小二男子のように笑った。

 愛らしい顔立ちの委員長には、こういう表情が本当によく似合うなと思う。


「さっきの話、立ち聞きしてたのか?」

「うん」

「いつから?」

「戸山君が脅迫してるところから」

「結構がっつり聞いてたな……でも、廊下まで声が聞こえるものなのか?」


 指導室は廊下側に窓がなく、ドアもしっかりしている。

 プライバシーに関わる話題を取り扱う場所だけに、声が漏れないように配慮してあるのである。


「ドアに耳を付けて聞いてたから」

「いや、それ駄目だろ。思いっ切り教師が通る所だろ」


 教職員用の下駄箱から職員室への通り道である。

 ひっきりなしに教師が通るのだ。


「平気」

「平気じゃねえだろ」

「そこは上手くやったから……誤算だったのは、最後まで聞いてたが為に、逃げ遅れた事ね。でも、お陰で心が沸き立つ素晴らしい場面に立ち会えたのだから良しとしよう」

「は?」

「好感度大幅アップで、岩淵先生のフラグが立ったね」


 委員長が笑顔で親指を立てる。


「立ってねえよ。立てさせるかよ」

「アリだと思うんだけど」

「ありなもんか」

「そうかな……岩淵先生もちょっと見方を変えるとダンディーとも言えなくもないし。アリなんじゃないかな……あ、そうか。歳が離れていることを気にしてるのね……分かってる。何も言わないで。分かってるよ――岩淵先生は年上でしっかりとした社会的地位もある。一方で戸山君はただの学生。自立さえ出来ていない。だから、引け目を感じるって事なんでしょ? でも、そんなことは些細な事よ。二人の頑張りで何とかなる問題……だから、思い切って相手の胸に飛び込む覚悟が必要よ。それこそが若さの特権だし。彼も、そういう戸山君に愛しさが増していくんじゃないかな。だから逃げちゃ駄目、逃げたら何も始まらないから……」


 これは、また延々と話が続くパターンだとゲンナリする。

 だからといって、こんなに楽しそうにする委員長の話を止めてまで、話す事も無……いや、一つあるな。


「委員長、ちょっと待ってくれ」

「何?」

「それより、ここに何で委員長がいるんだ?」

「職員室に用事があったから」

「それが、どうやったら指導室のドアに耳を当てて、盗み聞きする事に繋がるんだよ。明らかにおかしいだろ。まさか偶然とは言わないよな?」


 俺がそう言うと、委員長は真顔になった。


「……そうね。実は偶然じゃないの」

「じゃあ何故――」

「私はね、フラグが立った事を知らせるステータス表示みたいなものなの。だから、ここに居るべくして居たというか」

「何言ってんだよ」

「運命に導かれてね……いや、オス達の匂いを嗅ぎ付けて」

「そういう気持ち悪い表現は止めろ。頼むからマトモに答えてくれよ」

「わかったよ。本当はね、職員室の岩淵先生の所に来たの。そうしたら、岩淵先生が指導室に行ったって聞いて」

「何で岩淵の所に?」

「私ね、生徒会の手伝いをしようかなと思ってるの。文化祭もあるから忙しくなってくるし。だから、そういう事を話しに来たの」

「何で急に生徒会なんかに?」

「いや、今までも誘われてたのよ。だけど、家庭の問題があってバタバタしてたし、離婚したら引っ越しする事になるかもしれないって思ってたしね。そういう事に目処めどが付いたから、やってみようかなって」

「ああ。なるほどな」

「これも全部、戸山君のお陰だよ」

「そうか。良かったな。生徒会か……ってことは、生徒会長選挙の立候補をにらんでるとか?」

「その質問は、いくら戸山君でも、答えられないな」


 委員長は含み笑いを浮かべる。

 思いっ切り企んでるようだ。

 電撃参戦しようとしているようだ。


「生徒会となると、委員長は辞めるのか?」

「どうしようかなと思ってる。クジだったにせよ、責任は責任だからね。まあ、会長になれたら、辞める以外にないと思うけどね……そうなったら、委員長の責務は戸山君に託すから」

「二秒でクーデターが起きるぞ」

「そうね。確かにそうかも。特に藤堂さんね……まあ、私が言いたいのは戸山君、本当にありがとうって事だよ」

「ああ、わかったよ。もう、今後はそういう事は言わなくていいぞ」

「うん。戸山君ってお礼を言われると本当に居心地悪そうな顔してるもんね」

「わかってたのかよ」

「まあね……じゃあ、実は割と急いでるから、後で教室でね」

「ああ」


 そして、指導室へ行く委員長と別れた。


 俺は教室のある階へと向かう階段を登る。

 その途中で、ふと携帯を確認すると、七原からメッセージが来ていた。


 『小深山君は足を痛めて、早朝練習は休みだったらしいよ』


 そうか……。 

 まだ、ホームルームまでには時間がある。

 岩淵に聞いたことについて等、七原と話をしておく時間はあるだろう。


 俺は七原にメッセージを返信することにした。

 『少し話がしたい。鍵はいらないから部室の前まで来てくれ』と。



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