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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第三章 小深山章次編
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登校

 次の日の朝。

 まだ眠くて重い体を引きずりながら家を出た。

 気合いを入れて、一歩一歩と踏み出す。

 早く学校に行かなければ……そう思い、エレベーターをパスして階段を降りる。

 すると、マンションの玄関口に七原が佇んでいた。


「七原、おはよう」


 そう言って、七原の前を足早に通り過ぎる。


「おはよう――え? ちょっと待って。何で通り過ぎるの?」


 七原は俺について来た。


「急いでるんだよ」

「でも、まだ早いよ。十分間に合う時間だから」

「色々やることがあるんだよ。早めに動いた方がいい――実は、もっと早く出るつもりだったんだけど、眠すぎて、ついグズグズしてしまったんだ」

「それなら仕方がないけど……」

「それより七原は何でここにいるんだ?」

「一緒に行こうと思って」

「そんな約束はしなかっただろ?」

「これからどうするかも話さないといけないし、こうやって一緒に登校するのもいいかなって思って」

「……そうか」

「ねえ、戸山君……」

「何だ?」

「男の子と一緒に登校するのって、もっと甘酸っぱいものだと思ってた。こんなに辛いものだとは思わなかった」

「そうだな。俺も心臓が張り裂けそうだよ……ちょっと歩くペースを落とすか」

「だね。競歩してるわけじゃないんだから……何事かと振り返ってる人もいたし」


 俺は足を出すペースを落とした分、歩幅を広げた。


「いや、そういう事じゃないでしょ。少しだけゆっくり行こう。学校まで体力が持たないから」

「そうだな」


 改めて、少し早足で歩き始めた。

 そして俺は七原に問い掛ける。


「それで、あれから何か考えたか? 昨日の件について」

「そうね。色々考えたけど……」

「けど?」

「何も思い浮かばなかった。遠田さんの部屋が本当にすごかったから。物凄く沢山のキ……」

「それ以上、言うのはやめておけ」

「別に言っちゃ駄目な事を言おうとしたわけじゃないよ。足の踏み場もないほどのキ……」

「だから、やめろ。知ってるから。遠田が猫のぬいぐるみが好きだって事は夏木に聞いてたから」

「やっぱり知ってて言ったんだね。そうじゃないかと思ってたの」


 自分でも趣味が悪いとは思ったが、カチンときてたので仕方ないのだ。


「まあ、それも驚いたんだけど。一番驚いたのは、夏木君ってめっちゃ美人なんだね。本にしたいと思った委員長の気持ちも分かるかもしれない」

「夏木に会ったのか?」

「ううん。もう寝てたらしいんだけど……遠田さんの机の上にあった家族写真で見たの」

「なるほどな」

「まあ、そんなこんなで、何も思いつかなかったの。ごめんね……戸山君の方は?」

「ああ。一人だったから色々と考えれたよ。そして一つ思いついたことがあるんだ」

「聞かせて」

「やはり小深山が能力者だとするには、小深山には能力者になる理由がなさ過ぎるんだ――となると、覆面は別の誰かという事になる」

「そうだね……それは誰なの?」

「小深山兄なんじゃないかと思うんだ」

「え? でも、お兄さんは今、この街にはいないって聞いたでしょ?」

「一時的に帰って来てるのかもしれない。クズミに会う為に」

「なるほど……確かに遠くにいるって事で思考停止してたかもね……それで、お兄さんが覆面だとする根拠は?」

「根拠はない」

「ないの?」

「ああ。これから話すのはただの推測であり、ただの想像だ」

「うん」

「小深山兄、司崎、そしてクズミ。この三人に、どこかで接点があったとするならば、それは学校だったんじゃないかなと思うんだよ」

「何で?」

「遠田が言ってただろ。司崎は教師だったという噂があるって。実際に司崎が第二グラウンドが人目に付きにくいことも、部室棟の屋外照明の位置も知っていた事から考えると、まったくのデタラメとも思えない」

「確かにそうだね」

「司崎が元教師。そして小深山兄も卒業生だ。同じ時を学校で過ごしていた可能性がある……つまり、早瀬と七原と委員長のように、司崎と小深山兄とクズミも、惹かれあって集まった能力者達なのかもしれないって事だよ」


 七原は目を見開く。


「なるほど」

「まあ、想像だけなんだけどな」

「すごいね。そこまで考えられるなんて……でも」

「何か引っ掛かることがあるのか?」

「でも、クズミって人の事が年齢も性別も何も分かってないのに、その推測はどうなのかなと思って」

「昨日、グラウンドで司崎と一緒に二十歳前後くらいの男がいただろ。多分、あれはクズミのダミーとして連れて来られてたんだ。クズミを連れてきたと見せかける為に」

「ああ。確かに!」

「想像でしかないけど道理が通ってるだろ? だからいっそのこと、職員室に行って教師に聞こうと思ってるんだよ。司崎とクズミという人を知りませんか、と」

「いいかもしれないね……でも、そんな事を教えてくれるのかな?」

「名前を出して反応を窺えばいいだけだ。知ってる名前なら反応するだろう」

「そうだね……じゃあ田畠先生に聞かない?。田畠先生なら、個人情報を聞き出そうとしても大きな問題にはしないと思う」


 七原は文芸部顧問の名前を出した。


「わかった。じゃあ田畠に聞くことにするよ。ということで、七原は教室で小深山の様子を窺っててくれ」

「え?」


 七原は不思議そうな顔をする。


「私は行かないの?」

「いや、今回は俺一人で行くよ。七原は教室で小深山の様子を窺うという大事な仕事があるからな。分担だ」

「駄目」

「駄目はないだろ。俺には一人で行動する権利もないのか」


 七原を巻き込む訳にはいかない。

 退職した教師のことを聞きに行くなんて、やぶ蛇もいいところだ。

 他人に嫌われるのは俺の仕事だ。七原のではない。


「複数人で行くと、自然な反応を引き出しにくいだろ?」

「そうだけど」

「世間話みたいな軽い感じで聞きたいんだ」

「でも……」

「大丈夫だよ。そこら辺は上手くやれるから」

「ねえ、戸山君……無茶な事しようとしてない?」

「してない。自己犠牲は控えるって言っただろ?」

「うーん……そうだよね。わかった。でも、呉々くれぐれも無茶なことはしないでね」

「わかってるよ」


 そう言って、俺は七原と別れ、職員室の方へ向かった。


 もちろん、少しの無茶はするつもりである。


 田畠に聞いたところで、満足いく回答は得られないだろう。

 個人情報とか云々で岩淵に睨まれるのを恐れて、あんまり詳しくは喋れないはずだ。


 だから俺は思い切って岩淵に話を聞こうと思っているのである。


 岩淵になら、聞き出せるという確信があった。

 なぜなら、俺は岩淵の弱みを握っているからである。

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