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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第三章 小深山章次編
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情報提供者

「あの覆面って、結局どこの誰なんだろうな……」


 暗く静まり返った帰り道、遠田が呟いた。


「あ、そうだったな。そう言えば、遠田には話してなかったな――俺達は小深山が覆面じゃないかと疑ってるんだよ」

「小深山って、戸山のクラスの小深山か?」

「そうだよ。色々と疑わしいと思うことがあってな……だから、ここに来る前も、小深山の家の前で張り込んでたんだよ。そうしたら、九時半くらいに家から出てきて、繁華街の方に向かったんだ。俺達も一応尾行してみたんだけど、あっさり見失ってしまった。だから、遠田に電話したって感じだ」

「そうだったのか。なるほど、小深山か――小深山なら体格的にも覆面と同じくらいだな」

「ああ、覆面の身体能力の高さから言っても、小深山が怪しい」

「でも、決定的な証拠は出てないって感じだよね」


 七原が少し悔しそうに言う。


「そうだな……でも、やっとボロが出てきたってところだ。これからだよ」

「でも、小深山君が覆面だとするなら、何でこんな力を持ち得たのかな?」

「そうなんだよな。俺が引っ掛かってるのも、そこだ」

「パイロキネシスの時は破壊衝動って言ったよね。この能力には小深山君のどんな意思が反映されているのかな……」

「うーん。強いて言うなら……性衝動かな」

「は?」

「逢野も言ってただろ、小深山は下半身モンスターだと。小深山は手が早い――つまり、誰よりも速く女を落とす為に、能力を開花させたんだ」

「ふざけないで」

「割と真剣に言ってるよ」

「だとしたら、そのふざけた思考回路をどうにかして」

「七原はそういうけど、そういう欲望って心の歪みを作り出しやすいんだぞ」

「却下。小深山君は、そんな力なくてもモテてるから」

「確かに。それを言われたらおしまいだな」

「他の可能性は?」

「破壊衝動と対比して考えるなら、防衛本能かなと思う。例えば、日常的な暴力を受ける状態にあって、自分の身を守るために能力者になった……とかかな」

「それが破壊衝動にならなかった理由は? 相手を倒した方が、話が早いと思うんだけど」

「その相手に、心まで支配されていたってのはどうだ? 洗脳されて反抗する気持ちも芽生えないような状態に置かれていたとすれば、自分を守る為に、そういう能力を望むかもしれない」

「なるほど。さっきよりは説得力があるね」

「でも、小深山は何の問題も抱えてないって、逢野が言ってたからな」

「当人の悩みなんて他人から見ても分からないものでしょ?」

「そうだけど、それでも注意深く見てたら、ある程度は分かるものだろ? 逢野は結構しっかり見ていたようだし」

「そうだね」

「逢野が言ってただろ、小深山の作り出す影はモテる為の策略に過ぎないと。俺も全く同意見だ。あいつはぺらっぺらだよ」

「それは戸山君の主観が反映されすぎでしょ」

「それに小深山が日常的な暴力を受けていたとするなら、体に跡が残ってるはずだろ。それなら、歴代の彼女達が気付いているはずだ」

「部活の仲間も気付くだろうしね」

「結局のところ、小深山は疑わしいって状態のままなんだよな。本来なら、こんなに疑わしいことが出てくれば、間違いなく能力者なんだけど……今回の場合は、実は能力者じゃありませんでしたって結末も有り得るのかなと思ってしまう」

「そうだね。何なんだろう」


 俺達はしばらく考え込んだが、答えは出なかった。



「明日に疲れを残してもいけないし。そろそろ解散にするか?」


 と遠田が言う。


「ちょっと待ってくれ」

「何だ?」


 遠田には、もう一つ頼まないといけない事があるのである。

 小深山のこと以外で、この事件解決の糸口があるとすれば……。


「なあ、遠田。情報提供者に連絡を取ってくれないか」

「いいけど……何を聞けばいいんだ?」

「あの場にいたのなら、覆面が探していた人物の情報が入ってきてるかもしれないなと思って」

「ああ。なるほど。じゃあ、SNSでメッセージを送ってみるよ」


 そして、遠田が携帯を操作し、メッセージを送った。

 するとすぐに遠田の携帯が鳴り出す。


「もしもし……今、大丈夫なのか?」


「ああ。そうか」


「怪我は大丈夫か」


「ああ、そうか。良かった」


「で、覆面が何て奴を探してたのかの情報は入ったか?」


「そいつのことは知ってるか?」


「そうか……わかった。ありがとう」


 遠田は一つ息をつくと、電話を切った。


「普通に電話できる状況だったのか?」

「ああ、司崎は特に親しい連中が知り合いの病院に車で運んだらしい。情報提供者を含めた下っ端達は、その場で解散って感じになったそうだ」

「で、探してたのは、何て奴だ?」

「クズミという名前だそうだ。残念だが、情報提供者には名前だけしか分からなかったらしい」


 知っている名前だったら……と思ったが、またしても聞いたことがない名前である。


「クズミか……知らないな。七原は?」

「私も知らない。委員長なら知ってるかな?」

「そうだな。後で聞いてみよう……でも、望みは薄いかもしれないな。俺達が聞いたことがあるような名前なら、覆面がここまでして探すことはないだろうし」

「そうだね」

「やっぱり、そのクズミって奴も能力者なんだろうか……覆面。そして司崎。さらにはクズミって奴」

「……なんか複雑な話になってきたね」

「遠田の言う通り、今日の所は諦めて、また明日って事にしよう」

「そうだね」

「そう言えば、七原って、こんなに遅くなって大丈夫なのか?」

「ううん。どうせ日付が変わるくらいの時間になると思ってたから、ちょっと嘘ついて友達の家に泊まるって言ってきた」

「嘘?」

「友達の両親が出張で、一人だと心細いから『泊まりに来て』って言われたって……」

「そんなベタベタな」

「仕方ないでしょ。こんな事、今まで無かったから、他に思いつかなかったの」

「まあ、それなら、遠田。七原を泊めてやってくれないか。まさか、ウチに泊めるって訳にもいかないだろ」

「ああ、わかった。七原さんなら大歓迎だよ」


 遠田は快く応じてくれた。

 男前の遠田に七原が惚れてしまうのではないかとは思うが、それはそれで妄想も捗るのである。


「じゃあ、ウチはこっちだから。戸山、気をつけて帰れよ」

「いや、ついでに家まで送っていくよ」

「必要ない。戸山も疲れてるだろ。早く帰って寝ろ。明日の為に」

「だけど……」

「心配ない。私は名うてのヤンキーだ。戸山なんかより全然強い。逆に戸山がいたら、二人を守らなければなくなる。邪魔だから帰れ」

「そうは言うけどさ……」

「心配なら、ウチに到着したら、七原さんにSNSで『着いた』ってメッセージを送るようにさせるよ。それでいいって事にしてくれないか?」

「遠田の家はそれほど遠くないだろ。だから送ると言っているのに、そんなことを言ったら、俺の方がごねてるみたいだろ」

「ごねてるだろ。これがごねてないとでも?」


 にやついた顔で遠田が言う。

 それに俺は少しいらっとした。


「わかったよ。ここで解散にしよう。じゃあ七原、頑張れよ」

「うん? 何を頑張るの?」

「遠田の部屋はカーテンもピンク、シーツもピンク、絨毯もピンクで居心地悪いだろうけど、指摘しちゃ駄目だぞ。黙って耐えるんだ」

「は? 何で戸山が、それを知っている?」


 遠田は困惑顔である。


「部屋中、猫のぬいぐるみで埋め尽くされてるから、寝づらいだろうな……」

「何で、それを知っているんだ!?」

「ヤンキーあるあるだよ」

「ヤンキーあるある!?」

「女ヤンキーってのは、可愛い物を過剰に好む傾向が強いって話だよ。一般的なヤンキーは……って話だ。別に遠田がそうだとは限らないけど、言ってみたんだ」

「そっ、そうか。そうなのか……ただの言い掛かりなのか」 


 そう言いながら、遠田は体中を真っ赤にしている。

 その様は、さっきの覆面を彷彿ほうふつとさせた。


 実を言うと、遠田の部屋の趣味は夏木に聞いた話である。夏木としては姉の可愛らしさをアピールしようとしたつもりだったのだろう。

 遠田も、まさか身内に情報提供者がいるとは思ってないようだ。


「大丈夫、遠田さん。私、そういうの大丈夫だから」

「違う! 私の部屋がそんな可愛いグッズであふれてる訳がないだろ!」

「わかった。わかったから。もう行こう」

「わかってる。帰るよ。今、戸山をぶちのめしたい衝動に駆られたが、ただの言い掛かりだからな。そこまで怒る理由がないんだ!」

「じゃあ、また明日ね……戸山君、口は災いの元だよ」


 小声でそう言った七原が、遠田を引っ張っていった。

 遠田は納得いかない顔で帰って行く。


 そしてそれを見送ると俺も家路についた。


 今日あった事を頭の中で反芻はんすうしながら、夜道を歩く。


 明日はきっと途轍とてつもなく大変な一日になるだろう――そう思うと、溜め息しか出ないのだった。


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