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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第三章 小深山章次編
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放課後

 放課後、七原から『先に部室に行って待ってて』というメッセージが来ていたので、一人で部室に向かった。

 しばらく、ぼーっと考え事をしながら待っていると、七原がやって来た。


「ごめんね。遅くなって」

「何してたんだ?」

「別に何をしてたって訳でもないけど」

「じゃあ、何で先に行けって言ったんだよ?」

「委員長に、放課後は戸山君と別行動をしろって言われたの」

「何で?」

「私にも分からない。委員長には考えがあるらしいけど……まあ、部室に入ってから考えよう」


 そう言って七原は鍵を開けて部室に入る。

 俺はそれに続き、いつも通りの席に腰を下ろした。


「休憩中も何かしてただろ?」


 休憩時間、七原は委員長と短い会話をした後、教室から消えた。

 帰ってきたのは授業ギリギリで、すこし息が上がっていた。


「ああ、それね……まだ、その事を言う訳にはいかないよ」


 七原は悪巧みをする子供のような笑みを浮かべている。


「頼む、七原。委員長には言わないから、教えてくれよ」

「駄目だよ。これは後のお楽しみだから」

「何だよ、それ。楽しむなよ」

「まあ、そうなんだけどね……でも実際、この作戦は奇策だけど、名案だと思うよ。っていうか、これ以上に戸山君の要求を満たす方法はないと思う。それは私が保証するよ」


 七原がそう言うのなら仕方ない……仕方ないと諦めもつくのだが、この作戦を考えたのが委員長だと言う事に、そこはかとなく嫌な予感がするのである。


「ところで、戸山君。小深山君に詳しい人が来たら、どういう事を聞くつもり?」

「まあ、家族の事とか、部活や学校での人間関係とか、過去に小深山が悩んでそうな事について聞くよ」

「他には?」

「あと、小深山の周辺で何か不思議な事はなかったか、とか」

「他には?」

「それくらいしかないな。能力者かどうかは、そういう情報から判断するしかないんだよ」

「なるほどね」

「それから、これはその場の雰囲気的を見ながらって所なんだが、小深山に『堅気じゃない連中』との繋がりがあるかどうかも聞いておきたい。小深山君が『覆面』だとすれば、その連中と何らかの関係があるはずだ」

「そうね。じゃないと、襲撃なんてしないよね」

「まあ、これは委員長が連れてきた奴が知ってそうなら聞く、って感じにしようと思ってる」

「そうだね。その質問は慎重にした方がいいね。小深山君にあらぬ疑いを掛けてしまうような事になるから」


 そんな話をしていると、どんっどんっと遠くから音が聞こえて来る。


 どんっどんっどんっどんっ。


 ……どうやら、それは近付いてきているようだ。


 これは足音だろうか


 ……となると、あいつしかいないだろう。俺の頭の中にはある人物が思い浮かんでいた。


 鉄下駄でも履いてるような足音でやって来て、追突事故でも起きたような物音をさせた後、勝訴としたためられた紙でも持ってるかのような勢いでドアを開く。

 それが誰なのかは言うまでもない。


「ナナ、持ってきたぞ! おう、戸山もいたのか!」


 歩く騒音こと守川一也である。

 その横には教室で掃除用具を入れているようなロッカーがある。

 守川はこれを持ってきたようだ。

 これを粗雑に置いたから、さっきの追突事故のような音がしたのだろう。


 何でロッカーなんだろう?

 これって一人で持ち運べるような物なのか?

 ってか、こいつが委員長の言ってた小深山に詳しい奴なのか?

 守川が小深山に詳しいなんて聞いた事もないし……どういう事なんだろう?


 頭の中が色々な疑問で渋滞している内に、守川はロッカーを軽々と横に倒し、ちょっとした小包でも持っているかのように部室に入ってきた。


 すげーな。おい。


「守川君、ありがとう。ありがとうなんだけど。もう少し静かにお願い」

「りょーかい」


 そして、守川はロッカーを掃除用具入れの定位置まで運び、ストンと置いた。

 今度は、まだ少し浮いているんじゃないかと思うほど無音だった。

 加減を知らない男である。


「ここで良かったか?」

「うん。ありがとう」

「じゃあ、オレの仕事は終わりでいいな。帰るぞ」

「ん? もう行くのか?」

「ああ、委員長に早く帰って来いって言われてるんだ」

「守川君、ありがとう。また明日」


 そして守川は、あっという間に部室を出ていった。


 ……一体、何なんだ?


「何で、ロッカーなんか?」

「必要だから、顧問の田畠先生に頼んでたの」

「答えになってないぞ」

「そうだね」


 そう言って七原はおもむろにロッカーの扉を開く。

 空っぽである。

 まあ中身が入っていたら、ごつごつと音を立てていただろう。


「じゃあ、戸山君入って」


 七原は信じられないような事を笑顔で言った。


「は?」

「入って」

「何でだよ」

「ここに至っても、わからない?」

「わからねえよ。何でロッカーに入るんだよ?」

「はあ……」


 七原は溜息をついてみせる。


「戸山君ってさ、自分が嫌われ者だって十分に理解できてないよね」

「してるつもりだけど」

「じゃあ、戸山君がいたら、委員長が連れて来る人が素直に喋ってくれると思う?」

「……ああ、そういう事か……お前らの企みはこれだったんだな」

「委員長は戸山君がいたら進む話も進まないからって、こういう作戦を考えたの。合理的でしょ?」

「……だな」

「じゃあ、どうすればいいか分かるよね?」

「……分かったよ。仕方ない……上手くやれよ」

「大丈夫。やるよ。完璧にやり遂げてみせるから。このロッカーを融通して貰う為に、田畠先生に迷惑かけた分も頑張らないといけないし」


 なるほど。だから七原は休憩時間に教室から消えていたのだ。

 努力の方向性を間違ってるだろと言おうと思ったが……よく考えてみれば、悪くない策だ。

 委員長が言うように、俺がいたら話がスムーズにはいかない。俺はこの場にいない方がいいだろう。

 だがそれでは、この場の細かい空気を感じ取れない。思うような結果が出なければ、委員長の連れてきた奴が嘘をついたかもしれないと疑念が湧き、納得出来ないままだろう。このロッカーの中にいれば、会話の全貌を知る事が出来るのだ。


 ……それに、こっちは委員長に黙ってケツバットをしたんだ、こんな復讐をされても当然だ。


 断る理由がない。受け入れよう。

 俺は素直にロッカーに入った。


「辛くなったら出てきていいからね。そうなったら、ちゃんと相手に事情を説明するよ。梯子はしごを外すような事はしないから」


 七原は心配げに言った。

 俺をロッカーに入れた時点で、七原の悪巧みのテンションは最高潮を終え、今度は不安になってきたのだろう。


「大丈夫だよ。暗くてジメッとした場所は割と好きなんだ」

「そう。それならいいけど……」

「大丈夫。気にするな」


 それにしても奇策だ。

 ロッカーの中から、七原とこんな会話をするとは思いもしない事だった。


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