教室
部室を出て、教室に戻った俺は小深山の席へと真っ直ぐ歩いて行く。
まさか、俺が小深山に話しかけると誰も思わなかったのだろう。クラスメート達は小深山の前に立った俺を不思議そうな顔で見ていた。
小深山も周囲と同じような表情をしていて、それ以外の感情は読み取れない。
「小深山、ちょっといいか?」
冷静に見えるように出来るだけ低い声で言った。
そして答えが返ってくる前に、用意していた『質問』をする。
「昨日の夜、10時過ぎ、早足で歩いてる小深山を見かけたんだけど、どこに行ってたんだ?」
その質問は、朝に小深山が言っていた事と矛盾する。
小深山の嘘を指摘したのだ。
それに驚き、周囲のクラスメート達は俺と小深山の顔を見比べる。
クラスメート達は固唾を呑んで、小深山の言葉を待った。
俺が小深山に話しかけた違和感より、好奇心が勝ったという感じだろう。
「ああ、そうなのか……見られたのか」
小深山はいつもと変わらない調子で答える。
「……実は彼女がさ、泣きながら電話してきて、呼び出されたんだよ。駅の南の公園に」
その公園は繁華街の近くである。
……そうか……そう来たか。
そんなはずは無いと否定してくると思ったが、見事に誤魔化されてしまった。
これは朝の話の流れと矛盾しない見事な嘘である。
これでは、本当に彼女と揉めただけかもしれないという線が消えない……いや、本当にそれだけなのかもしれない。
限りなく黒に近いが、白の可能性もないわけじゃない……といったところか。
そんな事を考えていると、塚元が「おい、何だよ。詳しく聞かせろよ」と、興味津々で話に加わってくる。
「いや、こんな事、詳しく話すもんじゃねえだろ」
「やっぱり別れ話だったんだな」
「違う違う。確かに、ちょっと色々あったけどな……」
その言葉にクラスの女子生徒達がソワソワし始める。
男子生徒達も気になっている様子だ。
塚元や篠原が詳細を聞き出そうと、矢継ぎ早に質問を投げかける。
俺は一気に蚊帳の外に押し出されてしまった形だ。
もう誰も、最初に話しかけたのが俺だと覚えてないようだ。
これ以上話を聞く事に意味はないだろう。
この場を離れようと歩き出した。
すると、ただ一人藤堂がこちらを見てニヤリとした。
藤堂は、俺が小深山を貶めようとしたと思ったのだろう。そして俺の無様さを笑ったのだ。
しかし、俺は満足している。
小深山の言った事が嘘か真実かは分からないが、小深山は記憶喪失ではないと分かった。
それだけで良しとするべきだ。
俺は七原に目配せをする。
『廊下に出てくれ』と。
新たに相談が必要になったのである。




