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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第三章 小深山章次編
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本題

「で、本題って何なんだよ? どうでもいい話なら帰って貰うぞ」

「能力者の話だから」

「……そうか。それなら聞くしかないけどさ……手短にしてくれよ。疲れてるんだから」

「そうね。わかってる」


 そう言いながら、優奈はマイペースに喋り始める。


「それにしても今週は本当に大変だったね。こんなに近くから次々と能力者が現れて」

「確かにな。今週は本当に面倒な事ばっかりだった」

「そこで、わたし達も能力者について改めて考えたの」


 優奈が言う事に、麻里奈がうんうんと頷いている。


「何を考えたんだ?」

「ある程度、能力者の出現を予測できないかなって」

「は? そんな事が出来るとは思えないんだけど……」

「そうね。わたし達がひらめいた事も、実際に役に立つかと聞かれれば、どうかは分からない。でも一応、参考程度にはなるんじゃないかと思って伝えに来たの」

「なるほどな。それでも、ありがたいよ」


 現在は先程のSNSのように、手当たり次第で情報を集め、能力者探しをしている。

 能力者出現の傾向が分かれば、限られた時間の中で、もう少し効率的に探せるだろう。


 俺は少しだけ期待を込めて、「聞かせてくれ」と言った。


「うん。能力ってのは怒りや悲しみや不安といった負の感情と結びつくものよね」

「ああ、そうだな。そういった負の感情が強くなっていき、人は絶望する。その絶望が能力発現のきっかけになる」

「だけど、同じように絶望をしたからといって、全ての人に能力が芽生えるとは限らない」

「そうだな。絶望しただけで能力者になるのなら、世の中は能力者であふれているだろう」

「そう。そこでわたし達は考えたの。逆に、能力が発現するほどの絶望をしていない為に、能力者になる可能性を持っているのに能力者になってない人達もいるんじゃないかってね。つまり、『能力者予備軍』みたいな人達がいて、その人が絶望する事によって能力者が生まれていってるんじゃないかな」

「なるほど」

「そして、そういう人達は元々『能力者予備軍』として生まれてきてるんじゃないかと思うのよ」

「つまり、その可能性……その潜在力は親から子へ受け継がれるものって事か?」

「そう。きっと遺伝子的な何かで受け継がれてるのよ」

「なるほど。そういう説もあるな…………でも、俺は微妙に納得いかないよ。能力者になる可能性が親から子へと受け継がれるものだとするのなら、一つ家族があれば、その中から何人か能力者が出るかもしれないって事だろ?」

「能力者になる可能性を持った人は一握りで、その中で実際に能力を持つ人物も一握り。それが分かり難くしてるんだと思う」

「まあ、確かに有り得ない事じゃないとは思うけどな」

「でしょ?」

「わかった。一人能力者がいれば、その家族もしっかり調べる事にするよ」

「うん。そうした方がいいと思う。能力者の兄弟姉妹は今は能力者じゃ無くても、継続的に疑ってみた方がいい」

「そうだな。その説を信じるなら、これから能力者になる可能性もあるって事か」

「そうね。でも、親世代となると能力者である可能性は低いし、これから能力が発現するは考えにくい。親世代は厳しい現実との折り合いの付け方も、諦め方もある程度は学んでいるでしょ? その上で、きちんと社会生活をして、子供まで育てている」

「だとすると、蓮子さんは対象外になるということだな」


 蓮子さんとは双子の母親である上月蓮子のことである。


「そうね」

「兄弟姉妹か……俺の周りで言うと、七原は一人っ子で、委員長も一人っ子だ。だから、その家族は大丈夫そうだな。早瀬の事は調べておこう。あと、遠田が怪しいのか……いや、大丈夫だな。遠田は何があっても能力なんてものに手を出さない気がする」

「そうね。遠田さんは精神的には安定してると思う。でも、まあ……あくまでそれは他人からの意見だから。遠田さんの心の中がどうなってるんかなんて分からないよ」

「そうだな。それも含めて、もう一度、今まで会った能力者の身内に関しても調べてみる事にするか」

「そうして……それと、もう一つ仮説がある」

「何だ?」

「能力者は能力者に惹かれるんじゃないかと思う」

「惹かれる?」

「そう。あんたは不思議だと思わなかった? あんたのクラスからゴロゴロ能力者が出てる事が」

「そうだな。確かに」

「あんたのクラスには三人も能力者がいた。これは余りにも多すぎると思う。その理由を考えてみた……そこで、能力者同士には惹かれ合う性質があるんじゃないかという仮説に行き着いた」

「でも、だとしたら、能力者が能力者を判別することが出来るという事になってしまう。そんな事が双子には出来るのか?」

「それが出来たら、もっと早く実桜さんが能力者だと言ってた」

「じゃあ。何で、こんな仮説を立てたんだ?」

「意識的には探せない。だけど、心のどこがで、それが分かって、惹かれ合ってているんじゃないかなと思う」

「『本能的』って話か」

「そうね。無意識に補正を掛けているというか。たとえば、80点の人が二人いるとする。一人は普通の人で、一人は能力者。あんたが見れば、同じ点数の人が二人いると見える。だけど、わたしには普通の人が80点で、能力者が81点に見えるの。フィルターが掛かっているというか……補正されているというか。それで、わたしは81点の人を選んでしまう」

「それだったら、俺と優奈で、一人一人の点数を比較していけば能力者の判別がつくって事か?」

「それは無理ね。便宜的に数字にしたけど、人間の評価なんて数字では表せないから、能力者の補正が掛かってる事に、わたしもあんたも気付く事は出来ない」

「なるほどな。でも、そんな小さな違いが俺の周りに三人も能力者がいた偶然に対する説明とするなら不十分に思える」

「そうね。でも今回は特例的に、この小さな違いが大きな影響を及ぼす要因に成り得た」

「何故だ?」

「能力者の一人である早瀬先生が担任だったから」


 少し考えると、すぐに答えは出た。


「クラス替えだな」

「そう。そういう事。あんた達が二年に上がる時にクラス替えがあった。早瀬先生は担任だからクラス替えの会議には当然参加している。聞いた話だと、クラス替えってのは、まず成績で機械的に仕分けた後、人間関係や性格など色々な要素を考慮に入れ、バランス取りが行われるらしい」

「そこで、早瀬が無意識的に能力者を自分のクラスに集めてしまったって事だな……でも早瀬は今年初めて担任をやったんだぞ。選択権なんて、ほとんど無かったんじゃないか?」

「どうかな。早瀬先生が新人だからこそ、ある程度は意見を尊重して貰えたって可能性も考えられる」

「なるほどな」

「それから、もう一つの要因は、能力者じゃない教師達が無意識的に能力者を忌避きひし、自分から遠ざけたんじゃないかなって思うのよ。さっきの例えで言うなら、80点の能力者が、普通の人の目からは79点に見える……みたいな感じね。これまた微妙な違いだけど、どちらかを選ぶ時は、1点でも高い方を選ぶ。だから、普通の人の教師達は、無意識に自分のクラスに能力者をいれないようにした。そういう微妙な要因が重なって、あんたのクラスには能力者が集まる事になった」

「確かに筋は通ってるな。能力者同士は惹かれ合うってのは確かにそうなのかもしれない」

「まあ、この問題はそれだけでは語れないと思うけど」

「そうだな。だとしても、十分に参考になったよ。うーん。こうなってくると、クラスメートの中に他に能力者がいるんじゃなかと思えてくるな」

「そう。近くに能力者がいるって事は、排除能力を持つあんたにとって、余りよろしくない状態でしょ」

「そうだな。いつ危害を加えられてもおかしくないと肝に銘じておくよ。でも、まあ能力者探しは、それでも難しいだろうな。能力者が能力を使うまで、俺達は能力者を見分ける事が出来ない。人の心の声が聞こえるという能力を持っていた七原でさえも、能力者を見つけるのは難しいと言っていたし」

「そうね。そこは、しっかりと監視しておいて」

「ああ、わかった……まあ、それを言えば、お前らだって同じだ。どこかで能力者を惹きつけているかもしれない。注意してろよ」

「わかってる」

「これは、もしかして大きな発見かもしれない。真実なら、今後能力者を探す上で大きな力となるよ」

「よかった。それと、あと一つあるの」

「まだあるのか……すごいな」

「これは、一個目と二個目の話の合わせ技みたいなもんなんだけど」

「どういうことだ?」

「こうなってくると、能力者が何故惹かれ合うのかの理由が気にならない?」

「そうだな」

「そこで、さっきの能力者は親から子へと受け継がれるって話が出てくるのよ」

「どういう事だ?」

「能力者が無意識に能力者を見分ける事が出来ているのは、より強い能力者を生む為の本能じゃないかと思うのよ」

「でも、能力なんて生きる上で足枷あせかせにしかなってないって認識なんだけどな。自ら首を絞めているような感じがするんだけど」

「そうね。今はそうかもしれない。だけど、いつか途轍もなく強い能力者が現れるかもしれない」

「確かに……七原の能力でも、委員長の能力でも、突き詰めていけば、他人を支配する能力になるかもしれなかった」

「そう。彼女達の力は実は恐ろしいものだと思う。記録に残ってる能力者ってのは、大した能力を持たない虚仮威こけおどしが多い。だからって能力者を甘く見るべきじゃ無い。実際、能力者と対峙してみると、厄介な場合が多いでしょ」

「そうだな」

「もしかして能力者は現在進行形で加速度的に進化しているのかもしれない。そしてその内、人類を支配する日が来るかもしれない」

「物騒な話だな」

「そうね」

「でも、納得がいったよ。こうなると、親から子に受け継がれるって話の信憑性も上がったな」

「でしょ? だから気をつけなさいって言ってるの」

「そうだな。これは能力者探しに十分役立ちそうだ」

「それだけじゃないでしょ? わたし達の言った事を役立てないといけない場面は他にもある」

「何だ? 急に話が見えなくなったんだけど」

「能力者は子孫繁栄のために、能力者を求める……これがどういうことか分かる?」


 そこで俺はピンと来たのだった。


「実桜さんだって元能力者。能力者を求めてる。だから、あんたは実桜さんを捕まえておかなといけない。じゃないと、実桜さんを他の能力者に持って行かれるかもしれないよ。人間って本能には抗えないものだからね。ただでさえ、あんたは2点なんだから」

「俺って2点なのかよ。2点って……さっきの例えの誤差分しかねえだろ」

「2点は2点。補正無しの2点」

「絶望的な数字だな……まあ、どうでもいい事だよ。俺と七原はそういう関係じゃないからな」

「だから、そんな風に余裕ぶってる暇は無いって言ってるの。とにかく、男の能力者が現れたら気をつけなさい。あんたは圧倒的に不利なんだから」

「何度言わせるんだよ。違うって」


 感謝はしているが、そんなに言われると腹も立ってくる。


「話は終わりでいいな……クラスメートと能力者の身内にも注意する。ありがとな。参考になったよ」

「待ちなさい! まだ話は終わりじゃないから! このまま実桜さんがあんたを思っていてくれるのが、いかに絶望的かを話さないといけないから!」

「もういいから帰れよ」


 騒ぎ続ける双子を玄関から押し出し、ドアを閉じて鍵を掛ける。

 するとチャイムが、再び鬼のように鳴り始めた。


 俺はヘッドホンをして、ソファにドサリと座る。


 能力者同士は惹かれ合うか……。


 クラスメート達の顔を順繰りに思い浮かべてみた。

 月曜までに可能性の高い人物を絞っておくべきだな。

 明日は日曜なのに、ゆっくりする時間もないかもしれない。


 そんな事を考えていると、もう対象者ではない人物が頭に浮かぶ。


 七原実桜である。


「絶望的な事くらい分かってるよ」


 いつの間にか、そんな一人言が口をついて出ていた。

 目を閉じれば、七原の笑顔が……そして悲しそうな顔が浮かんでくる。

 七原は心変わりするだろう。

 それが明日か。もっと先かは分からない。

 それまでには無理だろうな……いや、一生無理なのかもしれない。

 七原に本当の事を伝えられる日は来ないのだ。 

 でも仕方ない。

 現状を変える事は出来ないのだから。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いですね、この回。 理屈として面白い。
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