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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第二章 寺内奏子編
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エピローグ


 次の日。

 朝のホームルームでは副担任の杉橋が教壇に立った。


「早瀬先生は体調不良の為、お休みです」


 だが、俺は早瀬がもう教壇に立つ事はないと知っていた。

 パイロキネシスの能力者は早瀬で間違いなかったのだ。


 ホームルームが終わると、七原に教室から連れ出された。

 俺達は廊下の端の人気の無い場所まで行った。


「どういうことなの?」


 七原が俺に問い掛ける。


「察したのか」

「何となくだけどね……早瀬先生が……」

「そうだよ。端的に言えば、発火能力を持つ能力者は早瀬だったんだ」

「何があったの?」

「早瀬に無断で話せる話じゃないよ。本来なら俺なんかが首を突っ込んでいいような話でもない。だけど、能力を排除できるのは俺だけだ。だから、俺がやるしかなかったんだ。全てが元通りという訳にはいかなかったけど、とにかく発火能力に関してはカタが付いたよ」

「……なるほどね。わかった。この話に関しては詳しくは聞かないよ。戸山君の為にも」


 七原は俺の表情を見て、気持ちを察してくれたようだ。


「だから、昨日の帰り道で、あんなに卑屈になってたのね」

「そりゃあ気分も落ちるよ。発火能力の能力者なんてものと対峙たいじする事を考えたらな」

「戸山君は最善を尽くしている。それでいいと思う。それしかないと思う……ただ出来るなら、今度は私も一緒に背負わせて。戸山君が情報を与えてくれるなら、私も一緒に考えられる。それで判断した事なら、私も責任を担うって事になるよね。次からは、そうして欲しい」


 俺はそれに答えなかった……答える事が出来なかった。

 七原は何も答えない俺に文句の一つも言わなかった。


 しばらくの沈黙の後、七原が口を開く。


「……でも結局、また戸山君の時間調整だったのね」


 七原は気を取り直そうとしているのか、冗談めかした声で言った。


「ん? どういう事だよ?」

「戸山君は早い段階でカラクリを理解していたんでしょ? だから部室に行ってもダラダラして、中々動こうとしなかった」

「ああ、その事か……まあ、そういう事だよ。委員長の能力を排除したら、他にも能力者がいることに気付いてしまうかもしれない。だから委員長の能力については急いで解決するつもりはなかったんだよ」

「じゃあ、何で解決したの?」

「委員長が父親との関係を改善するには、このタイミングしかないと思ったからだよ」

「そうなんだ。やっぱり戸山君は優しいんだね」

「全てを知った時、恨まれるのが嫌だと思っただけだ」

「そうだね。戸山君がそう言うのなら、そういう事にしておくよ……まあ実際、おかしいと思ってたのよね。委員長に発火能力があるのなら、何でそんな危険な所に優奈ちゃんを向かわせるのか……最初から他の人を疑ってたからだとは思いもしなかったけど」

「優奈だからじゃない。他の奴でも危険なところには行かせなかったよ」

「しらばっくれても無駄だよ。私には他人の心の声が聞こえるんだよ――」


 七原が笑みを浮かべながら言う。


「好きなんでしょ? 戸山君が好きなのは優奈ちゃんだもんね」

「だから、違うって言ってるだろ」


 本当は……。

 本当は全ての事情を有りのまま、七原に話してしまいたい。

 俺がなぜ能力者を見つけては排除しているのか。

 俺達が背負っているものは何なのか。

 話して楽になりたい。


 だが、そういう訳にもいかないのである。

 この問題に他人を巻き込むわけにはいかない。

 これは俺が始めた戦いであって、七原が巻き込まれる道理はない。

 背負うには、あまりにも重すぎる問題なのだ。


 七原には笑顔でいて欲しい。

 二度と泣き顔なんて見たくない。

 だから、絶対に話してはいけないのだ。


 ……そんなことを考えてると、七原が俺の目を真っ直ぐ見て、口を開く。


「私はね、戸山君が誰を好きでも構わないよ……戸山君と話してると、すごく楽しいの。だから当面の間、私の気持ちは変わらないと思う……」


 七原は、そんな事を思ってくれていたようだ。


 廊下の窓から外を見る。

 朝まで降り続けた雨がやみ、太陽が顔を覗かせようとしている。


 昨晩、あんな事があったというのに俺の気持ちはもう軽くなっていた。


 ズーズーズーズー。

 不意にポケットの中の携帯が震え出す。

 画面を見ると、そこには『守川一也からの着信』と表示されていた。


「どうしたの? そんな青い顔して」


 俺の携帯の画面を七原に見せる。


 七原の顔も青くなった。


「また守川の事を忘れてたな」


 シャベルを取りに行くと言って守川がいなくなったので、もう問題が解決したから帰って来てくれと言うのを忘れていたのだ。

 俺は慌てて電話に出る。


「守川、ごめん。本当にごめん。色々大変な事が次々と起こり過ぎてて忘れてたんだ」


 すると守川は脳天気な声で、「そうなのか。いいよいいよ。そんな事もあるさ」と言った。


「本当に悪かった」

「うん。それよりさ、今、カレーを作っていてな。これが滅茶苦茶に旨いんだよ。人生の中で最高のカレーだなって二人と話してたら……」

「……二人と?」

「ああ。委員長と委員長のお父さんだよ。二人が『このカレーは戸山君にも食べさせたい』って言い出して電話したって訳だよ」


 何で家じゃなくてテントの方に帰ったんだよ!

 俺は心の中で委員長親子に激しい突っ込みを入れたのだった。



第二章 完


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一章の時からこの子濃ゆいな……と気になっていたので、わーい委員長回だー、とテンションが上がりました。 部室を拠点に双子ちゃんがテレパシーを駆使して委員長の話を送ってくれたり、遠田さんファン…
[良い点] 戸山君が語り部となる一人称視点ながら、登場人物たちのセリフや戸山君の推察からキャラクターの繊細な心情が描写されていて、読み始めるとぐいぐいと物語の中に引き込まれました。 第一章、第二章とも…
[良い点] 予想以上にちゃんと捜査(根拠の探索)から謎解きまで済ませていて、驚きました。 力作ですね。
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