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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第一章 七原実桜編
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守川について


「なるほどな。で、藤堂は今どのくらいまで動いているんだ?」

「まだ、具体的に動いている段階じゃないよ。あくまでも、私に対してしようとしている沢山の嫌がらせの中の一つでしかないから」

「じゃあ、まだ本当に守川に告白させるかどうかも分かってないのか?」

「うん。でも、紗耶の中での優先順位は高い方だと思う」

「まあ、端から見たら面白いネタだろうから、優先度が高くてもおかしくないな」

「そうね。普段は守川君の近くには戸山君がいて、紗耶の近くには私がいるから、中々実行できないだけで」

「だとしたら、こんな事してて良いのか? これは絶好のチャンスだろ」

「そうね。そうかもしれない」


 しかし、七原に動揺した様子はない。


「どちらにしろ、ずっと私が側で監視するなんて出来ないでしょ。今、紗耶が守川君と会ってたとしても、告白を実行するまでの間に、私の能力で計画を察知できると思う。だから戸山君に相談する方を優先したの」


 なるほど。

 七原には、その自信があるからこそ、この行動が出来ているという事なのだ。


「そうだな。その能力があれば不意打ちを受ける事は無いだろうな」

「でも、やっぱり気になるって言えば、気になるんだけどね。ねえ、戸山君。今、守川君に電話して、守川君が何してるかを聞くことは出来ない?」


 と七原は言うが、俺は首を振るしか無い。


「無理だよ。俺は守川の連絡先を知らないからな」

「えっ。そうなの? 知らないの?」

「考えてもみろよ。家に帰ってまで、守川と連絡を取りたいと思うか?」

「いやいや、そうじゃなくて。友達でしょ? 連絡先くらい知ってて当然でしょ?」

「俺と守川って友達……なのか?」

「それは、もういいから!」

「……まあ、七原の基準とは違うんだよ。別に連絡先なんて絶対に知ってなきゃいけないもんでも無いだろ?」

「でも、聞きたい事がある時とかないの? 例えばテスト範囲がどこだったかを忘れたときとか」

「五割ぐらいの確率で、携帯とリモコンを間違えて持ってきている奴の記憶力を信じる事は、俺には出来ないよ」

「た、確かに、そうね。そうだけど……」

「まあ、こういう事もあったし、明日には聞いておくから」

「そうして」

「明日がリモコンの日じゃなきゃいいけどな」


 まあ、さすがにリモコンの話は冗談であるのだが。


「じゃあ、もう話は終わりでいいよな?」

「……あの……もう一つだけ、守川君の件で気になってることがあるの。これは、今も話すべき事か迷ってるんだけど……」


 七原は口をモゴモゴさせながら言った。


「できれば、今日のところは、悩み続けてくれないかな」


 七原の話の長さに面倒になって来た俺は、嫌みを込めて、そう言った。


「ごめんね。でも、戸山君が素直に聞いてくれるから、すごく話しやすくて……もう一つだけ、一緒に考えて欲しい事があるの」

「しまった。と思う。はやく話を終わらせたい一心で、素直に話を聞いていたら、誤解を生んでしまったようだ」


 俺は心の声を口に出して呟いてみる。


「ありがとう、戸山君。早く終わらせたい一心で、素直に聞いてくれるんでしょ?」


 七原は、くじけない。

 俺は仕方なく頷いた。


「実は、守川君も私と同じように、特別な能力を持っている疑いがあるの」

「……は?」

「鼻で笑わないでよ」


 確かに思わず鼻で笑っていた。笑うしかないのである。


「そんなわけないだろ」

「でも、そんなこと、言い切れないと思う」

「俺は言い切れるよ――守川は能力者なんかじゃない。守川が能力なんてものを持ってたら、黙ってられるはずが無いだろ?」


 これ以上、能力者を増やさないでくれ。

 面倒だ。


「確かに、守川君が黙ってられないってのは説得力がある意見ね。でもね、先週の体育の授業の後、守川君と廊下ですれ違った時、守川君の心の声が聞こえてきたの……それが有り得ないものだったのよ」

「有り得ないもの?」

「ええ。守川君は私しか知り得ない事を知っていた」

「七原が能力者だって事か?」

「それは戸山君にも話してるでしょ……これは戸山君にも話せない事だから」

「能力者であること以上に秘匿ひとくするべき情報なんてあるのかよ」

「まあね。私にも色々と事情があるの。わかって」


 無茶ばかり言う。

 それついて何も話す気が無いのに、どうやって一緒に考えろと言うのだろう。


「守川君は私の幼馴染みだから、私と同じ心の声を聞く能力を持ったのかもしれない。だから、私の秘密を知っていた。その可能性は無い?」

「ないない。だとしたら、もっと空気を読んでくれと思うよ」

「確かに……じゃあ、それ以外の能力を持ってる可能性は? 戸山君は私の能力も見事に的中させてたでしょ。だから、戸山君の意見を聞いて参考にしたいの。守川君はどんな力を持っていると思う?」

「馬鹿力とか。馬鹿デカい声とか」

「真面目に考えてよ」

「残念だけど。それが真面目に考えての結果だよ。守川に能力があるとは思えない。七原の秘密ってのが分かれば、考えが変わるかもしれないけど」

「だから、それは言えないんだって」


 七原は頑なに隠そうとする。

 そんな事をされると余計に気になってしまうのだが……。


「その秘密は七原以外に知らないのか?」

「……知ってるのは、お母さんくらいかな」


 七原は渋々といった感じで答えた。


「だったら母親が犯人だよ」

「そんな短絡的な。そんな事ないから」

「母親は七原がそれを秘密にしておきたいと思ってると認識してないんじゃないか?」

「そんな事ないよ。絶対にわかってる」


 七原は確信を持った顔で言う。


「何で言い切れるんだ?」

「母にとっても、それは秘密にすべき事だから」

「じゃあ、他に、その秘密を知り得る手段は無いのか? たとえば、携帯やパソコンに書き留めていたり。そういう所から情報が流出したりする事は往々にしてあるだろ」

「そういうのには書いてないよ」

「じゃあ、その情報は頭の中にしか無いって事か?」

「……そういう訳ではないけど……その物を見れば分かるというか……」


 七原は答えにくそうに言う。

 その物?


「じゃあ、その物ってのを盗まれたり落としたりした可能性は?」

「ないよ。絶対無い」

「気付いてないだけって事は?」

「盗まれたり、落としたりしてたら絶対気が付くから!」


 七原は顔を赤くしながら言った。


 ……。


 ……やばい。七原が何の事を言ってるのか分かってしまった。


 俺は思う――知りたくなかった。知るべきじゃなかった。


 別に、七原の秘密に見当が付いていて、彼女の口から聞き出してやろうと思っていた訳では無い。

 今ここに至るまで、七原の秘密とは何だろうかと無邪気に推理していたのだ。


 七原の秘密とは――おそらく、下着のサイズの事である。

 有り体に言うなら、カップ数がどうのという話だ。


 思わず、七原のつつしみ深い胸に目がいってしまいそうになる。

 母親にとっても秘密にすべき情報だと言ったのは、それが遺伝によるものであるって事なのだろう。


 やばいよ、やばいよ。

 これが正解なら、俺にも決して悟られてはならない秘密があるのだ。

 それを隠し通さなければいけない。


 そんな事を考えていると、七原がいぶかしげに口を開く。


「ねえ、戸山君……今、まずいって顔してるね」


 確かに本当にまずい事になっている。

 こちらの動揺を悟られてしまったようだ。


「そんな顔してねえよ」


 俺は必死に取り繕う。


「いや、見たから」

「だから、違うって!」


 七原が一歩、また一歩と近付いてくる。


 七原が三メートル内に入ると思考を読まれる――俺は考えるべきじゃない事を考えないようにした。


 目に宿っている強い怒り。

 握られた拳。


 それに恐怖を感じ、思わず後退あとずさりするが、すぐに壁に背中がついた。

 それでも七原は更に近づいてくる。


「それ以上近づく必要は無いだろ!」


 七原は既に三メートル内に入っている。


 七原は俺の目前まで迫って来て、壁に手をつき近距離から俺の顔を見上げた。


 壁ドンである。

 壁ドンって古くね?


「違う。これは尋問よ」


 七原は真っ直ぐと俺の目を見つめる。


「その様子だと、私の秘密に気付いてるみたいね。さっき胸部をチラッと見たし! その通りだよ。守川君は私の下着のサイズを知ってた」

「そうなのか……」

「守川君は、それをどうやって知ったと思う?」

「サイズって言っても、大まかな数字だろ。メーカーによってサイズ感も違うもんだろ。女子同士ならある程度想像がつくんじゃないか?」

「たとえ、女の子で予想が出来たとしても、それを守川君に教えるとは思えない。それから、戸山君。ちょっと詳しすぎるんじゃない?」

「紳士のたしなみだよ」

「守川君と話をするのは戸山君だけだもんね。そこから疑うべきだった――戸山君が守川君に情報を与えたのね」

「違う!」


 俺は負けてはいられないと、七原の目を真っ直ぐに見た。

 断じてそんな事はしていないのである。


「そうね。戸山君がしらばっくれるのなら、私には真実は分からない。私の能力は嘘発見器じゃないからね」

「本当に身に覚えなんてないよ」


 これは冤罪えんざいだ!

 濡れ衣だ!

 無実の罪だ!


「結構、持ちこたえるね。でも、その集中がいつまで続くかって事が問題ね。こうやって逃げられないようにしていれば、いつか必ずボロが出てしまう。私に嘘を突き通すのは基本的に無理だと思って」


 そう言い放つと、七原は黙って俺の目を見つめ続ける。


 ……。

 ……。


 会話が止むと駄目だ。

 会話をしているときは、それに集中できる。


 だが、黙ってしまえば、その時の記憶が――守川の、あの時の言葉が頭の中でリピートされてしまうのだ。


 『ナナって、わりと胸が小さめだよな。サイズでいうと、どのくらいなんだ?』


 先週の体育はサッカーという俺達のような嫌われ者にとって物凄く暇な種目だった。

 その時間中、守川と雑談をしていたが、その時、守川が俺に聞いてきた質問である。


「戸山君は、守川君の質問に何て答えたの?」


 七原が俺に問う。


「『よく考えろ。それを知っても得はないぞ。七原の魅力は、そこにはないだろ?』って言いました」

「そもそも、何で戸山君が私の……し、下着のサイズなんて分かるの?」

「胸への興味は、昔から人一倍でした。今まで得た膨大な統計データからの推測です」


 ドンっと重たい音が静かな部室に響き渡る。

 それは七原が壁を殴った音だった。


「そんな話をしてたのね」

「男子高校生の頭の中なんて、こんなもんです。すみません」


 俺は、さっと土下座の体勢に入る。


「戸山君、それは必要ないから。私としても、感情的な対処はしたくないの」


 壁を殴った後で言うことかよと思うと、ぎろりという擬音が出るほど睨み付けられた。


 俺は七原から逃れ、黒板側に猛烈な勢いで走る。

 恥も外聞も無く、全力疾走で駆け抜けた。


「許してくれ。悪気はなかったんだ」

「そうね。謝るなら許してあげられない事も無い。実のところ、私は、そのサイズではないから、怒る理由が無いのよ」


 七原が震え声で言う。

 いやいや。

 間違いなく真相に辿り着いていると思っていますけど。

 事実じゃないとするなら、この話は何だったんだって思ってますけど。


「ある意味、能力だよね。制服の上から……その……サイズを正確に測定するなんてね」

「たまたま、当たっただけだよ」

「いや、当たってないから!」

「はい! おっしゃるとおりですね!」


 本人が事実誤認と主張する限り、俺の罪は軽くなる。

 真実は一つとは言え、ここは蒸し返さないようにすべきなのだ。


「まあ。守川君が能力者じゃなかったことを喜ぶべきね。守川君に能力があったとしたら、話がもっともっと、ややこしくなってたから」

「そうだな。そうそう能力者なんていてたまるかよ」


 俺がそう言うと、七原は難しい顔をして考え込んだ後、口を開く。


「……ごめん、戸山君。もう一つだけ、話をしておかないといけない事があったの」


 まだあるのかよ。

 辟易へきえきとするが、こんなことがあった後なので、大人しく聞くことにする。

 あと少しの辛抱だ……たぶん……。


「ああ、聞くよ。何の話だ?」

「戸山君の身近にいる能力者の話よ」






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― 新着の感想 ―
[良い点] 「膨大な統計データからの推測です」 どっからこの統計データを取ったんだろう、僕もそのデータほしいです(笑) 能力に対して知能で対抗するという新しいストーリーで、今後どんな能力がでてきて、ど…
[良い点] とりあえず藤堂ムカつきました!文のほうですが、比喩表現や巧みに使われていたり、心が読める人間の視点と読まれる視点がうまく組み合わされていて、とても良かったです!ストーリーも面白かったです!…
[良い点] 二人だけの秘密みたいな感じがくすぐったい感じがしてとてもよい。 [一言] こう言う二人だけの秘密みたいな感じの展開めちゃくちゃ大好物です!!ニヤニヤしちゃいそうでした。 これからも絶対に読…
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