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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第二章 寺内奏子編
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委員長との会話

 俺は委員長との会話を思い返した。


 学校で会った日は短い会話だったし、もし俺が思い返すべき事があるとしたら、それは夏木を探している時の事だ。




 それは街灯の無い月明かりだけの道を歩いていた時の事だった。

 およそ、その道に似つかわしくない少女が俺を目掛け近付いてきた。

 俺は少し身構える。


「こんばんは、綺麗な月が出てるよね」


 彼女は思ったよりも、ずっと柔らかい口調だった。

 このシチュエーションに似つかわしくないなと思ったのを覚えている。


「わたし達、同じ学校だよね?」


 彼女は言う。

 それだけは俺にも分かっていた。

 何故なら彼女が同じ高校の制服を着ていたからである。


「そう……みたいだな」

「ごめん、あなたの名前は分からないんだけど、隣のクラスだって事は分かってるの」

「ああ、同じ学年なのか……」


 俺は休み時間もずっと一人なので、暇に任せて人間観察をしている。

 だから、同じクラスなら話したことが無くても顔と名前は一致するのだ。

 しかし隣のクラスとなると、これが一切分からないのである。



「気にしなくて良いよ。わたし、絵が好きで、色んな人の顔を描いている内に人の顔を覚えるのが得意になったのよ。だから、あなたが隣のクラスだって分かったの。あ、自己紹介がまだだったね。わたしは西園寺梨々花って言うの。あなたは?」

「俺は戸山望だよ」

「そっか。戸山君は、こんな夜中に何してるの?」


 面倒な奴に出会ってしまったなと思う。

 好奇心が強そうだ。


「塾の帰り道だよ」

「こんな近所の人しか通らないような道を?」


 勘が鋭い。

 下手に嘘をついても仕方ないだろう。

 どっちにしろ、言ったって言わなくたって変わらないのだ。


「人を探してるんだよ」

「こんな時間に?」

「こんな時間だからこそだよ。中学生くらいで、これくらいの身長の男なんだけど、知らないか?」


 俺は夏木の身長を手で指し示す。


「さあ、それだけじゃ分からないよ。どんな子?」

「最近噂になってる狼男ってのが、そいつの事だよ」

「ああ、その子は知ってる。大きなマスクの子だよね」

「知ってるのか?」

「うん。見たことあるよ。話したこともある。彼を探してるの?」


 そんな事を言いながら、彼女は通学鞄からノートを取り出して、俺に見せた。

 そこにはマスクをつけた夏木の顔が描かれている。


 気付けば感嘆の声をあげていた。

 その絵は余りにもよく似ていたのだ。

 夏木がマスクをしている所為で目と髪型と輪郭だけではあったのだが、それでもかなり特徴を捉えてる。

 

「彼、目がクリクリってしてて、可愛いよね。こうなるとマスクの下も気になっちゃうんだけど……」

「そんな事を言うと、あいつに嫌われるぞ」

「何で?」

「見られたくないから隠してるんだよ」

「そうだったんだ。気をつけるよ」

「じゃあ、俺はそいつを探さないといけないから……」


 彼女と無駄話をしていても仕方ない。

 俺は夏木を探さないといけないのだ。


 その場を離れようとすると。


「待って。わたしも探す」

「いや、いい。こんな時間だぞ。危ないから家に帰れ」

「大丈夫だから。手伝わせて。大体の事情は分かったから」

「は? 何がわかったんだよ。探してるって言っただけで、事情なんて一言も言ってないだろ」

「いいの。わたしには分かってるから。言わなくも大丈夫」

「何だよ、それ……」

「いいの。わたしに探させて。わたしって人を見つけるの得意なの。だから時間を頂戴。絶対に探し出してみせるから」

「得意ってなんだよ。こういうものに得意とか不得意とかあるのか?」

「あるよ。人探しっていうと、暗い道とか、見通しの悪い道とかでしょ? わたし、そういう道を沢山知ってるし、どうやったら効率的に探せるかも分かってる。さっきも見せたように夏木君の外見的特徴もしっかり覚えてる。わたしを使わない手は無いと思う。でしょ? だから、わたしに手伝わせて」


 そう言って彼女は歩き出す。

 彼女は自信満々だが、夏木を見つけ出すことは出来ないだろう。

 少なくとも、俺が夏木に警戒されている内は確実に無理だ。

 それでも彼女の強引さに負け、しばらく彼女と行動を共にする事にした。


 たしかに彼女と歩けば、こんな道があったのかという発見も多かった。頭の中の街の地図が精度を増していく。その感覚は面白くもあった。

 しかし、すぐに俺は委員長に耐えきれなくなった。何故なら、彼女は口を開けば俺と夏木の関係を勘繰るような質問ばかりしてきたのだ。

 その全てを否定した。

 友人が心配だから探しているだけだと繰り返した。

 だが、彼女は一向に納得してくれなかった。




 俺は考え事で窓の外へ向けていた視線を七原達の方へ戻した。


「何か思い出したの?」


 七原が俺に問いかけてきた。

 七原の書いたリストを熟読していた遠田も顔を上げる。


「ああ。色々と思い返したんだが、委員長から父親に関する事も、そのヒントになりそうな事も聞いてないと思う」

「そっか。残念だね」

「でも、一つ気になる事があるんだよ」

「何?」

「七原、さっきの同人誌のストーリーを思い出してくれ」

「呪いで醜い獣の姿になっていく夕樹君と、それを助けようと奮闘する弘巳君の話だよね」

「ああ、そうだよ。そういう話だ……だけど、俺は委員長に夏木の能力の話も獣化の話も一切してないんだよ」

「え?」

「しかも、委員長は夏木のマスクの下を知らないはずだった。だけど、あの本には鼻や口の特徴も書いてあったよな。あの絵は夏木の特長をきっちりと捉えてた」

「ということは……」

「つまり、委員長は夏木に会っているかもしれないって事だよ」


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