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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第二章 寺内奏子編
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遠田彩音

「どうやら、優奈は会話で精一杯みたいだな」

「そうね。やっぱり私達は私達で調べていかないといけないね……それにしても本当に緊張するね。能力者と対峙たいじしていると思うと」

「ついさっきまで七原も能力者だったんだけどな」

「そうだけど……まあ、発火能力は危険度の次元が違うでしょ」

「そうだな。ってか、委員長って本当に能力者だったんだよな」


 俺の中でも半信半疑な部分はあった。

 しかし、本人が認めたからには間違いないのだろう。


「やっぱり、優奈ちゃんが心配?」

「当然だろ。焦って強引にやってるみたいだし、わたしが仕切るって言ってた癖に何の指示も無い」

「そんな事が心配なの?」

「ああ。俺がしてるのは、そういう心配だよ。優奈は観察力はあるけど、他人へ歩み寄るのが上手くない」

「でも、戸山君よりマシじゃない?」

「わかってるよ。主観的に見ても客観的に見ても、この件に対して一番適性がないのは俺だ」

「そんなに偉そうに言うこと?」

「だな。とにかく、今からでも遠田を投入したいよ。俺の手駒の中で一番交渉術に長けているのは遠田だから」

「いつから遠田さんが戸山君の手駒になったのよ……でも、遠田さんの力が必要ってのは同じ意見だよ。今から遠田さんを呼ばない? 戦力は多い方がいいでしょ?」

「そうだけどさ……」

「遠田さんが来たら困るの?」

「困るって事はないよ」

「本当に? ちょっと困ってるように見えたけど……困ってるんなら言って」


 正直なことを言えば参ったなあと思っていた。

 遠田が来ると少しだけ面倒だ。

 七原だけなら、この状況において行動しないことの合理性を主張すればなだめることが出来る。

 しかし、遠田は七原より少し感情的なタイプなのだ。何か行動をしないと気が済まない。

 俺の思うように場をコントロールすることが出来なくなるかもしれない。


 ……まあ、それでもいいか。

 なるようにしかならないのだ。


「そうだな。委員長が能力者だと確定して、遠田はもう容疑者じゃないから、遠田に頼るか」

「その言い方は無いんじゃない? 私は最初から思ってたからね。自分に関わっているからって、遠田さんを容疑者のリストに加えるなんて杓子定規しゃくしじょうぎな考え方はやめた方がいいと思う。話を聞いてるかぎり、遠田さんはは戸山君の持ち物に火を付けるような事は絶対しないよ」

「わかってるよ。あれは、そういう方法で推理していくしかないって話だ」

「じゃあ遠田さんをもっと早く呼んでも良かったんじゃない?」

「まあ双子とあまり仲が良くないって問題もあるからな。今は良いタイミングだろ」

「そうか。そうね」

「じゃあ電話するからな」


 俺はポケットから携帯を取り出し、遠田に電話を掛ける

 受話口を耳に当てると、呼び出し音が聞こえない。


「戸山か」


 受話口から、遠田のうなるような低い声が聞こえてきた。

 うわ……もう繋がってたのか、ってか出るの早すぎるだろ。


「いきなりで悪いんだけど、今忙しいか? 忙しくなかったら文芸部の部室に来て欲しいんだけど」

「わかった。すぐに行くから」


 遠田は更に低い声で答え、ガチャリと乱暴に電話が切れる。

 そんな切り方が出来るなんて機能は付いてないと思うんだが……。


 俺は七原の方に視線を戻して口を開く。


「遠田、めっちゃ話が早いぞ。文芸部の部室の場所を教えた覚えはないけど、すぐに来るらしい……」


 おかしいな……震えが止まらない。


「それは、さっきの発火の事件の事を知ってるからでしょ。それで当然呼ばれるものだと思って、戸山君の呼び出しを待ってたんだと思う」

「あいつも正義感というか、そういうのが強いから、何とかしたいと思うんだろうな」

「そうだね」


 七原は棒読みで答えた。

 おそらく七原が指摘したいと思ってるだろう事については気がつかないフリをして、口を開く。


「さあ、遠田を迎える準備をするか」


 俺は地べたに膝をついた。


「ん? 戸山君、何してるの?」

「これは土下座といってな。心からの謝罪の気持ちをあらわしているんだ」

「それは前に聞いたから!」


 遠田は不機嫌なようだった。

 困った時は、これしかないのである。


「だから、何で戸山君が土下座なんてするの? って聞いてるの」

「よく分からないけど、遠田が不機嫌だったんだよ」

「そうなの? 思い当たることは?」

「七原の件でき使った」

「あ、ごめん」

「いや、でもそれは今更って話なんだよな。弟の件以来、事あることに遠田に頼ってるから」

「そうだったんだ……」

「遠田は自分で引き受けたことを後からグチグチ言う奴じゃないよ。まあ、頼んだことは大体完璧にやり遂げるしな。だから、わからないんだよ。あの不機嫌さは何だったのか。だから取り敢えず土下座を」

「せめて、取り敢えずで土下座するのはやめようよ」


 しかし、そんなことに聞く耳を持つ訳にはいかない。


「これが俺のスタンスだ。別に七原に嫌われても構わない」

「それが今朝の私の告白を踏まえて言ってるのだとしたら……私もタダで済ませる訳にはいかないけど」


 七原の当たりが、どんどん強くなってきている気がする。


「普通に待とうよ。大丈夫、そんなに怒るような事じゃないって。だから立って」


 七原は俺の腕を引っ張って、無理矢理立ち上がらせようとする。


「いや、俺はここで土下座したいんだよ」

「そうなると話が全く変わってくるから。そういう趣味があるなら否定はしないけど、私の前でそんな事しないで」


 ――その時。


「この状況は……何なんだよ?」


 突然聞こえてきた俺のでも七原のでもない声。

 その方を見ると、遠田彩音がいた。

 俺達の何だか分からないこの状況をほんの一歩分という近さで見ていたのである。

 ドアを開ける音にさえ気がつかなかった。


「あっ。えっと……七原に土下座を止められてるんだ。遠田には迷惑を掛けたから、詫びないといけないと思って」

「そんなのは必要ない。わたしがそんなのを求めた事があるか?」


 遠田はいつものクールな顔で俺を見る。


「ない」

「これからも求める事は無いよ」

「本当、遠田にはいつも頼ってばかりで、申し訳ないと思ってるよ」

「大丈夫。わたしは暇だからさ。元々こういう性分だし」

「遠田……いつか必ず恩を返すよ。そうだ。100年後も200年後も遠田のおこないが称えられるように遠田記念館を作って……」

「そんなのはいらない」

「そうか。じゃあ俺は何をすればいい?」

「いいんだよ。戸山は弟の恩人だから、恩を返してるのはわたしだ」


 良かった。

 不機嫌には不機嫌なのだが、思ってた程でもないようだ。

 そして俺は改めて遠田を見る。


 何度見ても物凄い美人だ。とにかく美しい。

 目鼻立ちも整っていて、さすがに遠田夏木の姉といったところか。

 男子生徒よりも女子生徒の人気が高いと聞くが、それは頷ける。

 その立ち姿には可愛さよりも、凜々しさの方を強く感じるのだ。

 やけに姿勢が良い所為もあるだろうか。


 ちなみにサイズ的に言えば平均より少し大きいと言った感じだろうか。

 ほぼ平均といった委員長と比べれば少しだけ大きいことが分かるだろう。

 ちなみにの話ではあるが、遠田と仲の良い藤堂は遠田と同程度。

 笹井は遠田以上、早瀬に少し足りないくらい。

 柿本は平均と言ったところだろう。

 現在、クラスの一軍グループは全員平均以上である。

 つくづく、七原が何故あのグループにいたのかが不思議である。


「戸山君、すごく真剣な顔だけど何を考えてるの?」


 七原が俺に問い掛けてきた。


「……いや、ちょっとな……優奈は上手くやれてるのかな、と」

「ああ。そうだったんだ。やっぱり優奈ちゃんのこと心配はしてるんだね」


 (すんで)の所で、今回最大の危機をやりすごしたのだった。


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