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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第二章 寺内奏子編
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委員長について

「いや、どこからどう見ても嫌われてるだろ。実際、あれ以来委員長とは一度も話してないからな。同じクラスになって、冷たい視線を感じるなと思ったら委員長だったりするし」

「冷たい視線?」

「そうだよ。凍えるような冷たい目をしてるんだ。高校生男子って生き物は、ちょっと女子生徒と目が合っただけで、こいつ俺が好きなんじゃねえかって勘違いするもんだ。でも委員長の視線に全く勘違いの余地なんて無かった。理屈じゃなくて、実際に俺が見て、そう思った事だ。こういうのは真実から掛け離れてはいないものだろ?」

「戸山君はもっともらしく言うけど、戸山君の感覚ってアテにならないからね」

「何でだよ」

「……私の思いには気付かなかったし」


 七原が少し俯きながら言う。

 それをそんな風に言うのはズルいと思う。


「……あれは仕方ないだろ。俺には七原を何とかしてやらないとっていう使命感というか、そういうもんがあったんだよ」

「戸山君に使命感ねえ。そういうものと一番掛け離れてると思うけどね」


 七原は冗談っぽく笑う。

 俯いたのは演技だったようだ。

 少し慌てた俺が馬鹿みたいじゃねえか。

 俺は自分がホッとしているのを感じながら返答する。


「あるんだよ。俺にだって」

「そうね。まあ、あの件は別とするわ」


 そう言いながら、七原は真面目な顔に変わった。


「でもね、戸山君。あなたが仮に鋭い人だとしても、他人には気持ちなんて結構わからないもんなんだよ……私は、それを知っている。能力で沢山の人の心の声を聞けば、他人がどう考えているか、大体の予想できるようになってくるんだけど、でもやっぱり実際に心の声を聞くまでは分からない事も沢山ある。それに気持ちってのは、すぐにコロッと変わったりするものだし」

「そういうもんかな」

「そうだよ」

「それから覚えておいて。戸山君は自分を鋭いと思ってるようだけど、自分が思ってるよりも、ずっと鈍いから」

「わかった……肝に銘じておくよ」


 話の流れ上、反論は出来ないが、俺は自分が鋭いなんて思ってない。

 俺に他人の気持ちは理解できない。

 それは日頃から思い知らされている事だ。

 だからこそ七原の協力を少し心強いと思ってしまうのである。


 七原は少しの思案の後、口を開く。


「とにかく委員長は単純に戸山君を嫌ってる訳じゃないと思う」

「そうなのか……俺には、そうは思えないけどな。委員長は他人の話を聞かないで自分の意見を押しつけるクソワガママな奴だから」


 俺がそう言うと、七原は少し困惑しているといった表情になる。


「さっきも言ったけど、私が思ってる委員長と戸山君が思ってる委員長が全然違うの。これは何なのかな?」

「そりゃあ、委員長としてホームルームで仕切ったりする時に、そんな感じは出さないだろ」

「私は心の声が聞こえてたし、普段も何度か話してるけど、印象は変わらないよ」

「そっか。でも、俺は本当の事しか話してないぞ。委員長が多重人格とでも言うつもりか? まあ、確かに発火能力者が多重人格ってのは結構ありがちな話だけど」

「そうじゃないよ。私が思うのは、委員長の中で西園寺梨々花というキャラと寺内奏子というキャラの使い分けがあるんじゃないかって事」

「使い分け?」

「そう。戸山君とは初対面だった、その上、深夜に人を探しているという特殊な状況だった。その中で委員長は、普段付けてる仮面を外した本性に近い状態だったんじゃないかなって思うの」

「西園寺梨々花の方が、寺内奏子より本物の寺内奏子に近いって事か?」

「そうね。戸山君だって家にいる時と教室にいる時では違うでしょ? 裏表とか二重人格とかじゃなくて、そんな自然な違いなんだと思う」

「なるほど」

「同人活動とか西園寺梨々花とか、そういう要素は委員長の気持ちを解明する上でキーワードになりそうだね。まあ単なる推測に過ぎないけどね」


 同人活動か……。

 確かに七原の言う事には説得力がある。


「ちなみにさっきの同人誌、本当に売ってたのか気になったからネットで検索してみたんだ――あの作品はオリジナルの割には結構ファンが多いらしいよ」

「そうなんだ。あれをみたら確かに納得するね。緻密で綺麗な絵だったし、ストーリーも良かった」

「共感します、なんて声も多い。あれの何に共感できるのか分からないけどな」

「それは運命に立ち向かう二人の少年とか、やっぱりドキドキするし」

「三ページに一回くらいキスしてたよな。相当たまってんだな」

「あれは純粋なものなの! 異論は認めないから!」

「七原も信者化してるな」

「いや私のが真っ当な意見だと思う」

「ちなみにネットでも、あの同人誌の悪評を書いた奴は信者に徹底的に叩かれてた。それも何日にも渡って。完全にネットストーカーって感じだったな」

「そうなんだ。でも、あの完成度を見たら、そうしたくなるのも分かるよ」


 七原は委員長の作品が相当気に入ったらしい。


「ちなみに俺が調べたところによると、西園寺梨々花の最新作には、守川という純朴な少年と、実音(みおん)っていう意地悪な女が恋のライバルとして登場してるらしいぞ」

「ちょっと待って。私そんな役? しかも、何で守川君だけ本名さらされてるのよ!?」


 七原が詰め寄ってくる。


「いや、それはさすがに冗談だよ。昨日今日のことが、作品になってる訳ないだろ?」


 俺がそう言うと、七原は「そんな嘘つかないでよ!」と激しく抗議してきたのだった。


 でも実際のところ、委員長ならやりかねないんだよな。

 西園寺梨々花の新刊は定期的にチェックしておかないといけないだろう。


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