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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第二章 寺内奏子編
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昼休み


 移動教室だった二時間目に続き、三時間目も、別の教室で授業が行われた。

 教師からは、この措置は時間割の都合による授業の入れ替えだと説明されたが、クラスメートの誰もが、あの発火事件が原因だと分かっていた。


 そして、三時間目が終わると、早瀬が教室に現れ、四時間目は元の教室に戻るようにと指示を出す。


 安全確認が終わったという事だろう。


 早瀬は俺の所に来ると、コンビニ袋に入った俺の昼食を返してくれた。

 鞄の方は戻って来ないのかと聞くと、まだ岩渕の許可が貰えてないとの事だ。


 まあ、俺の鞄は昼食を包むだけの、ただの袋だった。

 焦る必要は無い。


 そんな事を思いながら、ふと委員長に視線を向ける。

 委員長の様子は相変わらず、どこかおかしい。

 授業中も、ずっと考え事をしているようである。


 家出か……。

 何を考えているんだろうな、委員長は。

 七原の力があればなあと思うが、そんな事を考えてても仕方ない。

 今は、これからどう動いていくべきかを考えないといけないのである。



 思索にふけっていると、いつの間にか四時間目の授業が終わっていた。

 やっと昼休みだ。

 ささっと昼食を済ませて、何らかの行動を取るべきだろう――そう思い、机の横に掛けてあるコンビニ袋に手を伸ばす。


「ねえ、戸山君」


 頭の上から声がして、視線を向ける。

 七原が俺の後ろに立っていた。


「一緒にお昼食べない?」


 七原は、にこにこと笑みを浮かべている。

 どうやら、開き直って、普通に俺と接する事にしたのだろう。


 七原の自然な笑顔と対照的に、周囲のクラスメート達は驚愕(きょうがく)といった表情を浮かべている。

 『あんな事があったのに?』という心の声が聞こえてきそうだ。


 さて、どう答えたものだろうか。

 何をするにしても、俺としては一人の方が動きやすい。

 今日は、無しの方向で――と、俺が断ろうとした事を一瞬で悟ったのだろう。七原は俺の手を掴み、引っ張った。


 「いいから、行こ」


 そこまでされたら、拒絶する訳にもいかない。

 仕方なく、俺は席から立ち上がり、コンビニ袋を提げて七原に付き従った。


 廊下に出ると、七原は階段の方に向かう。

 おそらく行き先は職員室なのだろう。

 鍵を借りて部室へ向かうコースだ。


「結構、思い切った行動だよな」

「何が? 毎回、鍵を取りに行くのも面倒だから、ピッキングの練習をしてるって事?」

「違うよ。ってか、そんな事をしてたのかよ」

「出来たらなって話。で、何を思い切ったって言うの?」


 俺が言おうとしてる事は七原にも分かってるはずだが、それでも七原は聞いて来た。


「教室で俺に話しかけたことだよ。どうせ、聞いてるんだろ? 俺が七原の事を何て言ったか」

「ああ、それの事ね。聞いたよ。『付き合ってないし、付き合ってやるつもりもない。俺は七原が嫌いだからな』って言ったんでしょ?」

「メチャクチャ正確に伝わってるな」


 オブラートに包むという言葉を、知らないのだろうか。


「その時の戸山君の表情まで詳細にね」

「それを聞いて、距離を置くべきだと思わなかった理由が分からないけどな」

「たしかに話を聞いた時は、ちょっとショックだったよ。でも、戸山君が、そういう事をするってのは委員長との件でも予習してたし、運良く、戸山君の真意が、そこには無いって事が分かってた。その時の最善だと思ってやってくれた事に、文句を言おうだなんて思わないよ」


 ここまで、すっぱりと割り切って考えられるのは清々しい。


「悪かったよ。ごめん」


 謝罪するつもりは無かったのだが、その言葉が自然と口をついて出ていた。

 恐るるべきは七原実桜――である。


「だからいいって。皆にも言って置いたんだよ。戸山君は私達の関係を否定する為に極端な事を言っただけだって」

「そいつらは何て返事したんだ?」

「『例えそうだとしても、あんなヤバイ奴とは関わらない方がいいんじゃない?』って」

「正論だな」

「それでもいいよ。戸山君がヤバい奴っていうなら、それも悪くないと思う。他人の目を気にして、必要以上に自分を抑え込むのは、もうやめたから」

「そっか」


 七原が無理をしないのは良い事だと思うのだが、いかんせん、厄介さが能力者の時と同じ水準に達している。


 ……まあ、仕方ないか。

 人というのは変わったようでも、本質的には、やはり変われないものなのかもしれない。



 職員室に入った七原は鍵を持って出てきた。

 予想通り、部室へ行くルートのようだ。


 特別棟に入ると、いつも通り、人の気配を感じなくなる。

 必要なんだろうか、特別棟。


「で、部室に行くって事は、例の発火について話すって事だよな?」

「そう。それと、委員長の動きが不審な事についても気になってるのよね」


 やはり七原も気付いているようだ。

 俺と委員長が険悪だという事もあり、七原の協力は非常に有り難い。

 だが一方で、七原を危険な事に巻き込みたくないという気持ちもあるのだが……。


「七原は、もう能力者に関わらない方がいいと思うんだけどな。ほら、危ない事もあるだろうし」

「私は戸山君の役に立ちたいの。元能力者だからこそ出来る事も、あるはずだよ」


 七原の眼差(まなざ)しは、いつだって真っ直ぐだ。

 この三日間で痛感させられたのは、七原が言い出したら聞かないタイプだという事である。


 無理に止めても、無駄なのだ。


 七原だって、能力者が如何(いか)に面倒かを思い知れば、遠くないうちに嫌気も刺すはずである。

 それまでは、七原の安全を最優先にして、行動を選択するべきだ。


 俺は、そういう風に考え方をシフトする事にした。


「で、あれは、やっぱり能力なの?」

「たぶんな。パイロキネシスと呼ばれる能力があるんだ。道具を使わず、思うままに火を放つ事が出来る力だよ」

「怖い力だね」

「そうだな。この力はただちに人命を左右してしまうようなものだ。少なくとも、俺が相手した能力者の中では最強最悪だと思うよ」

「他の能力って可能性は?」

「集団催眠とか色々な可能性を考えたけど、あのとき、後から教室に入った俺達も、焦げ臭い匂いを感じた――だろ?」

「そうだね」

「そうなると、他の能力だとは思えないんだ」


 かと言って、決めつけるのは早すぎるとは思うが。


「そっか……強い能力ってなれば、二人を呼んだのも正解だったね」

「二人?」

「そう。上月さん達も部室に呼んでるの」

「いつの間に?」

「休憩時間に会いに行ったのよ。迷惑を掛けた事も謝りたかったしね」

「行動、早いな」

「だって、放火だなんて、とんでもない事が起きたわけだし、戸山君の助手としては、早いところケリを付けたかったのよ」

「助手って」

「当然そうなるでしょ? 私も手伝うんだから」


 反対しても仕方ない。反対しても仕方ない。

 俺は心の中で繰り返した。


「で、遠田は呼んだのか?」

「まだだよ。遠田さんとは面識もないし、上月さん達を誘うだけで時間一杯だったから。遠田さんは戸山君が呼んでくれる?」

「いや、やめた方がいい。遠田と優奈は会わせたら、面倒だからな」

「どういう事?」

「夏木の事件の話をしただろ? あの時は、俺も排除ってものを始めて間もなかったから、上手く行かない事ばっかりでさ。いろいろと大きなミスもした。その一つが、双子が能力者って事を遠田に知られてしまったって事だ。それ以来、優奈は一方的に遠田を敵視しているんだよ」

「なるほど……って、私も二人の能力の事を知っちゃってるよ?」

「あれは、優奈が七原を威嚇するために、自分で暴露したって感じだったろ? 遠田の時とは状況が違う。それに、一年も経てば、色々と考え方も変化するものだよ」


 話している内に、四階までの階段を上り終える。

 廊下に出ると、すでに双子が部室の前にいた。


「実桜さーん!」


 麻里奈が七原に手を振る。

 『七原先輩』ではなく『実桜さん』という呼び方に変わったようだ。

 短い休憩時間の中で、こんなにも打ち解けられるものだろうか。

 やはり、恐るるべきは七原実桜である。

 おそらく、七原を騙してしまったという麻里奈の罪悪感を、逆に巧みに利用したというところだろう。


 そんな事を考えていると、優奈が俺を見て、半笑いで口を開く。


「実桜さんから話は聞いたわ。あんた、また能力者に絡まれたんだってね。燻製(くんせい)を作る能力で」

「そんな能力、ねえよ」

「じゃあ、カツオ節を作る能力?」

「いや、カツオ節も燻製だからな。同じこと言ってんだわ、それ」


 優奈の言い草を聞いて、七原が優奈との距離を縮めた方法も、すぐに理解できた――俺をネタにして盛り上がったのだ。


 能力は消えても、人心を操る悪魔の才覚が残っている。

 恐るるべきは七原実桜。恐るるべきは七原実桜。


 そんな事を知ってか知らずか、優奈は普段通りの不機嫌な顔に戻っていた。


「とにかく、あんたの日頃の行いが悪い所為だからね。まあ、そのお陰で能力者が自ら正体を現してくれるのは助かってるけど、一日の人数は調整して」

「出来るかよ」

「あ?」

「あ?」

「まあまあ、その話は中でしましょ」


 七原が鍵を開き、ぞろぞろと部室に入る。


「じゃあ好きなところに座ってね」


 七原のかけ声に、俺の隣には優奈が座り、その前に麻里奈。

 七原は俺の前に座った。

 七原と優奈、どちらも拳が届く範囲である。

 どうにかならねえかな、この人間関係。


「とりあえず、先に、ご飯にしましょ」


 七原が言い、鞄から二つの弁当箱を取り出す。


「めっちゃ食うんだな」

「違うって。犯人捜しに協力してくれたら、お礼するって言ったでしょ?」


 七原が顔を赤くしながら答えた。

 どうやら、俺の分まで作って来てくれたらしい。


「ああ、あれ本気で言ってたのか?」

「そうだよ。約束は約束だからね」

「そっか……悪いな。俺が犯人だったのに」


 それで俺が礼を受け取るのも変な話である。


「そうだね。確かに犯人の戸山君にあげるのは変だよね」


 七原は、俺の前に置かれた弁当箱を自分の前に引き戻した。


 ……いや、そんなにすぐに引き下がるとは思わないし。

 出来れば、弁当の方は頂きたい。

 色々と思考を巡らせた所為か、今日は猛烈な空腹に襲われているのだ。


「ああ、そうだ。じゃあ、こうしようか。皆で食べよう」


 七原は思いついたというように、机の真ん中で弁当を開けた。

 揚げ物、野菜、卵焼き。スタンダードだが、彩りが綺麗で食欲がそそられる。


「でも、わたし達、全員で実桜さんを騙してたんですけどね」


 と、優奈。


「そっか。そうだったよね」


 七原は弁当を自分の位置に引き戻した。


 優奈ぁ! 余計な事を!

 そう叫びそうになったが、すんでの所で自分の中に留めた。

 何故なら、優奈もまた、後悔と失望が入り交じった顔をしていたからである。


 麻里奈も『むぅ』と擬音が出そうな顔で七原の弁当を見送る。


「うそだよ。ごめん。ごめん。みんなで食べよ。私、感謝してるからね」


 素直に、ただ素直に七原が天使に見えた。

 ……俺達三人が洗脳されてしまう日も近いのではないだろうか。


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