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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第一章 七原実桜編
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エピローグ2


「あと、私が気になってるのは誰が噂を流したのかとか、どうやって紗耶をコントロールしていたのかとか。そういう所なんだけど――それに関しては、ある程度予想が付いてるよ」

「そうなのか?」

「ええ。戸山君が犯人だと分かって、頭が回り出したからね。一昨日、私が戸山君を呼び出してた時、紗耶達の方には、瑠華と麻衣や守川君以外に同席していた人が居たよね? まあ、私は、その事実をすっかり忘れてたわけだけど」

「ああ、そうだな。たしか藤堂達と、そんな会話してたよな」

「やっぱり。協力者は遠田さんだったのね?」


 七原に説明する時は名前を伏せて話すつもりだったが、勘付かれていたのなら仕方ない。


「ああ」

「どうやって遠田さんに?」

「七原と部室で話した後、遠田に電話したんだよ。そうしたら、ちょうど藤堂が守川を言いくるめようとしているところだったんだ。だけど守川は、幾ら藤堂がそそのかしても、告白するとは言わなかったらしい」

「へえ。そうだったんだ」

「だから、俺は、遠田を通して守川の説得方法を教えたんだよ――七原は、守川の好意に気がついてる。お互いの気持ちをスッキリさせる為にも、告白した方がいいって感じの事をタラタラとな。それを言ったら、守川が首を縦に振ったらしいよ。そして、さらに俺が考えた告白プランを遠田に提案して貰ったんだ」

「なるほど。やっぱり遠田さんが鍵だったって事か……あの日、戸山君じゃなくて遠田さんに会ってたら、何かが変わってたかもしれないね」

「ああ」


 俺は頷く。

 遠田は俺が排除する力を持っている事を知っている。

 七原が遠田と接触していたら、間違いなく、俺の負けだっただろう。


「遠田の働きは本当に凄まじかったよ。さすがに藤堂の子分として鍛えられただけあるって話だ」

「噂も広めたのも、遠田さん?」

「そうだよ。昼休みになって七原が部室に向かった後に、遠田と会って頼んだんだ。お陰で、昼飯を食べる時間が無くて、空腹のまま部室に行くことになった――そういう諸々(もろもろ)の事がバレないように七原の弁当を拒否していたんだけど、上手く断れなくて、あんな事になったってわけだよ」


 この三日間、遠田と打ち合わせる為に早起きしたり、夜遅くまで策を練ったりと、七原と居ない時間のほとんどを、七原に捧げていたと言っていい。

 心身共にズタボロなのは、むしろ俺だよ、と言いたいところだが、それは言わぬが花だろう。


「なるほどね……じゃあ、紗耶へのメールも遠田さんのお陰だったってことね」

「ああ。匿名で送れるとか、送信先が複数選択できるとか。そういう理由でメールにしたいと思ってたから、遠田が居てくれて本当に助かったって感じだよ」

「でも、何で遠田さんは戸山君に協力的なの?」


 また、長くなる話題を――なんて事を思ったが、全部話すと言ったので仕方ない。


「遠田の弟に少しだけ恩があるんだよ」

「恩?」


 興味を引かれたのか、七原の目力が、さらに強くなる。


「何度か話題に出てるだろ? 能力を排除した中学生の話」

「ああ、公園でボコボコにしたっていう」

「そうだな。もう、それでいいよ。その中学生が遠田の弟なんだよ。名前は遠田夏木だ」

「その遠田君が能力者ってのは、どうやって知ったの?」

「藤堂と遠田が、家出した夏木の事を話しているのを、ちらっと聞いて、気になってな。遠田が言ってたんだ、目撃情報は沢山あるけど、探しても探しても見つからない、って」

「なるほど。で、その夏木君はどうなったの?」

「去年くらいに、狼男(おおかみおとこ)の噂を聞かなかったか?」

「ああ、聞いたよ。鼻が狼みたいな形になってる男の子が目撃されたとか」

「それが夏木なんだよ。夏木は能力で狼のような嗅覚を身に付けてたんだ」

「え? 何で、そんな能力を?」


 七原が首を傾げる。


「それほど不思議なもんでもないよ。傾向的にいっても、中学生男子は肉体強化系の能力を発現させる事が多くてな。速く走るとか、腕力だとか、そういう並外れた身体機能を得るんだ」

「でも、何で嗅覚なの?」

「いや、これが結構優れた力なんだよ。この場所に居たら誰々が近づいてくるだとか、こっちに行けば誰々に会えるだとか、そういう事を把握できるんだ。防衛本能を満たす目的において、これほど優れた力は無いよ。この力があれば永遠に面倒事を避け続ける事ができる。俺的には最良の力だと思うよ」

「その力で遠田さんからも逃げ回ってた訳ね」

「ああ、そういう事だ。夏木は能力を得た事で、鼻の感覚器が発達して、狼や犬みたいに鼻づらが膨らんでいた。それが原因で、避けようとしていた人物の他に家族からも逃げ隠れしなくてはいけなくなった」

「能力には、そんな事もあるのね……」

「誰かがバランスを取ってるわけじゃない。普通に起こり得る事だよ」

「で、遠田君は、どうなったの?」


 感情移入したのだろう、七原の瞳が揺れた。


「時間は掛かったけど、無事に解決したよ。遠田を巻き込んで、夏木が逃げてた相手との問題にカタを付けたんだ。だけど、夏木の力を排除してるところを、うっかり遠田に見られてな。結局、遠田には排除の事を白状する事になってしまった」

「じゃあ、遠田さんが戸山君の話題になった時、うつむいて話さなくなるのって……」

「遠田には俺と知り合いだって事や、排除の事は秘密にしておいてくれって頼んでるから、そのせいだと思う」

「なるほど。そういう事か。戸山君に、そんな交友関係があるだなんて、想像も出来なかったよ」


 七原はそう言うが、これは交友関係と呼んでいいものではないだろう。

 能力の排除によって恩が売れた、それだけの事である。


「実を言うと、遠田には、もう一つ面倒事を頼んでるんだよ」

「何?」

「スキを見て、藤堂の携帯から、七原の写真を消しておいてくれ、ってな。七原からしたら、あんな写真が藤堂の携帯の中にあるのは気分がいいもんじゃないだろ?」


 一応、七原が後ろ姿の写真という配慮もしているので、今のままでも問題にはならないと思うが。


「それって大丈夫なのかな? バレたら紗耶との関係にヒビが入らない?」

「遠田も『何で、ここまで?』とは言ってたけど、最終的に受け入れてくれたよ。遠田は本当に良い奴だからな」

「そっか……なるほどね。そういう事があったんだ。本当に見えないところで色々と……」


 七原が小声で、ぶつぶつと呟く。

 取り沙汰しても長くなるので、俺は黙ってスルーする事にした。


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