エピローグ1
「じゃあ、ちゃんと事情を説明して貰うから」
「分かってるよ」
俺は仕方なく頷いた。
面倒だが、約束は約束だ。
「私が能力者だと知ったのはいつ?」
「三日前だよ。家に帰って、一眠りしようとしていると、優奈と麻里奈がやって来て、七原という能力者が俺を尾行していたと教えてくれたんだ」
「そっか。あの時から知ってたんだね」
「そうだよ。七原の能力がテレパシーって事も、そこで聞いた」
「私の力って、やっぱりテレパシーなんだ?」
「ああ、不完全だけどテレパシーだよ」
「不完全?」
「テレパシーっていうのは双子の能力のように、本来は双方向なものだ。七原の能力が一方通行なのは、さっきも言った通り、自分の意見が言えないという七原の性質が反映されてるってだけの事なんだよ。つまり、それは不完全って事になるだろ?」
「なるほど……最初から、そこまで分析されてたんじゃ、勝ち目ないね」
七原は感心と呆れが混じった顔で言った。
「優奈と出会ってしまったのが運の尽きだったって事だな」
「さっき紗耶が持っていた写真も、やっぱり優奈さん達が撮ったの?」
「ああ、麻里奈だよ」
「ってことは、私が戸山君の家に行くのも最初から分かってたって事?」
「いや。昨日の放課後は、優奈に七原の尾行を頼んでたんだけど、優奈は、すぐに七原に撒かれてしまった。その連絡が来た時、考えたんだよ。七原はどこに向かったのか――七原が、こそこそ隠れながら向かわないといけない目的地なんて一つしか思いつかなかった」
このこと一つを考えても、俺の作戦がどれだけ不確定なものだったかが分かる。
「なるほどね……じゃあ、次の質問。戸山君の家に居る時、上月さん達が犯人っていう話になってたでしょ。そのとき、戸山君が平然としていたのは何故? マズいとかは思わなかったの?」
「ああ、それに関しては問題無いと思ってたよ。もともと双子には悪役になって貰うつもりでいたし、双子が能力の消し方を知っているという情報も七原に知らせるつもりでいた。だから、七原が気付かなくても、こっちから話していたと思うよ。結局のところ、俺さえ疑われてなければ何の問題も無かった」
「ああ、そういう事か」
「むしろ恐れてたのは、七原と居る時間が長くなる事で、集中力を失って、俺がボロを出してしまう事だった。だから、優奈達には早く来て、場を荒らしてもらいたいと思ってたよ。打ち合わせはしてたから双子は上手くやってくれるって信じてた」
「あのドアの内側から心の声を聞くってのも最初から想定してたの?」
「いや、してなかったよ。だけど、双子には、いつ心の声を聞かれても良いように覚悟をしておいてくれと言っておいた。双子は普段からテレパシーを使っているんだ。思考からバレる事はないと思ってた」
七原は、うんうんと何度も頷く。
「返す返すも感心するよ。優奈さん達も戸山君も完璧に自分の役割を果たしたんだね」
成功とは口が裂けても言えない惨状だが、俺は黙って頷いた。
もっと良い方法があったはずだなんて、口にしても仕方の無いセリフである。
「ところでさ、これもずっと気になってたんだけど――今、守川君はどこにいるの? 戸山君が隠れててくれって守川君に頼んだんでしょ?」
「そうだよ。って、それは分かってたのか?」
「うん。守川君が、あの写真を見たからって、学校に来ないなんて事はないと思ってたよ。真偽を確かめる為に、私に見せに来るとか、そういう事をするでしょうね」
「そうだな」
さすが幼馴染みである。そういう心配はしなかったようだ。
「もし黒幕ってものがいるのなら、守川君に空気を壊されるのを一番先に嫌うと思ったのよ。だから、まず初めに、守川君を隠すだろうって」
「わかってるなあ」
「で、どこにいるの?」
廊下の窓から校舎の裏手にある鬱蒼とした森を見下ろす。
「守川に、どこかに隠れててくれって言ったら、『わかった。校舎裏の森に隠れておく』って言ったんだ。だから、あの中だよ」
「え? 本当に?」
「ああ。潜伏が長期にわたってもいいようにテントまで張ったらしい」
「た、楽しそうね」
幼馴染みでも、そんな事までするとは思わなかったようだ。
「電話で声を聞いた限り、本当に楽しそうだったよ」
守川には呆れるを通り越して感心してしまう。
「……あのさ。守川君、私達の写真の件については何て言ってた? 戸山君と関係が悪くなったりしてない?」
七原は心配げに言う。
「あいつは『祝福する』なんて事を言ってたよ」
「え」
「もちろん、否定しておいた――そんなんじゃないって」
「……そうなんだ。でも、戸山君って本当に嘘ばっかりだよね。守川君の連絡先は知らないって聞いてるんだけど、メールアドレスまで知ってるじゃない」
「そうだな。守川に連絡しろって言われた時は、正直ビクビクしてたよ。だから、次の時は携帯を見せろと言われてもいいように、父親と母親以外を全部消したんだ」
「全部消す必要はあったの?」
「嘘はシンプルにしておかないと、混乱してしまう。そうなれば、立ち所に七原が俺に疑念を持ってしまう」
「なるほどね。やっぱり詐欺師の才能があるよ」
七原は呆れ顔で、そう言った。




